↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/75

教祖誕生

 Rod Ascension Church。

 通称Rod。


 この組織の教義や構成を記した資料を、目の前に座った拓人は真剣に読み込んでいた。

 

 「どうだ?中々の出来栄えであろう?」


 我ながら素晴らしい出来だと自負しておる。

 これならば、二千年の時を経ても色褪せず、脈々と受け継がれていく宗教となるはずよ。


 タクトが既に雛形を作っておいてくれたから、さして手間もなくことを運べた。


 元よりあった、掟に背いたら骨を折るという制度。

 中々に厳格な規則だ。

 

 うぶな顔をしてからに、締める手加減せぬところなど、まさに上に立つ者の証。

 しかも、幹部たちの話によると、自らも御父様からその罰を率先して受けたという。

 下に模範を見せる姿も堂に入っておる。


 おかげで矯正の受け入れも、さして抵抗なく進めることができた。

 前と比べると、かなり優しくしてしまったかもしれん。


 タクトには甘いと言われるやもしれんが、根底に愛がなければ人は付いて来ぬ。

 そこら辺も教えてやらねばなるまい。


 だが、タクトは優しさを持ち得ておるし、御父様を目指しておるのだ。

 ならばこの愛のある導きも受け入れられるだろう。


 きっと、やり方がまだわからんだけなのだ。

 過酷な幼少期を経て、暴力という手近な方法へ走ってしまったのだろう。


 今後は、妾が身近で細かく教えてあげねばならぬな。

 ここに住まわせ、愛のなんたるかを伝え進ぜようぞ。


 すでに、部屋は隣り合わせで用意しておる。

 ゆくゆくは一緒の部屋に出来るよう改築も済ませた。

 まあ、なんだ……夢を叶えた後にはそ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)もあるだろうからな。


 だが、まだ駄目だ!


 妾へ夢中に成りすぎて、目的がおろそかになってはいかん!

 あくまで悲願を成した褒美として賜わすのだ。

 

 タクトはまだ若い。

 情欲を持て余すこともあるだろう。

 しかし、それを御してこその修行だ。


 自身を正し、律することを覚えさせねばならぬ。

 

 そのために、少々扇情的な寝巻きも用意した。

 以前のように、寝る前まで話をする時に着用する予定だ。

 

 ベッドで隣に座り、彼奴が盗み見る視線を堪能し、昂ったところで躱すのだ。


 辛いだろう!苦しいだろう!

 だが!それがタクトの精神を高めると信じておる!

 

 そのために、百着以上の寝巻を揃えた。

 彼奴の目を飽きさせんためだ。

 決して楽しみにしておるわけではない。


 我慢が効かず躱し切れなければ、などの心配もない。

 彼奴は、すでに戒めの心を持っておる。

 

 現に、以前この妾が密着しても、指一本触れようとせなんだ。

 その自制心たるや、キリスト教で最も戒律が厳しいトラピストたちのようだ。


 妾もムキになり、色々と試みたが、彼奴はそれを耐え抜いてみせた。

 明らかな動揺を見せながらもだ。


 そのなんと素晴らしいことか!

 

 心が揺れながらも律する。

 それが何より難しいのだ。


 思わず妾のでき得る限界まで試してしもうたわ。


 思い返すと、少し……恥ずかしいことをやらかしてしまったかもしれん。

 だが、それもすべてタクトを高めるための試練よ。

 致し方がなかったといえよう。

 

 再度誓おう!決してタクトが頬を染める姿を楽しみたかったからではない!


 こちらに越して来た際には、また試練の日々を送らせねばなるまい。


 心を鬼にして、毎晩ネグリジェを着てタクトの寝室に——


「……なあマリア……これ何だ?」


 タクトが資料を見ながら、眉間に皺を寄せて妾に問うてきた。

 どこか引っ掛かるところでもあったのだろうか?

 

「教義と構成員は、わかりやすくまとめたつもりだが……」


 仕方がない、生徒を教えるのが教師としての役割よ。

 妾は施設の応接間にて資料を広げ、一時間以上かけて詳しく説明を始めた。


「……以上が組織の枠組みよ」


 これで理解できたであろう。

 自身を教祖とした、完璧な宗教団体の設立が成された事実を。

 妾のサプライズは、きっとタクトを喜ばせたに違いない。


 それを確信し、目を細めていた。


 「どうかの?そなたの為に妾が創り上げた教団は?」


 妾は自信満々に手を広げた。

 周囲の十二人が、それを合図として一斉に拍手をしだす。


 拓人はその光景を見て、眉間の皺をさらに深めていた。


 まだ何か気になることでもあるのだろうか?

