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第9話 防衛隊

「浪人憲法第1条――一日の勉強ノルマを達成すれば、そこから先は自由時間」

島での生活にも慣れ始め、アオイは過去の未練を振り切るように参考書と向き合っていた。

そんな彼のもとに、元気な足音とともにミカが駆け込む。

誘われるままに向かった先は、商店街の喧騒を抜けた山奥。

木々の合間にひっそりと佇む古びた木造校舎――。

そこは、島の平和を守る「防衛隊」の秘密基地だった。

個性豊かなメンバーとの再会、そしてアオイの防衛隊入隊、島に来てまだ一週間だが周りと環境の変化が加速する。

四月七日――――


 僕はこの島のある仲間の一人の悩みを解決し、気がかりな事がなくなり今日は勉強に精がでた。


「よっしゃ!今日は本気で行くぞー!!!」


 この時点でもう大学に落ちたことについては吹っ切れていたような気がする。


 ドンドンドンドンッ


 僕の部屋の外から元気の良い足音が聞こえる。


「どうしたんですか!いきなり大きな声を出して!」


 僕の大声に釣られミカちゃんが部屋のドアを開け様子を確認しにきた。


「あ、ごめん、つい勉強に本気だすために声を」


「そうなんですか、勉強していて偉いですね!」


 浪人生たるもの勉強は偉いことではなくもはや義務みたいなものだ、これは僕の中の浪人憲法に載っている。


 浪人憲法第1条 一日二時間以上の勉強は浪人生の義務である。(非常事態の時は例外)


「あはは…偉いか、ミカちゃんは春休みだっけまだ?」


「いえ!十三日から学校です、宿題が少し残ってて大変です…」


 もう来週にはミカちゃん、それに防衛隊のみんなも学校が始まるのだろう。

 まだ四月だから今のうちに思い出も作っときたいという考えが脳裏に流れた。


「二時間後外出て防衛隊のみんなに会いに行かないかい?」


「え!いいんですか…でも勉強は」


「大丈夫だ、浪人憲法第一条、浪人生は二時間以上の勉強を義務とする。これを達成すればいいのさ」


「義務、ですか?まあ、お兄ちゃんがやる気になってくれるなら、私は何でもいいですけど!」


 ミカちゃんは義務に関しては困惑した素振りをした顔と感心した顔を半分混ぜたような表情で笑った。

彼女にとっては、この島の「止まった春」の中で、僕が一人で未来に向かってペンを走らせている姿が、どこか不思議で、どこか誇らしいのかもしれない。


「でも、憲法違反で逮捕されないように気をつけてくださいね? ご飯のときになっても部屋から出てこなかったら、私が強制捜査に踏み切りますから!」


「……手厳しいな。肝に銘じておくよ」


ミカちゃんは満足げに頷くと、「じゃあ、頑張ってください!」と言い残し、またバタバタと廊下を駆けていった。


「よっしゃやるぞ!」


 ドンドンドンドンッ


 この後の展開はさっきと同じである。


「Yacht……やちと?やっち?やっと?……はぁぁ?これヨットて読むのかよ!」


 そんな独り言いいながら着々と勉強を進め、気づけばすぐに2時間が経った。


「おーいミカちゃん、行けるよ〜」


 ミカちゃんの部屋の前に立ち呼んだ、すぐに足音が聞こえドアが開いた。


「待ってました!行きましょう!行きましょう!」


 すぐに僕の手を掴み外へと引っ張り出される、茶色い髪がなびくのを見ながら太陽の日差しに晒された。

 まず向かう先は商店街、人々が賑わい防衛隊のみんながいるかもしれない。


「防衛隊のリーダーのアズサとはあんま話したことなかったな」


「アズサさんは絵がとても上手いです!絵の話をすれば仲良くなれるかもですよ」


「絵か…」


 初めて会った時の第一印象は静かで冷静なタイプだったのを覚えてる、そういえばその時はスケッチブックとペンを持っていたのも思い出した。


「商店街が見えてきましたね」


 やはり昼の商店街はやはり島民で賑わっている、魚を売る人、野菜を売る人、定食屋の呼び込み、ここはまるでこの島の心臓部だ。活気ある声が重なり合い、四月の柔らかな空気を震わせている。


