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New Face Monster 1

挿絵(By みてみん)



20××年○月△日


 国際宇宙ステーションの外で、宇宙服を着て初めての宇宙遊泳を楽しんでいるのは、訓練を終えてようやく宇宙に来たばかりの新人だった。地球の外に来たらやってみようと思っていた事が叶って感無量。だがこれも仕事の一つなのだという事を忘れてしまう。目の前の眼前にある偉大なる蒼の地球を眺める眼福に浸っていると無線で連絡が入る。


【調子はどうだい?】


「最高ね、今とっても幸せよ」


【体の負荷やスーツの調子は問題ないか?】


「ええ、至って良好。動く分にも問題はないわ」


【じゃあ、引っ張るぞ】


宇宙服に付いている紐が宇宙船に引かれ宇宙ステーションとの距離が縮まっていく。


【ったく、スケジュール前倒しで、最新の宇宙服の試験運用やってんだからな】


「感謝してるわ、最高のレポートが書けそうよ」


突如後方から眩い強烈な光が差す。


【なんだってんだ。急に目の前が光ってやがる】


宇宙ステーションから、再度くるりと回って地球の方角を見た。目の前の光景に絶句して、思わず目を大きく見開く。


「ジーザス⋯⋯どうして⋯⋯地球が」


地球が、巨大な隕石に当てられたかのように粉々に砕けている。その異常な光景を目の当たりにすると今度は緑の光が地球を包み込み、巻き戻るかのように元に戻った。口を大きく開けたまま目の前の事が理解出来ずに彼女は、その時の映像を記録していた。世界同時の大地震と言われ、この世の終わりかと言われたこの騒ぎの顛末は結局捏造だったと公表された。唯一人、その瞬間に宇宙遊泳していたリアルタイム映像を保持していた彼女は、世界にその事実を公表したが賛否両論が出て幕を閉じる事となった。この不可解な現象について、誰も答えを出せる者はおらず、宇宙の専門家も揃って匙を投げた。その後に京都に起こった大地震の予兆ではないかと噂もあったが誰も確かめる術もなく、長きに渡りインターネットのオカルト板で議論される鉄板のネタになっていた。


ひょっとしたら人類は一度、その時に滅んでしまっているのではないか?と。


「昨日見た?世界の恐怖映像100連発スペシャル」


開口一番に切り出したのは、お下げの女の子、川下恵かわした めぐみだった。学校の昼休みの食事中の話題に昨日のテレビ番組を出すのは良くある事だったがこの時の恵の興奮はいつもと少し様子が違っていた。


「ああ、見た見た。何か心霊特集がすごい怖ったよね」


「私はそういうの興味ないから、見てないわ」


「怖がりだもんね、洵さん」


摩子がそう告げると、他の二人も苦笑した。


「恐怖体験をテレビでも味わうなんて、もう沢山なのよ」


思い出して、ガクガクと震えて青ざめる。


「気持ちはこの前で良く分かったわ」


2人にしかわからないやりとりに、残りの二人は首を傾げる。恵は、携帯を取り出して、昨日の恐怖映像の一部を3人に見せた。


「このね、地球は実は一回滅んでしまっているかもしれないってやつ。すっごい怖いよね」


「そう?CG使った映像と比較して遜色ないって結果出たんじゃないのそれ」


洵が目を細めてそれを見て答える。


「大体、宇宙の外からの映像はあっても『地球の中』の誰も気づいてないなんておかしいでしょ?そもそもあんなん起こったら人類滅んでるじゃんあれ」


恵の隣に座る眼鏡をかけた長髪の女の子、下沢由梨しもさわゆりがそう突っ込んだ。


「えー⋯でもあの時、地球全土で地震があったのは皆、体験してる訳でしょ。その後に京都大地震もあったし」


「へぇ、どれどれ?」


摩子も、牛乳のストローを口に含んで飲み始めた矢先、地球が緑の光に包まれ、時間が巻き戻る映像を見た所で、勢いよく、口に含んでいた牛乳を隣の洵の顔に噴出した。それから勢いよく咽て、咳をする。


「ゴホッ!!ゴホッ!!あっ⋯洵さん⋯⋯ごめんなさい」


「摩子さん、後でゆっくり話をしましょうね?」


牛乳をぶちまけられた顔のまま、笑顔で洵は摩子にそう告げた。


「うう、本当に御免なさい」


(まさか、綾乃さんを思い出すなんて)


慌てて摩子が、ポケットに入っていたハンカチで洵の顔を拭いていく。5月に入り、桜も散って、葉に緑が色づき爽やかな風が教室に流れ込んでいた。



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