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終話、エピローグ

 ◆終話



 ── リコは「扉」を二度と作れないと女神とツカサから聞かされた時に覚悟を決めていたし、この異世界で大切な人、オーデンという素敵な彼を見つけたし別れたくないからと ──






 城に戻る道中、馬車の中でリコは窓の外をぼんやりと眺めていた。


 もう『扉』は開かない。


 地球に帰る道は永遠に閉ざされた。


 でも、それでいい。ここが私の家なんだ。


 オーデンが私を待つ城が、私の帰る場所だ。


「何を考えている?」


 オーデンが彼女の手を握った。


「地球のことを?」


「少しだけ。でも、懐かしいというよりは……遠い夢を見ていたような気分です。今の私の現実は、ここにありますから」


 オーデンは彼女の手にキスをした。


「其方がこの世界に来てくれたことに、私はいつも感謝している。もしあの日、其方が召喚されていなかったら ――」


「そんな『もし』は考えないのっ!」


 リコが優しく遮った。


「だって、そうしたらあなたと出会えなかったんですから。キョウカにざまあみろ、とは言わないけど……これでいい。これが私の選んだハッピーエンドなんです」


 キョウカの最後がどうなったか、彼女は知らない。


 荒野の異界に追放された彼女が生き延びたのか、あるいは ―― 考えないことにした。彼女自身の選択の結果だ。


 一方、ツカサは創成女神と共に、世界の調和を守る役目を果たしている。時折感じる彼女の優しい導きは、リコにとって心の支えだった。


「今夜は、セレニウスや、日頃忙しく執務に励む部下や侍従も招いて、小さな宴を開こう」


 オーデンが提案した。


「この喜びを、大切な者たちと分かち合いたいのだ」


「ええ、そうしましょう」


 リコは幸せそうにうなずいた。


 馬車が城門をくぐり、中庭に入ると、侍女たちが整列して彼らを出迎えた。緑髪のハイエルフのセレニウスもいた。彼は優雅にお辞儀をし、鋭い空色の瞳に温かな笑みを浮かべていた。


「お二人のご帰還を。そして ―― お祝いを申し上げます」


「もう知っていたのか?」


 オーデンが驚いた声を上げると、セレニウスはいたずらっぽく微笑んだ。


「世界樹の精霊たちが、既に囁いていましたよ。この吉報は、もう国じゅうに広がっています」


 リコは思わず笑い出した。


 この世界の素晴らしさの一つ ―― すべての命がつながり、喜びも悲しみも分かち合うこと。彼女はもう、その一部になっていた。






 *****






 その夜、城の広間ではささやかな宴が開かれた。


 親しい家臣たち、そして何より、リコがこの世界で信頼を置く人々が集まった。


 宴もたけなわとなった頃、リコはバルコニーに出た。


 部屋の中の温かい光と笑い声が、春の夜気の中に漏れていた。


「疲れたか?」


 オーデンが後からやってきて、彼女の肩にマントをかけた。


「少しだけ。でも、幸せな疲れなんですよね」


 彼女は後ろに寄りかかり、オーデンの胸の鼓動を感じた。


 空には無数の星が輝いていた。


 地球の星空とは配置も明るさも違うが、それでも美しかった。


 いや、むしろ、この星空の方が美しく感じる ―― なぜなら、この星空の下に、愛する人たちがいるから。


「あの日、其方が『聖女なんてくそくらえ』と言った時、私は驚いたぞ」


 オーデンが突然、懐かしそうに言った。


「ええ、あの時は本当に……すべてが嫌と言うか……面倒になるなと思ったから。見知らぬ世界に放り込まれることになって、聖女としての役割を押し付けられることになるのだろうなと考えたらね」