「おーい!!アオイー、ミカちゃーん!!」


 前方からうるさく元気な少年が呼びかける声が聞こえた。

 その少年は背中に竹刀袋を背負っている……防衛隊の一人、リョウタだ。


「こんにちは、リョウタさん」


「おうよ!ミカちゃん元気そうで良かった!アオイも元気そうだな!商店街になんか用で来たのか?」


「あぁ、防衛隊のみんなに会いに来たて感じ」


 リョウタがそれを聞くと目を輝かせながら僕に近づき腕を俺の肩に乗せた。


「マジか!後で防衛隊のみんなで集まる予定なんだ、アオイとミカちゃんも来るか!?」


「お、行こうかな…邪魔になったりとかしないかな、一応僕はよそ者ではあるから」


 僕は一回考え直した、この島に来たばかりのよそ者の僕がいかなり既存の輪に入ってもいいのかと。


「よそ者なんて水臭いこと言うなよ! この島を回ったんならもう関係ねぇよ!ほら来いって!」


 リョウタは大きな声で笑い、僕の背中をバシバシ叩いた。竹刀袋が揺れるたびに、彼が放つ真っ直ぐなエネルギーが伝わってくるようだ。


「そうですよお兄ちゃん、ほら行きましょ!」


 ミカちゃんも、僕の手を引く力を強めて後押ししてくれる。

この島の人は、どうしてこうも境界線を作るのが下手なのだろうか。いや、下手なのではなく、最初からそんなものは存在しないかのように振る舞ってくれるのだ。


「……わかった。じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔させてもらおうかな」


 リョウタを先頭に、僕たちは山の方へと向かった。

 行先で何度も島の人に声をかけられた、よそ者の僕を部外者のような目で見るのではなく暖かい言葉を僕にくれた。


「リョウタ、山の中になんかあるのか?」


「まぁまぁ落ち着けって、あと少しで分かるぜ!」


 リョウタに促されるまま、僕たちは緩やかな坂道を登り、生い茂る木々の間を縫うようにして進んだ。

四月の山の空気は商店街の喧騒とは対照的に澄み渡っていて、若葉の香りが肺の奥まで満たしていく。


「……ここだぜ!」


 リョウタが勢いよく茂みをかき分けると、そこには既に使われてない廃校の小学校があった。


「……え、小学校? こんな山の中に?」


 目の前に現れたのは、木造の平屋校舎。長い年月を経て板壁は灰色に褪せているけれど、窓ガラスは不思議なほどピカピカに磨き上げられていた。校庭の隅には錆びついた遊具と、不自然と真ん中に立っている桜の木。


「ここが、俺たちの『防衛隊基地』だぜ!」


 リョウタは誇らしげに鼻を鳴らし、開け放たれた昇降口へと迷わず入っていく。僕とミカちゃんもその後に続いた。

 僕が通っていた学校は木造ではなかったのでなんだか新鮮だ。

 校内に入ると一歩踏み出すごとに鳴る「ギシッ、ギシッ」という古い木材の軋みは、まるでこの校舎がこれまでに刻んできた時間を、僕の足裏に直接伝えてくるような、どこか懐かしくも凛とした音だった。


「こっちだ、こっち!」


 リョウタが廊下の奥を指差す。突き当たりの教室の引き戸が開け放たれており、そこからは紙をめくる音とペンが紙に触れ合う音が聞こえてくる。

 ドアの上には室名のプレートがあり、それには手書きでアズサの部屋と書いてあった。


「邪魔するぞー!アズサー!」


 デカイ声でノックもせずに部屋に入るリョウタ。


「邪魔するなら出ていって、今集中してる」


 中には窓の横に椅子に座ってスケッチブックに絵を描いている少女がいた。

 窓から吹き出る緩やかな風が彼女の短いピンクの髪を靡いている。


「こんにちは、アズサさん」


「ん、ミカちゃん、こんにちは元気だった?」


「はい!もう元気です!今はお兄ちゃんがいるので!」


 ミカちゃんがそう言った瞬間、アズサの視線が僕にギロッと向く。


「お兄ちゃんって、一体どういうこと?」


「え、あ、いや……それはその……」


 ある日を境にミカちゃんに自然に「お兄ちゃん」と呼ばれるようになったがアズサと初めて会った時はまだミカちゃんからは"アオイさん"呼びだった、アズサはスケッチブックを閉じ、薄い紫色の瞳でじっと僕を観察するように見つめた。いつの間にかアズサはペンを逆手持ちにしていた。


