表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

月姫の事情・3



 そしてとうとう、次は光の神獣の番となり、王都の大神殿に向かうことになった。


 大神殿は王城の隣にあるため、太陽王に会う可能性はこれまでよりかなり高い。さらに彼の魔力を感じることができるほどに近づけば、本能が騒ぎ出すおそれもあった。

 それでも行かなくては、と秋穂は何とか覚悟を決めたのだが。


 風の聖獣によると、光の神殿の警護は今まで以上に厳しくなっているようだった。

 そこで秋穂は、王都の宿屋に泊りつつ、しばらく警護が緩くなるのを待ってみることにした。水の神殿のように、警護の者を眠らせても良かったのだが、太陽王に近い以上、出来るだけ不審に思われるような行動は避けたかったのだ。


 しかし、数日待ってみても警護の様子は変わらず、しかも太陽王のいる王都に居るだけで、何やらそわそわしてしまう本能がいい加減鬱陶しくなり、秋穂は思い切って決行してしまうことにした。王都でぼーっと過ごしているうちに、早く帰りたいという気持ちも募ってきていたこともある。



 そこで深夜、王城が寝静まったのを確認し、神殿内に眠り薬を撒いた。

 神殿内や周囲にいた警護の者達が眠ったのを確認して、月明かりを取り込むために開いていた天井から侵入する。

 魔力の位置を調べてみたところ、太陽王は王城の一室にいるようだったので、なんとか会わずに済むよう早くことを行ってしまおうと、秋穂は風の聖獣の力を借りて、ゆっくりと祭壇の方へと降下していく。


 音をたてないようにふわりと祭壇の前に舞い降り、ふーと心を落ち着けるように一つ息を吐いて、神玉を手に取り目を閉じると、秋穂はそこに力を注ぎこんだ。

 秋穂の力が高まるのと同時に、秋穂の足元に魔法陣が浮かび上がる。この魔法陣は、神獣の目覚めを妨害させないためと、無防備になる秋穂の身を守るために張られるものだった。


 やがていつもと同じように、神玉に光が満ちると、その中からスッと光の神獣が飛び出してくる。


『姫様、お久しゅうございます』

「うん、どう? 何かおかしいところは無い?」

『いえ、おかげでようやく力を取り戻すことができました。ありがたく申し上げます』


 そう言って深く頭を下げた神獣に、秋穂は笑って「これくらい何でも無いわ」と返した。


 そして、光の神獣が姿を消すのと同時に、秋穂の周囲を囲んでいた光の柱が霧散し、足元の魔法陣も消えて行く。

 しばらく本来の輝きを取り戻した神玉を眺めていた秋穂は、やがてそっとその玉を祭壇へと戻した。



「あ……あなた、何者なの!?」


 その時、静かな神殿内に響いた女の叫び声に、秋穂はびくりと肩を跳ねさせた。

 神獣を目覚めさせるために集中させていた意識が戻ると、思わぬほど近くに愛しい人の魔力を感じて、慌ててそちらに顔を向ける。祭壇の脇の方に、背後に騎士達を従えた太陽王の姿を捉え、秋穂はつい彼に見入ってしまった。


 僅かな月の光が差し込む薄暗い神殿内にあっても、神々しく輝く黄みの強い金色の髪は緩やかに額に流れ、その男らしい精悍な顔立ちに色気を添えている。そして、じっとこちらを見つめる、少しつり気味のきりりとした黄金の瞳は、特別な力でもあるかのように秋穂の視線を捉えて離さない。


 ――ダーリンダーリン! ようやく会えたわ。嬉しい、愛してるわ、ダーリン。さあ、早く私を抱き締めて。もう二度と離さないで。


 太陽王がそこにいることで、いっそうテンションの上がる本能に釣られ、ついふらふらと太陽王の方へ足を動かしそうになった秋穂は、慌てて顔を彼から逸らした。

 マントのフードを深く被っているために、彼から自分の顔は見えないはずだ。けれども、ばっちりと視線が重なっていたような気がした。


(や……やばい! 本気でやばい! 目が合っただけで、なんか頭の中がほやーんとして、全てを彼に委ねたくなったよ! 私を好きにして~って抱き着きたくなったよ! あああ、もう絶対にこれ以上近寄っちゃ駄目だぁ!! 気をしっかり持て、私!)


