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路地裏の亡霊たち  作者: Nova
第1章:Set Fire to the City

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マスカレイドの殺し屋カワセミ

―ピロン


 セントラルスクエアの路地裏にあるアパートの一室。メインストリートの喧騒すらも届かないような小さな部屋。ベッドの上でカワセミは横になったまま、その小さな音を耳にした。

 わずかにこめかみのあたりに鈍い痛みを感じながらも目を開くと、カワセミは枕横に放り投げていた携帯端末を拾い上げる。時刻は7:00前。カワセミは、自分がようやく4時間と少し眠ったことを確認した。

「ふぅ……。」なぜ眠らなければならないのかとため息をつく。


 カワセミは自分の端末をサイドテーブルの上へと乗せて大きく寝返りを打ち、再び枕へと顔を埋める。目を閉じたからと言って眠れるわけではなかったが、何もせずに起きているよりはマシだと思えた。少なくとも、眠っていることすら億劫に感じていたころに比べれば。

 しかし腹の疼きがカワセミの努力を妨げる。ほんの少しだけ、喉がひりつくような感じがしたので、仕方なくカワセミは体を起こした。


「あれ、服……。」寝る前に何をしていたのかを思い出せない。

 昨夜はまたリンドウに頼まれて、月影のターゲットを始末していたという記憶はぼんやりとある。仕事自体はいつも通りに難なく終わったはずだと知っている。カワセミは何も纏わずに冷えた腹部を押さえつけると、なぜ服を脱いだのかと疑問に思った。


「……ま、いいか。着ればいいし。」まだしばらく余裕がある。

 リンドウの店もまだ開いていない時間帯だった。いつも何時に寝ているのか分からないほど店に立っているリンドウだったが、さすがにクローズしないといけないらしい、とカワセミは流れるままに考えた。

 掛布から出てベッドから立ち上がると、冷えた空気が足元にまとわりついてくる。

「はぁ……、水。」頭が締め付けられるような感覚にふらつきつつも、カワセミは台所まで歩いて行った。


 途中、昨夜脱ぎ散らかしたのであろう自分の服が、フローリングの床に落ちている。拾い上げるとべったりと血がこびりついているのが見えて、辟易しながら洗濯カゴに放り込む。

 だから服を脱いだのだろうとは考えつつも、やはりどうでもいいなとカワセミは思った。それよりも今日はいくらか冷える。ひとまずテーブル横の椅子に引っかかっていたパーカージャケットをとって腕を通した。幸いというべきか、下はちゃんと履いている。

 カワセミは滅多に服をダメにしないが、今回ばかりは手間がかかりそうだなと思うと、カゴに入れるのは間違いだったかもしれないと考えた。店に行くのもそれはそれで面倒だったが、どちらがより面倒かと考えることがより面倒に思えて、ひとまず考えを保留した。


 裸足のまま足をひきずるようにして台所に辿り着くと、カワセミは適当なグラスを手に取った。冷蔵庫から冷えた水のボトルを取り出して、グラスに注ぐ。リンドウからティーバッグを貰っていたので、まずお湯を沸かそうと思いケトルのスイッチを入れた。お湯が沸くのを待つ間、ただ何をするでもなくシンク横に置いてある椅子に座り、水を少しずつ飲み干した。

 喉はいくらかマシになったが、胃の痛みがまだ治らない。カワセミは冷蔵庫を開けると、銀色の包みが入っているのを見つけて取り出した。包みの中にはサンドウィッチが何切れか入っている。記憶にはないような気がしたが、これはおそらくリンドウがくれたものだろうとぼんやり思って、ひとまず腹の中へと詰め込んだ。


―カチッ


 ケトルのお湯が沸いた音がする。そういえば今日はこの後どうするんだっけ、と思いながら自分の端末を取りに行く。起きてすぐよりも、体はだいぶマシになった気がした。


 サイドテーブルの上から端末を手に取ると、いったん何かメッセージが来ていないかと確かめる。カワセミの端末にはリンドウを表す「R」のアドレスと、他何人かのアドレスが登録されていたが、めぼしいやり取りは特にない。だいたいはリンドウ経由で連絡が来るし、ほとんどはそれで事足りていた。

 端末を持ったまま台所に戻り紅茶を入れる。最初からこれを飲めばよかったと思ったものの、喉の渇きが最優先事項だったため仕方がないかと反省を打ち消した。端末でラジオを付けつつネットニュースを確認すると、どこの局も、昨夜の火事の話題で持ちきりだった。


―昨夜未明、ソルティノース第3番地にて、連続放火犯の手によるものと思われる火災が起きました。


 またか、とは思った。しかしそれ以上の感想はカワセミの中には出てこなかった。もう何件も火災は起きている。今さら小さな民家が燃えたぐらいでは、ほんの騒ぎにもならないだろうと見切りをつけて、カワセミはラジオの再生を止めた。


 そろそろリンドウの店へ行こうとカワセミは考えた。端末の表示する時刻は9:00を少し回っている。気が付けばもう2時間も時間が経っていたらしいと知って、リンドウもそろそろ店を開けるだろうとカワセミは思った。

 カワセミは着ていたパーカージャケットを脱ぐと、また元あった椅子の上へと引っ掛けた。ほとんど意味をなしていない収納棚の中から適当に服を引っ張り出して身にまとうと、カワセミは外出用のジャケットに腕を通して家を出た。


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