「……ミカちゃん。変な男に騙されているんじゃないでしょうね」


 アズサの声は低く、どこか警戒心を孕んでいた。17歳という年齢以上に大人びて見える彼女の佇まいに、僕は思わず背筋を伸ばす。


「違いますよアズサさん! この人は、私が困っていた時に助けてくれた、とっても優しい浪人生のお兄ちゃんなんです!」


 ミカちゃんよく言ってくれた、しかし欲を言えば優しいお兄ちゃんだけで良かった。


「そう…ならいいけど、集会はまだだからゆっくりしてって」


 そう言われ僕はリョウタに学校の中を案内された。

 廃校とはいえ校内はかなり綺麗だった、おそらく防衛隊のみんなが度々綺麗にしてるからだろう。


「ここは元家庭科室で打ち上げとかたまにここで料理して食べてるぜ!ガスも水道も電気も一応この学校まだ繋がってるんだぜ!」


「え?マジで住めるじゃん」


「アズサさんはここに住んでるんですよ」


「マジで、ここに住んでんの!?」


 僕は思わず声を上げ、廊下の先にある「アズサの部屋」を振り返った。


「んまぁ色々あるわけよ、もし助けを求めてたら頼むわ!」


「……おう。」


 リョウタは軽口な感じで言うが、内側には重みがあるように思えた。


「よし次の教室だ!ここは元職員室で会議室として使ってるぜ!」


 リョウタに連れられて入ったその部屋には、大きなテーブルを囲むようにしてパイプ椅子が並べられていた。壁には「島内防衛概略図」と書かれた手書きの地図が貼られており、彼らがただ集まって遊んでいるだけではないことが伝わってくる。


「さてそろそろだぜ防衛隊の会議は、今日は俺が議案を出すために招集したんだぜ!」


「議案…?」


「おうよ!議案内容はアオイを防衛隊に正式に入隊させるかについてだ!」


「え…!?僕が…入隊?」


 リョウタの唐突な宣言に、僕は思わず声を裏返した。大学に落ち、現実逃避のようにこの島へ流れ着いた「浪人生」の僕が、島の平和を守る「防衛隊」のメンバーになるなんて、想像もしていなかったからだ。


「いやぁ…僕なんか他所から来た浪人生だぞ……」


「関係ないって!数少ない少年少女なんだ!」


 僕はもう高校卒業済みだし成人済みで少年と言えるのだろうか。


「来たわよ…あれ?アオイも来てるじゃない、どうしたの?」


 会議室の入口の前から声がした、昨日ぶりに会うレイナだった。

 昨日まで音のない世界に閉じ込められ、今は解放され元気そうで良かったと思えた。


「あらミカちゃんも、こんにちは」


「はい!こんにちはレイナさん!」


 レイナがしゃがみ、腕を広げミカちゃんを抱き上げる、こう見ると姉妹のようにも見える気がする。


「ミャッ!?高いです!」


「俺の方がもっと高くできるぜ!ミカちゃん!」


「失せなさい、ロリコン、ミカちゃんはワタシのよ!」


 リョウタとレイナがミカちゃんの取り合いが始まろうとしていた。


「……どけ!僕がお兄ちゃんだぞ!」


 第三勢力として僕も大声を出し一歩出た、もうノリで出たようなもんである。


「なっ……何言ってるのよ、アオイ! 私の方がミカちゃんとは付き合い長いのよ!」


「そうだぜ! 俺だって小さい頃から遊んでやってるんだ、お兄ちゃん面すんな!」


 レイナとリョウタから一斉にツッコミをされ、会議室は一気に騒がしくなった。

 レイナに抱えられたミカちゃんは「私はみんな物ではないです!」と言いながら楽しそうに笑っていた。


「おやおや、久しぶりに会議室が賑やかですね」


 またもや会議室から違う人の声が聞こえた、そこに立っていたのは木刀で頭を叩かれ倒れてた時以来の雲雀 ミナトだった。


「こんにちは、ミナトさん!」


「こんにちは、ミカさん」


 穏やかな声と笑みで挨拶をするミナト、防衛隊の中で一番の常識人に見える。


「ん、みんな集まったね」


 最後にさっきまで自室にいたアズサがやってきた、今は臨時でリーダーを務めているがそれ相応の風格をを感じる。


「始めよ、みんな座って」


 アズサに促されみんなは名前が書かれた紙が貼られた椅子に座る、もちろん僕の名前が書かれた椅子なんてない。


「アオイは…ミカちゃんの右の椅子に座って」


 アズサに促されるまま、僕はミカちゃんの隣の空いている椅子に腰を下ろしました。会議室には独特の緊張感が漂っていますが、リョウタは相変わらず不敵な笑みを浮かべています。


