↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/75

ソウルブレイカー

 ソウル・ブレイカーと呼ばれる相手に、二人は最大限の警戒で、すでに攻撃の準備を整えていた。


「ジャパニーズソードじゃないんだ?」


 俺の手に握られた白いロッドを見て、サイラスが軽く笑った。


「……生憎と、刃物は使ったことがないんでな」


 そのやり取りに恐怖を覚える。

 

 あまりにも緊張感がない。

 だが余裕とも違う。

 

 戦いという概念そのものが、彼の中に存在していないような静けさ。

 それは今まで、一度も苦戦したことがないと言っているようだった。


 ——最速で近づいて、一撃で倒す。

 サイラスから攻撃を喰らわないためには、それしかない。


 足を踏ん張り、チャクラを全身に巡らせる。

 次の瞬間、地面が砕けるほどの勢いで突進した。

 

 だが、俺の攻撃は、サイラスの体へ当たる直前に黒霧によって弾かれた。


「ごめんね、ぼくのAbyss Mist(アビス ミスト)は、どんな攻撃も効かないんだ」


 全身に薄く纏っているように見えた霧は、叩いた瞬間に弾力を持った壁のような手応えを返してきた。

 それは力押しではどうにもならない、無敵の防御力を持っていた。


 サイラスのゆるさ。

 その正体を理解した。


 ビルを破壊できるような攻撃を無効化するなら、きっと恐怖など感じない。

 魂を直接攻撃できるなら、どんな相手も殺せる。

 

 最強の盾と最強の鉾を持った存在。

 まさに、世界一の国家が造り上げた無敵の兵器。


 ——倒す手段が思いつかない。


「今度は、ぼくからいくね」


 サイラスが呟くと、彼の背中に霧が集まり、黒い翼のような形を作り始める。

 アッシュグレーの瞳は、青白い光を灯し、魔力の高まりを示していた。


「安藤さん!弾丸が来ます!全部避けて下さい!」


 これから繰り出される攻撃を知っているかのように、文翔が即座に指示を飛ばす。

 その声へ呼応するかのように、翼から黒い塊が連射された。


 機関銃の弾を思わせる勢いで降り注がれる塊は、弾幕となって二人へ襲い掛かる。


 俺はそれを全力で回避し続けながら、文翔へ声を掛けた。


「大蔵!大丈夫か!」


 余所見をする余裕はない。

 弾丸よりも早い攻撃は、躱すだけで手一杯だ。


「私のことは気にしないで!それよりも彼の隙を見つけて下さい!彼は戦いの素人です!」


 頼りになる。

 素直にそう思った。


 文翔とは会ったばかりだったが、さっきから安心して背中を預けられた。

 飛んで来る黒弾をロッドで撃ち落とし、サイラスの攻撃を観察する。

 

 威力は、防弾仕様らしきSUVを一瞬でスクラップにするほどあり、おまけに弾切れの気配はない。

 よく見ると、鳥の羽みたいな形をしていて、背中の羽からマシンガンのように発射されている。

 

 体に掠っただけで、魂を直接殴られたような激痛が走り、思わず動きを止めてしまいそうになった。

 きっとまともに喰らったら、そのまま魂が破壊されてしまうのだろう。

 

 だが、フェイントを掛けながら必死に避けていると、そこに規則性が見えてきた。

 

 ひとつは、攻撃の継ぎ目があること。

 おそらくはサイラスの呼吸に合わせて射出されている。

 

 もうひとつは、攻撃すると黒霧が薄くなること。

 サイラスの背中に生えている黒い翼が、射出直後だけ一瞬消えていた。

 

「カウンターでいけるかもしれねぇ……」


 文翔の近くに寄り、短く呟く。


「ならば攻撃は胸を狙って下さい、呼吸が止まれば魔力も止められるはずです」


 ただ近づいただけだと、サイラスから噴き出す黒霧で魂が侵食される。

 霧が薄くなった瞬間に、攻撃を当てなければならない。


「もし、攻撃を当てられたら、あとは私がなんとかします」


 文翔の周囲には、羽の弾丸を防ぐように円形のバリアが張られていた。

 しかし、攻撃を喰らう度に、その顔には疲労の色が濃くなっていく。

 

 おそらく耐え続けることは無理だろう。

 