「それでも、其方は逃げ出さなかった。むしろ、自分の道を見つけ、歩み始めた」


 オーデンが彼女の頬にそっと触れた。


「其方は聖女ではない。でも、それ以上に大切な存在だ。私の皇妃であり、私の心の拠り所であり、これからは ――」


 彼の手が、彼女のお腹の上に優しく置かれた。


「私たちの子の母だ」


 涙がリコの頬を伝った。


 この感情には名前がない ―― 感謝、幸福、愛、安らぎ、すべてが混ざり合った、言葉を超えた感情。


「オーデン、私を愛してくれてありがとう。この世界に迎え入れてくれてありがとう」


「感謝するのは私の方だ、リコ」


 彼は彼女の額にキスをした。


「其方が来てくれたから、この世界はより輝き、私はより完全な人間になれた」


 二人は星の下で抱き合い、長い時間をかけて静かな愛を交わした。


 城の中からは、まだ笑い声や音楽が聞こえていたが、彼らにとっては遠い背景音のように感じられた。


 この瞬間だけが、世界のすべてであるかのように。






 *****






 月日はまた流れ、やがて夏が訪れた。


 リコのお腹はますます大きくなり、新しい命の鼓動は日に日に強くなっていた。


 彼女は今、育児書代わりに、帝国の歴史書や亜人の育児習慣を学んでいる。


 人間と亜人のハーフとして生まれるこの子は、まさに新時代の象徴となるのであろう。


 ある日、彼女はオーデンと共に、城下町を訪れていた。


 人々は彼らに笑顔で手を振り、子どもたちは花束を差し出した。人間も亜人も、区別なく。


「ご覧ください、オーデン。この笑顔が」


 リコがささやいた。


「これが、私たちが守るべきものなのですよね」


「いや、其方が築き上げたものだ」


 オーデンは彼女の手を握りしめた。


「私は剣で国を守ったが、其方は心で国を一つにした」


 歩きながら、リコはふとあることを考えた。


 もしあの日、キョウカと共に『扉』を通って地球に帰っていたら ―― もしツカサの警告を無視して、無理に帰還を試みていたら ――


 今のこの幸せはなかっただろう。


 すべての出来事には意味がある。


 たとえ苦しく、理不尽に思える瞬間でも、それはより大きな物語の一部なのだろうと。


「何を考えているんだ?」


 オーデンの声で現実に戻った。


「ただ……すべてに感謝している、ということです。嬉しいことも、辛かったことも、すべてが今の私を作っているんですから」


 彼女はお腹に手を当てた。


「この子にも、同じことを教えたい。どんな境遇でも、自分の道を見つけ、愛を見つけられることを」


 オーデンは彼女を見つめ、深くうなずいた。


「きっと、其方のような強い母になれる。そして、この子は私たち以上に、世界を変える存在になるだろう」


 夕日が街をオレンジ色に染め、二人の影を長く伸ばした。


 手をつなぎ、肩を並べて歩くその姿は、誰の目にも幸せそのものにしか見えない。


 そして遠く、世界樹の森の方から、そよ風が吹いてきた。


 その風には、精霊たちのささやきと、優しい祝福が込められているかのように。






 三人の聖女の物語は静かに幕を閉じた。


 一人は自らの選択で荒野へ消え、一人は女神や聖樹と共に世界の調和を守り、そして一人は愛を見つけて新たな命を育んでいた。


 しかし、終わりは常に新たな始まりでもある。


 リコとオーデンの物語は、これからも続いていく ―― 子どもたちへ、孫たちへ、そして未来の世代へと。


 彼らが築いた平和が、永遠に続くように。


 星が輝き始める頃、二人は城へと帰った。


 そこには、温かな食事と、安らぎに満ちた夜が待っているだろうから。


 もう異世界の迷い子ではない。


 ここは、リコが永遠に帰る場所になったのだから ──






 END


実験的に数字の一が横棒や伸ばし棒と混ざるので1と書いてたのを、今回、普通に一括文章変換だと漢数字のままになるので、面倒で統一したのですが、また横棒や伸ばし棒と間違いそうで、1、にした方がいいのかな~と銀龍の巫女ではきづいたとこだけ1にしたりしてます。見にくかったらごめんなさい(汗。

今回の主人公の神代業子の物語は、後は怒涛のハッピーエンドだと思いたいので、半生までです。

主人公ではないけれど、副主人公の銀野司の物語もここで一旦終りです。精霊となったけれども、その後再び多分転生した彼女は…ツカサだけなら時系列的にはこれが異世界最初の転生かな?うっ整合性?そんなの無視無視?軽く生暖かい目でスルーしてくださればいいかな~っと。

m(_ _)m 拙い架空話を最期までお読みいただき本当にありがとうございました。


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