「さて、全員揃ったわね。今日の議題は一つ。リョウタ、説明して」


 アズサがそう告げると、リョウタは勢いよく立ち上がりました。


「おう! 議題は、ここにいるアオイの防衛隊入隊についてだ!」


 その言葉が落ちた瞬間、会議室に静寂が訪れる。

 アズサはスケッチブックに何かを書いた後、スケッチブックを閉じ口を開いた。


「みんなはどう思う?」


「ワタシはアオイに救われた事があったし、賛成、人を助けようとする思いも大きいしいいと思うわ」


「ボクは別に悪い人とは思いません、それに同じ防衛隊のレイナさんを何を助けたのは聞いてませんが助けたと言ったんです、ボクも賛成です」


 ミナトも穏やかに微笑みながら賛成する。


「ミカちゃんは?」


「むしろ歓迎です!いや、来て欲しいです!」


 アズサ以外のみんなから僕は歓迎されいたようだ。


「そうだ、気になったんだが他の防衛隊のメンバーの人は来ないのか?この場にいる全員以外の椅子が何個かあるが他のメンバーからは聞かなくていいのか?」


 この場にいるメンバー以外の席は7つ、その内の一つは前に神社で会ったミホさん、もう一つは前に倒れた時に会った脳筋なタイプの女子のメグミ、そしてもう一つは僕が座ってる椅子のように名前の紙が貼られていないもの、しかしそれには以前貼られていたであろう痕跡があった、それ以外の椅子は紙は貼られているが知らない人だ。


「今日来てない人は事情がある人ばかりであまり来れない人がいるの、でもメグミだけは分からない、多分遅刻だと思う」


 アズサさんの言葉に、僕は会議室を見渡した。空席の主たちは、それぞれ島のどこかで自分の役割を果たしているのか。かつて誰かの名前が貼られていた形跡のある僕の椅子。その「不在」の重みが、この防衛隊が背負ってきた時間を物語っているようで、少しだけ背筋が伸びる思いだった。


「みんなが賛成してる事だし、わたしから特に言うことはない……アオイもこれからは防衛隊よ」


 リョウタは思いっきり立ち上がりガッツポーズを決めた。

 僕はこうしていきなりだが防衛隊に入隊することになった、浪人生兼根大島防衛隊へと。


「いぇーい!アオイっち入隊おめでとー!!!」


 会議室の外から元気の良い声が聞こえてきた。


「悪いぜ!メグミちゃんは遅刻してしまったのさ!!」


 扉を勢いよく開けて入ってきたのは、かつて僕が気絶した時に見た、あの圧倒的なエネルギーを放つ少女メグミだった。彼女は遅刻したことなんて微塵も気にしていない様子で、僕の目の前まで来ると、その力強い手でガシッと肩を掴んだ。


「あはは! 歓迎するよ、アオイっち! アタイたちが守るこの島の平和、今日からはあんたにも手伝ってもらうからね!」


 メグミのカラッとした笑顔に、緊張していた会議室の空気が一気に和らいでいく。アズサさんは小さくため息をつきながらも、どこか安心したようにスケッチブックを胸に抱え直した。


「賑やかでとてもいい絵が描ける…」


「ん?なんか言ったかアズサ」


 僕がアズサの小さな声を聞き、聞き直したがアズサはなんでもないと言った。


「これは今夜は歓迎会いっちゃいますか!!」


 メグミが大きな声をあげ飛び跳ねる、他のみんなも僕に近づき歓迎の言葉言う。


「久しぶりにみんなでここで泊まろうぜ、そうだアオイの部屋の教室案内するぜ」


 どうやら防衛隊のメンバーには一人一人に教室を与えられるようだ、案内の途中に教室のプレートを見ると各々の苗字が書かれていた、そして僕が案内された教室にはまだプレートが乗っていない教室だった、隣の教室はさっき見たアズサの部屋だった。


「ここがアオイの部屋、好きに使っていいよ、でも隣はわたしだからうるさくしないで」


「あ、あぁ……わかった。なるべく静かにするよ」


 僕は少し緊張しながら、まだ何もない、けれど陽だまりのように温かい空気が満ちたその教室へと一歩踏み出した。

つい数時間前までは「浪人憲法」に縛られて一人でペンを走らせていた僕に、自分だけの「居場所」と、壁一枚隔てた場所に信頼できる「仲間」ができた。

窓から見える校庭の桜は、まだほんの少しだけ蕾を残したまま、僕の新しい生活を祝福するように春の風に揺れていた。


「ベッドは…商店街にいる芳賀さんというおじいさんが多分譲ってくれる」


 その芳賀さんというのは一体全体何故ベッドなんかを譲ってくれるのだろうか、そこから疑問に思う。


「商店街の芳賀さん……ベッドを譲ってくれるって、家具屋さんか何かなの?」


 僕の純粋な疑問に、リョウタがニカッと笑って答えた。


「いや、芳賀さんは『何でも屋』みたいな爺さんだよ! 昔この学校が閉校になった時に、備品とかを色々と引き取って保管してくれてるんだ。アオイが防衛隊に入ったって言えば、二つ返事で『一番寝心地がいいやつ』を出してくれるぜ!」