 手を下ろし、信徒たちの拍手を止めさせる。


 やはり、矯正が緩いと思っておるのか?

 しかし、そこは譲れぬ。

 痛みの恐怖で人を縛ることは、御父様が望まれぬ道よ。


 気づけ、拓人!

 痛みではなく、愛と信仰で人を導くのだ!


「納得いかぬこともあるだろうて……だが!そなたは御父様に並ぶのであろう!テラを倒すのであろう!」


 Rodを設立中に、御父様よりお聞きした。

 

 拓人がテラと戦ったと。

 自ら立ち向かって行ったのだと。


 その行為の尊さを想い、涙が止まらなかった。


 タクトが抱いていた黄金の覚悟。

 その魂の輝き。


 彼は紛う事なき本物だった。


 人の身で、テラへと立ち向かう恐怖は計り知れない。

 妾も、千五百年前に一度戦ったことがあるので身に沁みておる。

 兄弟たちを何人も失った痛ましい記憶と共に。

 

 最恐の存在、人類の天敵、厄災そのもの。

 神すらも殺し得る化け物。


 そんな相手に、一対一を望んだという。


 まだ早いのは理解していたはず。

 無駄死にとなることも。

 

 しかし、我が妹を——神の子を馬鹿にされて憤ったらしい。


 その尊い行為に報いねばならぬ……絶対に。

 我が生涯を懸けてでも。

 この身をすべて捧げてもだ。


 湧き上がった熱意は、すべて教団の設立に注ぎ込んだ。

 だからこそ、この教えを受け入れて欲しい。

 

 一人では無理なのだ。

 人類神ですら、相打ちでしか倒す方法のない相手よ。


「その大望を果たすには!人を束ねて己の槍にせよ!拓人!」


 想いを言葉に乗せる。


「そのために受け入れるのだ!我が……愛の導きを!」


 思わず立ち上がり、声が震えるほど叫んでしまった。

 

 熱が入り過ぎているのはわかっている。

 しかし、この想いは止められぬ。

 人類の命運が掛かっておるのだ。

 

 それは妾とタクトの未来。


 熱気に押されたように、タクトがゆっくりと口を開いた。

 

「愛の導きってのは……この洗脳とかいうのもか?」


「そうだ!御父様もテラを倒すためにやっておった!」


「……この拉致や隔離というのもか?」


「そうだ!それも御父様はテラを倒すためにやっておった!」


「……そうか」


 タクトが腕を組み、苦悩の色を浮かべる。

 きっと、どう実行すべきか分からないのだ。


「御父様と同じように、愛を持って事に当たれば、決して不幸は生まぬ!」

 

 やり方が分からぬなら、妾が一から教えよう。

 すでに彼は、自分一人の身ではないのだから。


「それに妾は、そなたにもう命を投げ打つような真似をしてほしゅうない……」


 思わず瞳が揺れてしまう。

 偽らざる、心からの願いだった。


 テラへ挑んだことに深く感動をしていたが、流した涙には憂慮も宿っていた。

 心配で体の震えが止まらなくなるほどに。


「必要なのだ……いざという時、世界を守れる救世主となる存在が」


 現時点で御父様に代わる存在はいない。

 

「もしテラの呪いが解けて再び自由になった時、御父様がいない場合だってある」


 未来に起こり得る現実。

 

「そんな時に人類を救うのは……」


 誰を頼ればいい?

 

「タクト、そなたしか……いないのだぞ……」


 人類の希望。

 信徒の光。

 

 私の、特別な生徒。


 

 周囲から啜り泣きが漏れ出す。

 十二人の幹部が、妾の言葉に耐え切れず、体を震わせていた。


 思えば、こやつらもよく付き従ってくれた。


 御父様の奇跡を受け、人を超えようと研鑽を積み、己の使命へと目覚めていった。

 すべてはタクトを支える棒となるための進化だ。

 

 彼らの新たな名は『十二棒』。

 一人一人の力はまだ弱い。

 だが、その先必ずやタクトの力となるだろう。


「……とりあえず、わかった」


 タクトが何かを呑み込むように、息を深くした。

 どうやら想いは届いたようだ。


 必ずや、理解してくれると信じておった。

 さすがは妾が見込んだ男よ。


「だが……確認したいことがある」


 タクトが周囲を見渡し、一番背の高い十二棒の一人へ視線を向ける。

 

