第2話 「片手プレイで怪異を初狩りしたら、部屋に『本物の戦利品』が落ちてきた」
17:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:35:40.12 ID:x8J9aK10
おいスレ主マジで返事しろ!!
画面の中のドット絵の敵、完全にブラウン管の「こっち側」見てるぞ!!
18:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:36:15.88 ID:8bitLove
コンセント抜けって!! テレビの電源切れ!!
このままじゃマジでやばいって!!
19:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:36:50.02 ID:RikuMKB
たすけて電源が抜けませんコード抜いたのにテレビが消えません
腕が動かないんです病院呼んでもだめなんです誰か助けてください
20:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:37:22.40 ID:x8J9aK10
は……? コード抜いても消えない……?
てか>>19、IDはスレ主だけど明らかに文体が違うだろ。誰が打ってんだよ。
21:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:38:05.19 ID:Anonymouse
さっきの画像の反射に映ってた女の子か!?
マジで横にいる子が代わりにレスしてんのかこれ……!?
22:【解析班】名無しのアセンブラ@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:38:40.91 ID:Assembler
おい全員静かにしろ。
画面キャプチャの1/60フレーム単位で解析した。
画面上の『歩く者』のグラフィック、ノイズで潰れてるが、右肩のドットが3ピクセル欠けてる。
さっきスレ主が包丁で突いたダメージが残ってるぞ! 倒せる敵だ!!
――
「あ……葵、指示……スレの指示を読め……っ」
俺は激痛で痙攣する体を必死に抑え込み、畳にへばりつきながら呟いた。
脂汗が目に入って視界が沁みる。
激痛の余波で全身の血管が脈打ち、呼吸すら浅い。
左腕は肩から下が完全に死んだ肉の塊と化し、ピクリとも動かなかった。
「陸! ダメだよ、もうゲームなんてやめて! 病院行こう、ね!?」
「病院に行っても……この腕は治らない……!」
俺は右手の指先で、コントローラーを力任せに握りしめた。
カチ、とプラスチックの乾いた音が響く。
「画面を見ろ! 『歩く者』が間合いを詰めてきてる! ゲームオーバーになったら……今度は頭か胸を壊されるぞ! そうなったらマジで死ぬ!!」
「っ……!」
葵が息を飲んだ。
涙でグショグショだった彼女の顔から、一瞬で狼狽が消え去る。
市役所の書類処理で鍛えられた彼女の優秀な頭脳が、絶望的な現実を冷酷に理解した瞬間だった。
「……分かった」
葵は己の腕で乱暴に涙を拭うと、膝立ちになって俺の背中にぴたりと体を寄せた。
スマホを片手に固定し、もう片方の手で俺の右肩をがっしりと支える。
私服のカーディガンから漂うハーブの香りが、激痛で乱れる俺の意識を強引につなぎ止めた。
「スレの解析班の人が書いてる! 『歩く者』の右肩にダメージが残ってるって! 倒せる敵だって言ってるよ!」
「よし……! 敵の動きはどうだ!?」
「待って、画面見る!……奴のグラフィック、二秒ごとに一瞬だけ赤く点滅してる! 点滅の瞬間、右腕の判定が消えてる気がする!」
「二秒周期の攻撃キャンセル……! 昭和のファミコン特有の、フレーム隙か!」
俺は右手だけでコントローラーを抱え込み、親指で十字キー、人差し指でAボタンを操作する変則的な「片手持ち」のスタイルに切り替えた。
画面の中のドット絵の怪異——『歩く者』が、赤と黒のノイズを撒き散らしながら、主人公のドット絵へと一歩踏み込んでくる。
(来る……!)
ザッ、という電子足音。
ノイズの腕が振り上がった、その瞬間。
「点滅した! 今!!」
葵が叫ぶ。
「うおおおおッ!」
俺は右手の人差し指でAボタンを連打した。
画面上の主人公が、右手に握った『錆びた包丁』を振り下ろす。
すれ違いざま、包丁の刃先が『歩く者』の欠けた右肩へ一直線に突き刺さった。
ガガガガガガガッ!!