「……任せたぜ」


 サイラスを観察し、呼吸を盗む。

 武術の基本だ。


 ホンシアの下で修行に明け暮れた日々で、俺は数えきれないほどの技術を叩き込まれた。

 その中でも、呼吸の大切さは身に染みている。


 呼吸ひとつで、相手の強さがわかるくらいに。


 おそらく、サイラスは戦闘訓練を受けていない。

 文翔が言った通り、彼自身の戦闘力は素人と大差ないのだろう。


 鍛えることを必要としないほどの能力を持っているせいかもしれない。

 だから、呼吸が簡単に盗める。


 俺は自然体になり、ゆっくりとサイラスに近付いていく。

 

 呼吸を読み、攻撃の間を抜く動き。

 先ほどのような力任せではなく、ホンシアたちから教わった幻惑の歩法を使い、相手の視界と感覚を乱しながら黒弾を躱していく。


 羽の弾丸は、速度や威力共に申し分ない。

 だが、単調だ。

 なにより魂を狙っているせいか、比較的頭に攻撃が集中していた。


 一歩、また一歩と間合いを詰めていく。


「ニンジャ?」


 サイラスが、不思議そうに呟いた声が聞こえるくらいにまで迫っていた。

 頭にオーラを集中し、彼の周囲に散らばる黒霧の侵食を防ぐ。


 俺の攻撃範囲に入っても、サイラスは警戒をしない。

 全身に薄く纏う黒霧の絶対防御に、よほど自信があるのだろう。


 さっきの一撃でわかったことがある。

 

 どんな威力でも弾き返す、理不尽なまでの防御力。

 だけど、彼は息をして、服を着て、アクセサリーを首から掛けている。

 車に乗って地面を歩き、ここまで来た。


 つまり、すべての物を弾いているわけではない。

 

 しかも、彼の反応は素人だ。

 危害が及ぶような鋭い攻撃だけを、自動的に弾いているのだろう。


 サイラスが息を吸って、吐く。


 俺の目の前に、数十枚の黒羽が現れた。

 すでに躱せる距離ではない。

 だが、周囲に漂う黒霧が羽となって薄くなった瞬間、そこへ一歩踏み込んだ。

 

 そして俺は、握手を求めるように柔らかくロッドを前に出し、サイラスの胸にそっと当てる。

 

「なに?」

 

 羽が射出される直前、キョトンとした彼の顔が目の前にあった。

 

 次の瞬間、右肺めがけて服ごとロッドを押し込む。

 俺の馬鹿力により、白い棒はサイラスの体に埋まり、そのまま先端が背中へ抜けた。


 空中に生成された黒羽が霧散し、周囲の冷気もふっと消える。

 

 サイラスは目を見開き、胸元に刺さるロットを見つめていた。

 そして、自分に何が起きたのか理解できないように、不安げな瞳でこちらへ視線を向ける。

 

 散歩中に、突然暴漢に刺された。

 そんな理不尽な驚きがその顔には浮かんでいた。


 最初から、彼の瞳は戦士の覚悟を宿していなかった。

 ただ、命令されたからここにいるだけ。


 戦場においての受け身な姿勢は、思考の放棄。

 致命的な隙だった。


 サイラスが口から血を吐き、地面へ崩れ落ちる。

 俺は、とっさにそれを支えて叫んだ。

 

「大蔵ぁ!どうする!?」


 覚悟の無い相手を殺したくはなかった。

 だが、回復させたらこっちが殺されるし、能力を考えたら拘束も意味がない。


 このままでは見殺しにするしかない状況で、俺は文翔を頼った。


「任せて下さい、魂を介して直接説得します」

 

 駆け寄ってきた文翔が、サイラスの額に手を当てる。


「彼の頭に入ります、手伝ってくれますか?」


 そう言って、俺に向かって手を伸ばし、真剣な表情でこちらを見据える。

 

 説得に失敗すれば、サイラスを殺すしかないだろう。


 文翔の口ぶりだと、こいつもフォンリンと同じ実験体。

 つまり俺と同じような境遇だった。


 ならば何としても救いたい。


「ああ……やってやる、どうすればいい?」


「私の手に頭をつけて下さい」


 伸ばされた手のひらへ、汗にまみれた頭をつける。


「ではいきます……彼を救いましょう」



 こうして俺らはサイラスの中へ入っていた。

 そのことが、俺にとって予想だにもしない不幸を産むことになると知らずに——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。