「杉本!お前はこれでいいのか!?」


 怒鳴りつけるような声。

 その瞳は、螺旋を宿し殺気すら放っていた。

 おそらく、彼らの覚悟を問いたいのだろう。

 

 それに、拓人が十二棒たちの元の呼び名を口にしたが、こやつらはすでに名を捨てておる。

 魂までもRodとして生きることを選んだのだ。

 

「戒棒(かいぼう)です!教祖!私は司教マリアの教えを心の柱として、生涯尽くすことを誓いました!」

 

 濁流のような涙を流しながら、直立不動で答える男。

 戒棒は十二棒の中でも、妾が最も信頼する信徒だ。

 その実直さは褒めるに値する。

 妾の言葉を良く理解し、皆に伝えることに関しては右に出る者はおらぬ。


「スナドリ!お前はどうだ!?」


「武棒(ぶぼう)です!教祖!私は、来たるべき人類の脅威を討つ役目を頂き、命を懸けて信者を鍛えることを誓いました!」


 十二棒の中で、最も屈強な男。

 武棒は人を育てるのが上手い。

 だから、戦士の育成を担わせておる。

 いざという時に、タクトの盾となれる鋼鉄の体を御父様から授けて頂いた。


「ナッツ!お前は?」


「医棒です!教祖!私は、人を治癒する力を神から与えられました!それを活かす道に進むと誓いました!」


 治癒の力を開花させた医棒がいるおかげで、修練において多少の無茶が出来るようになった。

 信徒へ進化を促す役割も担う非常に有用な人材だ。


「オガ!」


「財棒(ざいぼう)です!教祖!私は、元々チームの資金運用を任されてましたので、それを活かし教会の運営を行うことを誓いました!」


 財棒の資産管理能力は中々に素晴らしい。

 所帯が大きくなると、金銭問題も多々出てくる。

 それら財務を安心して任せられる存在だ。


「坂戸(さかと)!」


「技棒(わざぼう)です!教祖!私は、元々ネット関係に詳しかったのでそこを見込んでもらい、情報戦では他の追随を許さないことを誓いました!」


 今の世の中、インターネットを駆使出来ぬと話にならない。

 その意味で、技棒は一番重要な人物ともいえる。

 巨額を投資して機器を揃えたので、大いに働いてくれておる。

 

「ガセ!」

 

「儀棒(ぎぼう)です!教祖!私は、アイドルオタクだったので、布教のためのアイドルグループを作り、世界一のアイドルを育てることを誓いました!」

 

 古来より、信者を集める花形はあった方が良い。

 そのために、儀棒には信者の中からいくつかのアイドルグループを作らせ、すでに活動は始まっておる。

 ファンを取り込み、Rodに対する一般大衆の受けを良くする効果も見込めよう。


「キョウ!」


「声棒(せいぼう)です!教祖!私は、カラオケが得意で声に自身があったので、音響担当として信者へ導きの声を届かせることを誓いました!」


 声棒は声が良い。

 そして音を操ることに長けている。

 信者を洗脳する際の特殊な音の開発にも一役買ってくれている。

 ついでにアイドルの育成も手掛ける多才な男だ。


「ナオフミ!」


「書棒(しょぼう)です!教祖!私は、元々趣味で小説を書いてました!今は司教の教えを書き記す役目を全うすることを誓いました!」


 宗教というのは、日本において敬遠されやすい。

 ゆえに取っ掛かりの良い文にて、活動内容を広めねばならん。

 そのために、書棒には様々な手法で広告を書いて貰っている。

 もちろん、妾の教えを信者にわかりやすく伝える役目も励んでおる。


「ラリー!」


「夢棒(むぼう)です!教祖!私は、元々ドラッグに手を染めておりました!しかし、今は信仰という新たなドラッグにすべてを捧げることを誓いました!」


 夢棒は薬物に依存しかかっていた。

 しかし、信仰の素晴らしさに目が覚めた。

 そして今は神の輝きに魂がキマっておる。

 

 見てみよこやつの瞳を。

 以前は濁り切っておったのに、今は光り輝いておるわ。

 御父様から賜わった他者の精神に影響を及ぼす術。

 それは様々な用途があり、教団にとって有能な人物として生まれ変わった。

 すべては神の奇跡によるものだといえよう。

 

「オビ!」


「民棒(みんぼう)です!教祖!私は、元々弟の付き添いでロッドにいました!」

 

 彼の元の名は尾日向 真弘(おびなた まさひろ)。

 尾日向優、つまりビナの兄だ。

 