ブラウン管スピーカーから、激しいクリティカルヒットの電子音が鳴り響く。
【痛恨の一撃! 18ダメージ!】
【『歩く者』の体力が 0 になりました】
【目標の消滅を確認】
画面の中の怪異が、ギャギャギャと不快なノイズ音を上げて崩れ去り、黒いドットの塵となって消滅した。
同時に、画面中央に大きなメッセージウィンドウが浮かび上がる。
【戦闘勝利】
【持ち帰り可能な戦利品を獲得しました】
・[錆びた包丁(耐久: 6/10)]
・[ノイズの核(謎の黒い鉱石)]
「やった……倒した……!」
葵が歓声を上げ、俺の体に強く抱きついてきた。
だが、安らぎの時間は一秒も与えられなかった。
ガシャコンッ!!
「ひゃんっ!?」
重金属が衝突するような暴力的な音が、俺たちの目の前の畳の上から鳴り響いた。
煙を立てて転がっていたのは、血の混じった錆の浮いた本物の『包丁』。
そして、拳ほどの大きさがある、光を一切反射しない「漆黒の鉱石」だった。
「本物が……出てきた……?」
葵が引きつった声を漏らす。
ゲーム内で獲得した戦利品が、物理物質として俺の部屋に『実体化』した瞬間だった。
「はは……マジかよ……」
俺は痛む体を起こし、右腕一本で畳の上に転がった『ノイズの核』を持ち上げた。
ズシリと重く、冷たい。
自由になった右手でスマホを引き寄せ、画面に表示されたスレの爆速レスを睨みつけた。
23:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:40:12.05 ID:x8J9aK10
おい嘘だろ倒したのかよwwwww
24:【解析班】名無しのアセンブラ@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:40:45.33 ID:Assembler
見事だスレ主。右手だけの片手プレイで2秒周期の隙を突くとはな。
……だが、喜ぶのは早い。画面の右下を見ろ。
25:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 19:41:10.88 ID:8bitLove
あ……(察し)
ブラウン管の画面右下。
先ほどまで『未確認』と表示されていたテキストが、赤く点滅しながら書き換わっていた。
【“持ち帰り地点”が指定されました】
【目標地点:玄関(距離: 8メートル)】
【制限時間:09:59】
【警告:廊下に複数の敵を検知】
「8メートル……玄関……?」
葵が部屋の引き戸を見つめる。
その瞬間。
ガタガタガタッ!!
部屋の引き戸が、外側から激しく揺れ動いた。
施錠などしていないはずの木製ドアが、まるで溶接されたかのようにビクともしない。
そして、ドアの向こう――暗い廊下から、耳を刺すような電子足音が聞こえ始めた。
「ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……」
一つじゃない。二つ、三つ……十以上。
多重録音された不快なノイズの足音が、俺の部屋を包囲するように近づいてくる。
「陸……ドアが開かない……! 廊下に、外に何かいる……!」
葵が俺の右腕にすがりつき、恐怖で身体を震わせる。
俺は転がった『錆びた包丁』を右手で拾い上げ、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「安心しろ葵。脱出シューターの本番は……『戦利品を抱えて脱出地点まで走る時』だ」
俺の覚悟に応えるように、ブラウン管から8bitのカウントダウン音が鳴り響き始めた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーン!
——現実侵食レイド、開始。
――続く。
【ステータス】
・プレイヤー:真壁 陸
・HP:[頭:100] [胸:100] [右腕:100] [左腕:0(ドット化/固定)] [右脚:100] [左脚:100]
・所持品:[錆びた包丁(耐久:6/10)] [ノイズの核×1]
・現在のミッション:【真壁家・8畳間からの脱出】(残り時間 09:59)




