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今日から俺らは

 俺は、アキラと賢治の飛んでいった夜空を見上げていた。


「……どこまで行ったんだろうな」


 まさか太陽までは行ったのかと思い、哲也に聞く。


「アキラの行動範囲は50キロ以内と言っていたからな、成層圏内だろう」


 あまり詳しくはわからないが、近場まで飛んだってことだろう。


「……これで良かったのか?」


 賢治はアキラの誘いに乗ってくれるのか、わからないままだった。


「ああ、きっと上手くいった」


 哲也は迷いなく言った。

 アキラへの信頼が、その表情には滲んでいた。


 ここに来る前、アキラに同行を頼まれた時は気が進まなかった。


 あの施設は、俺にとって嫌な思い出しかない場所だ。

 それを再開させたいなんて、どうかしてると思った。


 だけど、アキラは言った。

 あの場所のおかげで救われた子供たちがいたはずだ、と。


 人とは違う異能を持った子供たち。

 彼らは親に見捨てられることが多いらしい。


 事実、自分がそうだった。

 居場所のない子供たちを救いたいと言われ、一緒に行くことを決めた。

 

 とはいえ、俺がいたら逆効果になるとも思っていた。

 なにせ、美藤を痛めつけて脱出したのだ。


 だけどアキラは、思っていることをそのまま伝えてくれればいいと言ってくれた。

 だから、電車で向かう際中、あの生活と美藤のことをあらためて考えた。


 すると、美藤は俺が思っていたような、単純な悪人ではなかったことに気がついた。

 

 もちろん、過酷な実験や過度な検査が辛かったのは事実だ。

 それを指示していたのはアイツで間違いない。

 

 でも、普通じゃない俺を受け入れ、普通に生きていくための教育を施し、一応名前もくれた。

 少なくとも、社会で生きるための最低限は教えてくれていた。

 おそらく莫大な金と時間をかけて。


 そう考えてしまうと、いま生きているのは美藤のおかげでもあると思えてしまった。


 たとえ寝ずにマラソンさせられたり、体が押しつぶされそうなほどの重りを乗せられたりしたとしてもだ。


 俺がどれだけ異質な存在でも、捨てられることはなかった。

 実の親にすら、捨てられたというのに。


 俺は、そんな彼の骨を折ってしまった。

 過去を冷静に思い出した結果、申し訳ないと素直に思えた。


 だから、本人に謝ろうと決めて会いに行った。

 そして、ちゃんと伝えられたと思う。


 アキラのおかげで過去を清算出来た気がして、妙にスッキリしていた。

 

「晩飯を喰ってから帰るぞ!」


 哲也がのんきに腹をさすっている。


「……終電逃すだろ、向こうに帰ってからな」


 時計を見ると、すでに遅い時間となっていた。

 

 京浜東北線の蕨駅へ向かい構内に入ると、外国人が異様に多いことに気づく。

 その中ですら俺たちは目立ってしまい、ジロジロと見られてしまう。


 バチカンから長い時間かけて帰って来たばかりだ。

 正直、今すぐにでも休みたい。


「アキラから、クレジットカードを好きに使っていいと言われてるからな、腹一杯食おう」


 それはバチカンへ行く前に預かったもの。


「……いや返せよ、旅行用に借りただけだろ」


 こいつの倫理観とか常識はどうなってるんだろうか。


「フン!アキラから返せと言われるまでは返さん!」


 普段の態度といい、どこまで本気かわからない。


「……いいから返せって」


 手を伸ばしてカードを奪おうとしたら、哲也が避けた。

 そのせいで、電車を待っている人にぶつかってしまった。


「……スマン」


 思わず謝ったが、相手は俺を睨みつけ、舌打ちをした。


「カップルでイチャつきたいなら、ホテルにでも行けよ!」


 以前なら、秒で黙らせたような態度を取られたが、今の俺はもうそんなことをしないと決めていた。

 それ以上に、言われた言葉が頭を回る。


 カップル……ホテル……。


 よくない想像が湧いてしまった。

 そういえばここへ来る前も、とんでもない状況だった気がする。

 ベッドの横で、裸になっていた哲也の姿を思い出してしまった。


「なんで前屈みになってるんだ、ぶつかって怪我でもしたのか?」


「……いや、なんでもない」


「おい、電車来たぞ」


 帰ったら続きをするかもしれない。

 そのことを考えてしまい、変な体勢のまま電車に乗り込んだ。


 下ろしたての革のパンツは、まだ固さが残っていてまったく伸びてくれない。

 動きづらいし、蒸れるし、棒は痛くなるしで最悪だった。


 だが、それを選んだのは俺だ。


 マリアの攻撃でボロボロにされたから、似たようなのを三本も買ってもらった。

 

 『他は良いのか?』と聞かれたが、『皮パンは俺の体の一部だ』などとほざいていた自分を殴りたい。


 革ジャンや革パンは、バイクへ乗る時にカッコいいから着ているだけで、ハッキリ言って不便だ。

 だいたい、俺のタッパだとサイズも特注になるし、喧嘩で防御力が高いっていうけど、自前の皮膚の方がはるかに強い。


 カビるし、メンテは面倒だし、何より冬は寒い。

 俺が着てるからメンバーも真似してるが、よく考えたらもっと着やすい服の方がいいな。

 

 決めた、もうジャージで統一させよう。


 今度の幹部会で、ロッドのメンバーはダサいイモジャージを着用するってルールを作る。

 そうすればアイツらも女にモテなくなるだろう。


「おい、なにニヤついてるんだ?気持ち悪いな」

 

 哲也が眉を寄せて、こちらを見ていた。


「……いや、ロッドの服装を統一させようかと思ってな」


 イモジャージに。


「そういえば、その革服ってかっこいいよな。オレも今度買うから、売ってる店を教えろよ」


 イモジャージやめた。


「……分かった、連れて行ってやる」


 哲也とお揃いで着るのも悪くない。

 手入れの仕方を教えてやろう、結構コツが必要なんだ。


「お、もうすぐ着くぞ、とりあえずメシだメシ」


 気づけば最寄駅に着いていた。

 確かに、機内食を食べたきりで腹が減っていた。


「……この時間じゃ、ファミレスしかねぇな」


 スマホで駅周辺の食事処を探す。


「すぐに食えるなら、どこでもいいぞ」


 こうして、帰る前に二人で遅い晩飯を食べるために歩き出した。

 

 アキラに与えられたマンションで、今日から俺らは一緒に暮らす。

 どんな生活になるかはわからないが、監獄だって楽しめたんだ。

 きっと、悪くないものになるだろう。


 月に照らされながら、いつもより軽い足取りで、夜道を友達と並んで歩いた。

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