「でも今は信者が幸せに過ごせることを考え、皆に愛を伝えると誓いました!」


 手のかかる弟の尻拭いばかりする優しい男で、そこが他の十二棒とは一線を画す。

 元来の優しさからか、信者の安寧を心から求め、それを保証することに全力を注いでおる。

 そのような者がいてくれれば、他の者は安心して各々の作業に没頭できるというもの。

 なにより、他の十二棒すべてと連携が取れ、調整してくれる。

 ある意味、十二棒の要となる男だ。


「……ビナ」


「影棒(えいぼう)でーす!キョウソー!ボクはー、ウラシゴトをやってまーす!Rodの害となるものぜーんぶショリすることを誓いましたー!」


 影棒は、タクトと最も仲が良かったらしい。

 冷静さと残虐性を併せ持つ、稀有な人材だ。

 組織の中には、必須ともいえる者だろう。

 汚れ仕事は誰もが厭うもの。

 それを率先して行う者は、代えがたい人材となり得る。


「なあビナ……本当に今のロッドでいいのか?お前は自由な暮らしが好きだったじゃねぇか」


 妾は、眉を寄せてビナを見つめるタクトの視線に、慈愛を見い出す。

 

 彼はきっと昔から仲間を思いやっていた。

 優しさを知らずに育ったはずなのに。

 

「ボクはさ、ずーっと思ってたんだー。ひとに優しくできないのはなんでだろーって」


 拓人の言葉を受けて、ビナは無邪気に語りだす。

 

「ひとの骨を折っても心がまったく痛まない。泣いてても、ゆるしてって言ってても、ぜんぜん気にならない」


 心の内をすべて曝け出すように。

 

「だから、ボクはひとの世界で生きてちゃイケナイんだろうなーって思ってた。実のアニキが優しいから、よけいにねー」


 そう言ってオビをチラッと見た。

 

「で、強くならなきゃーって。強ければ、優しくなくてもロッドみたいな生きていい場所ができるでしょー?」


 他者とは違うという孤独。

 それはある意味、アキラと会う前の拓人と同じだった。

 

「でもね……神がおっしゃったんだ」

 

 ビナが、子供のような満面の笑みを浮かべる。


「ボクは『そのままでいい』って!『君は英雄の素質がある』って!」


 その瞳は、拓人が今まで見たことがないほど輝いていた。


「うれしかったなー……ボクに『生きていてくれてよかった』って言ってくれた……」


 潤んだ瞳は、告げられた言葉を噛みしめているようだった。

 

「いろんな人にきらわれて、こわがられて、はじかれたボクを、『人類の宝だよ』って言ってくれたんだ!」


 きっと何度も思い出しているのだろう。

 一語一句、心へ刻み込むように。


「だから今は、ボクがボクで良かったって、心から思えてるんだ」


 存在の肯定。

 ずっと欲しかった言葉を、彼の信じた神から直接告げられていた。

 

「それに影棒って役目が出来たからね。ボクはいま、この仕事をするために生まれてきたって思ってる」


 ビナが呼吸を深くした。


「神から与えられたこの力も……そのためのものなんだ」


 ビナの腹部に、チャクラが渦を巻いていた。

 体にうっすらと赤黒いオーラが滲む。


「……ビナ、それはどうした?」


 拓人が目を見張り、ビナのチャクラに驚きを示す。


「そう、キョウソと同じ力だよー!ボクはこれでキョウソの役に立つって決めたんだ!」


 誇らしげに胸を張る姿は、自分の使命を見つけた喜びに満ちていた。

 

「神が望んでくれたことだし、キョウソのことも昔から大好きだしさー!」


 年相応に笑う。

 しかし、その瞳には確かな覚悟が宿っていた。


「……そうか」


 拓人は、溜息を吐いて安心したように頭を掻いた。


「正直よくわからない部分もあるが、皆が無理強いされてないってのだけはわかった」

 

 全員を見まわし、軽く頷く。

 

「なら、お前たちに俺から言うことはない」


 眉間の皺がようやく緩んだ。


「後はマリアと話があるからよ、ちょっと席外してくれ」


 それを受けて、十二棒たちは胸の前で手を縦にした。


「……あ、ビナ、ちなみにさっき言ってた神って……アキラだよな?」


 拓人はビナに向かい、確認するようにその名前を告げた。

 

 すると十二棒全員が姿勢を正し、一斉に口の前に指を立て、同時に声を上げた。


「「「教祖といえど、神の名を口にしてはいけません……」」」


 全員が座った目で、仄暗い光を宿しながら教祖へ勧告する姿は、間違いなく狂信者を表していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。