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大人になれるもん

「だからねホンちゃん、暴力で解決していいのは紀元前までだよ」


 リビングにはいつの間にかアキラが来ており、ホンシアが正座でお説教されていた。


 哲夜が機転を利かし呼び出したようだ。


 雪乃は、アキラを見ると慌てて帰ってしまった。

 おそらく哲夜が辛く当たったせいだ。

 

 本当にこいつは遠慮というものがない。

 見ていて可哀想だった。


「……お前のせいだぞ」


 腹をさすりながら哲夜を責める。

 ホンシアの一撃がいまだに効いており、内臓が痛みを訴えていた。

 

 哲夜があんなに怒らなければ、雪乃も泣かなかったしホンシアも暴れていない。

 この事態を引き起こしたことを反省しろと伝えた。


「フン、知ったことか!自業自得だ!」


「もう少し、言い方ってもんがあるだろうが!」


 泣いている女子へ追い討ちをかけるのは、いくら何でもやり過ぎだ。


「アキラも……その子を許してやってくれ」


 正座したまま泣いているホンシアへ、助け舟を出す。

 きっと実年齢は違うのだろうが、小学生くらいに見える子が怒られ続けるのは忍びない。


「ありがとう拓人。ほら、おいでホンちゃん」


 アキラが娘に向かい両手を広げる。


「……爸(バー)!四十年振りネ!会いたかったヨー!」


 ホンシアは丸っこい体型で飛び上がり、弾丸のような速さでアキラの胸に飛び込んだ。

 オイオイと泣きながら抱きつく姿を見て、俺まで涙ぐんでしまう。


 あの時、俺も泣きながら縋りついた。

 やはりアキラに対しては、友達というより父性を感じてしまう。


 もし、アキラの娘と結婚したら、本当に彼がお父さんになる。

 そしたら、昔見た教育番組みたいに家族一緒に住めるのだろうか。

 俺が肩を揉んだり、背中を流してあげたり、その日あったことを話したりできるかもしれない。


 それ、いいな。


「おい長ネギ!何をニヤニヤしてる、気持ち悪いな」


 哲夜の言葉で現実に引き戻された。


「……いや、自分の将来を考えてな……」


「フン、どうせまたエロいことでも考えていたのだろう」


「違う!アキラの娘と結婚したら、どうなるか考えていただけだ!」


 こいつ、完全に俺がエロいことばかり考えてると思ってやがる。

 

 俺はそういうことを諦めていたから、むしろあまり考えないようにしていた。

 まるで普段からそんな奴だと思われたなら心外だ。


「そうだ、それならちょうどいいね」


 アキラが、抱っこしているホンシアを下ろして頭を撫でた。


「この子はホンシア、僕の自慢の娘だよ」


 嬉しそうに目を細めている彼女をあらためて眺める。


「拓人の結婚相手にどうかな?」


 どう、と言われても小学生にしか見えない。

 

 マリアも外見は中学生くらいに見えたけど、威厳と落ち着きがあった。

 中身も大人びていたし、一緒に過ごせば尊敬出来る部分が多かった。

 普通に考えれば結婚相手としては申し分ないだろう。

 

 まあ、断られたけどね。


「なんの話ネ?」


「彼は安藤拓人、とっても素敵な頑張り屋さんなんだ、僕の大切な友達さ」


 アキラが俺を真っ直ぐ褒めてくれる。

 思わず照れてしまい、頭を掻いた。


「お婿さんにどうかなと思って、ホンちゃんを日本に呼んだんだ」


 アキラの言葉を聞いて、ホンシアがあらためて俺を見る。

 糸のような細い目を開けて、品定めをしているようだ。


「でもコレ、我(ウォー)より弱いネ」


 完全な格下扱い。

 下手すりゃ“物”扱いだ。


「弱い男に興味はないヨ」


 彼女の好みは、自分よりも強い男らしい。

 

 俺のオーラを突き破って内臓を揺らした攻撃は、いまだに痛みが残っていた。

 なにより、近づかれたことに気付けなかった。

 

 おそらく並の実力者ではないのだろう。


「ホンちゃんより強い男なんて、世界でたぶん僕しかいないよ」


 どうやら並とかそういうレベルじゃないらしい。

 本当にテラに近い存在だった。


「なら爸(バー)と結婚するネ!」


 ホンシアがアキラへ再び飛びつく。

 

「もう、ホンちゃんは甘えん坊さんだなあ」


 球のような体を抱きしめながら、目尻を下げるアキラは、どうみても娘に甘い父親だった。


「フン、ファザコンめ、アキラの娘は全員そうなのか?目の前でベタベタしおって……」


 哲夜が、その姿を見て鼻を鳴らす。

 言葉の端に、ホンシアへの嫉妬が見え隠れしている。

 

 アキラが父親ならファザコンも仕方ないと思う。

 実は俺も、抱っこをされてみたかった。


 生まれてから一度もされたことがないから、憧れに近いものを持っている。


「あの女、さっきから生意気ネ!」


 アキラに抱かれながら、ホンシアが哲夜へ指を差して怒りを見せる。


「ちびっ子の方が生意気だろうが、怒られてメソメソしてた癖に」


 こいつは、相手を挑発しなければ気が済まないのか?

 いつか口が災いして死ぬと思う。


 俺がちゃんと守ってやらないと。


「誰がちびっ子ネ!そこまで言うなら本当の姿を見せてやるヨ!」


 ホンシアがアキラから飛び降り、呼吸を練る。

 部屋のガラスが震えるほどの強い息吹が響いた。


 肺と腹の膨らみに呼応して、彼女の体に黄金のオーラが纏われていく。

 それは俺が出す色と同じものだった。

 

 だが、俺のオーラよりも輝き、プラチナのような白みを帯びていた。

 

 そして、ゆっくりとホンシアの輪郭が変わっていく。

 

 骨格が軋み、身長が見る間に伸びる。

 小さかった手足が長くなり、幼い顔立ちも瞬く間に変わっていった。


 気づけば、そばにいるアキラの背を超えて、俺と目線が同じ高さになっている。

 変化した体は、太ってはいないが肉厚的で、胸や尻も成長し過ぎて子供服がはち切れそうだ。


 その美しさは妖艶な気配を帯びており、見つめていると頭が熱くなってしまった。

 

 妖狐とでも言われれば、納得してしまいそうな怪しげな雰囲気。

 まさに、人外の美しさを誇る、蠱惑的な美貌の女がそこにいた。

 

「これでも我はちびっ子カ?オマエの方がちっこいネ!」


 負けず嫌いを絵にかいたようなセリフを吐いて、哲夜を見下ろすのは、間違いなく劉紅霞(リウホンシア)本人だった。

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