 頭の中で必死に自分に言い聞かせつつ、秋穂は傍にいた風の聖獣に急いで飛んで逃げようと声をかけた。

 風の聖獣も、『姫様、良いの?』と戸惑いながらも、力を使おうとしてくれたのだが。


「待て! 逃げるな!」


 太陽王の制止の声に、秋穂も聖獣達もぴたりと動きを止めてしまう。


 その隙に太陽王に腕を掴まれ、さらに秋穂は焦った。太陽王の大きな手が腕に触れ、その手の力強さや体温に、本能のざわつきが大きくなる。


 ――きゃー! ダーリンに触られちゃったぁ!! ダーリンたら、大きくて逞しくて、なんて素敵な手。ああん、そんなダーリンの手でもっとぎゅっとされた~い!!


 きゃーきゃー騒ぐ本能に、秋穂は頭を抱えたくなった。


(だから、私は帰りたいのよ! 彼に捕まるわけにはいかないの! いや、もう掴まえられてはいるけど。でもい~や~! 離してえぇぇぇ!!)


 助けてとばかりに聖獣達を呼べば、彼らは困ったようにふよふよと秋穂の周りを漂うだけだった。


『でもでも、王様が待てって』

『逃げちゃ駄目だって……』

『王様がそう言うんだし』


 等と口々に言う聖獣達の言葉が秋穂に届く。


 太陽王は月姫のように神獣や聖獣達の力を借りて使うことはできないが、一方で神獣や聖獣達は太陽王を傷つけたりその言葉や命令に逆らうことはできない。それは太陽王が月姫の伴侶であり、片翼であることから、太陽王が月姫に害を加えないだろうという神獣や聖獣達の信頼であり、彼を守りたいという月姫の願いによるものであって、本能的に彼らに具わっている決まりごとだった。

 その為、例え月姫の願いを叶えるためであっても、太陽王の言葉には逆らえないのだ。


『大丈夫だよ、王様だもん』

『姫様に嫌なことはしないよ』

『二人はずっと、ラブラブだもん!』


 ねー! と声を合わせて頷き合う聖獣達は可愛かったが、秋穂にはそれどころではなかった。


(いやいや! 駄目よ! まずいんだってば!! 目を合わせただけで頭の中はピンク色一色に染まりつつあるし、触られただけで本能はお祭り騒ぎだし、もうこれ以上傍にいて、触れ合ったりしてしまえば理性なんて消え失せるわ! それは避けたいのよ!!)


「私は逃げたいんだって!」


 と何とか聖獣達に逃げようと促してみるが、彼らはのん気に二人のやり取りを見守っているだけだった。


 すると、太陽王に腰を掴まれ、――きゃあああぁぁぁ! と歓喜に悶える本能と、「ぎゃあああぁぁぁ!!」と悲鳴を上げる秋穂に構わず、素早く太陽王は秋穂のフードを取り去ってしまった。


 より一層クリアになった視界に、太陽王の熱を孕んだ黄金の瞳が迫る。


(あああああ! やばいやばいやばいいいぃぃぃ!!)


 冷や汗をだらだらと流す秋穂の思考に反し、体は思うように動かず、むしろ鼓動は早くなるわ、顔どころか体中熱くなるわ、何だか息苦しいわで、秋穂の意識はもはや風前の灯だった。


(この状況で意識を失うなんて、私はヒロインか! ってか、ここで気を失えば、その間にどこへ連れて行かれて何をされるか分かんないよね! いっそ神殿の外に放り投げておいてくれるか、牢屋に入れておいてくれた方がマシなんだけど! 万が一、万が一よ、目覚めたときに目の前に太陽王様がいたりしちゃったりしたら!!)


 ――きゃあああぁぁぁん! 幸せすぎてまた気を失っちゃうわね! でも、そのま・え・に! ダーリンときゃっきゃうふふをしちゃうんだから!! ダーリンたら、今夜は寝かせないぞ!


(いやあああぁぁぁ!! そんなことになったらもう駄目だ! 完全にアウトだ! グッバイ私の地球ライフ! てか、そろそろ本能うぜええぇぇぇ!!)


 固まったまま太陽王を見上げながら、秋穂の中では壮絶な本能と理性のやり取りが繰り広げられていた。


 そんな中、ただ黙って秋穂を見つめていた太陽王が、そっと浮かべた艶のある微笑みに。


 秋穂の中で、試合終了のゴングが鳴り響き、本能が――よっしゃあああぁぁぁ!! と勇ましい雄叫びを上げたとか。



 と、いうお話でした。

 改めて読み返してみますと、何が書きたかったのかという迷走っぷり。でも、書いていて楽しかったので、UPさせて頂きました。


 ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました<(__)>


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