船幽霊
大型貨物船と小型貨物船が衝突し、転覆した小型貨物船の救助に向かった救助隊は、引っ繰り返った船底からかんかんという打音がしていることに気付き、生存者がいると確信した。
厚い鉄板をバーナーで焼き切り、船内に入った救助隊は船底の狭い空間にいた五人を救助した。
乗組員二十数人中、五人だけでも救えたと安堵したのも束の間、検査の結果で彼ら全員が既に死亡していることが判明した。
その証拠に身体の腐敗が徐々に進行している。
戸惑い恐怖しながらも医師たちは船員たちに死亡を宣告した。
彼らは朧気な当時の記憶を手繰り寄せ、転覆した時点で、逃げ場のなかった船内で海中に呑まれ溺死したことを思い出した。
「死にとうなかったんや」
「家族が心配で……」
「生まれてくる子が見たかった」
「まだまだ死ねん」
「生きたかった……」
突然死に見舞われた船員それぞれの、生への未練や執着で何らかの力が働いたのだろう、これを奇跡と呼んでいいのかわからないが、彼らは死んだまま生き返ったのだ。
無論生体反応はなく、日が経つにつれ眼球は白く濁りきり、全身が黒ずんで腐り落ちていく。
この現象を重く見て、五人はとある研究施設に送られることとなった。
二度と家に帰れないと覚悟を決め、家族や友人たちに最期の想いを伝えた船員たちは、その日のうちにみな動きを止め、本来の姿に戻った。
奇妙な出来事に恐怖していた家族も、死に目に会えて良かった、話が出来て良かったと喜んだ。
だがその後、各遺族の家でかんかんという打音が聞こえるようになった。
音の出所を探しても見つからず、昼夜問わず突然鳴り始め、しばらくして止む。
それが毎日繰り返されるので、各遺族たちは恐怖に震え、お祓いや引っ越しをしたが、何をしてもどこへ移り住んでも、音の発生を抑えることができなかったという。
了