「……なるほど、そういうことか」


 どうやらこの島の「防衛隊」は、僕が思っている以上に島全体から支援され、愛されている組織らしい。よそ者の僕にまで、寝床の心配をしてくれる人がいる。その事実に、胸の奥が少しだけ熱くなった。


「じゃあ、ベッドが届くまでは雑魚寝かな?」


「何言ってんのよ。今夜は歓迎会だって言ったでしょ? 寝る暇なんてないくらい盛り上がるんだから、準備しなさい!」


 レイナさんに背中を押され、僕は苦笑しながらも頷いた。

教室は机と椅子が5つあり、黒板もあるがそれ以外は何も無くまだ物寂しさがある。ここが今日から僕の「拠点」になる、どんな教室にするかは僕の自由だ。

 隣の部屋からはアズサがペンを走らせる微かな音が聞こえ、廊下からは仲間たちの笑い声が響いている。


「それじゃあ、打ち上げは今日の夜6時に集合てことで!」


「ワタシは料理とかするから3時にまた戻るわ」


「レイナさん、私もお料理手伝います!お兄ちゃんはお母さんに打ち上げの事連絡お願いします!」


「わかった、母さんには僕から伝えておくよ」


 ミカちゃんにそう答えると、彼女は満足そうに微笑んでレイナさんと一緒に準備へと向かっていった。

 嵐が去った後のような静けさが教室に訪れる。

 僕は一人、誰もいない教室の真ん中で自分の机に座り、窓の外を眺めた。

 根大島ねだいじまに来てから、まだ一週間も経っていない。

 けれど、僕の周囲は驚くほどの速さで変わり始めている。


「よっしゃー!メグミちゃんは飾り付けをする!へいミナト!手伝うんだ!」


「わかりました、リョウタはアオイさんを送ってください」


 みんなは打ち上げの支度を始めるようで、僕とリョウタは先に一旦家に帰るとした。

 道中リョウタと色んな事を話した、本土にいた時の事とか、ミカちゃんの話とか。


「へぇ〜J大か、聞いた事あるな、アオイて頭いいんだな!」


「いや…落ちたし世間から見たら中堅レベルだし」


 少し僕は俯きボソッと言った、あの時はかなりメンタルに来たし、家族のみんなにも色々言われてメンタル的にはボロボロだった、何回か泣いたりもした。


「世間とか中堅とか、そういうのはよく分かんねぇけどさ!」


 リョウタは歩きながら、後頭部で手を組んで笑った。


「目標を持ってこの島でペンを走らせてる。それだけで十分かっけーじゃん。……俺には、そんな風に机に向かう才能はねぇからさ。だから、アオイみたいな奴が仲間になるのは、なんだか心強いぜ!」


 その言葉は、どんな「激励」よりも、今の僕には温かく響いた。

 気づけば、ミカちゃんの家――僕の今の家が見えてくる。


「じゃあ、また後でな! 芳賀のじいさんには俺からベッドのこと言っとくからよ!」


 リョウタはそう言い残すと、来た道をまた軽快な足取りで戻っていった。

 僕は玄関の扉を開け、静かな家の中に声をかける。


「ナギサさんいますか?」


「あら?どうしたの?」


 キッチンからひょいっと顔を出したナギサさん、どうやら料理中だったようだ。


「実は僕、防衛隊になったらしくて今日打ち上げなんです、それでミカちゃん含め防衛隊でお泊まりをと…」


 まだ来て間もないのにいきなりお泊まりをし家を空けるのはのは些か失礼かと思った。


「あらもう防衛隊に入隊したのね、この島に馴染めたようで良かったわ、いいわよ!楽しんでらっしゃい!」


「ありがとうございます、ナギサさん! じゃあ、着替えだけ持って行ってきます」


 僕は自室に行き、バッグに着替えと単語帳、アメニティグッズを入れ泊まりの支度をした、ナギサさんからはミカちゃんの荷物と飲み物を渡され再び基地に向かった。


「では行ってきます」


「ミカをよろしくね」


「任せてください、行ってきます!」


 僕はナギサさんに手を振り、ミカちゃんの荷物が入った重めの紙袋と、自分の着替えを詰めたカバンを持って家を出た。

夕暮れ時の根大島は、昼間の活気とはまた違う、どこか幻想的な色に包まれている。オレンジ色の光が海面に反射し、キラキラと眩しく揺れていた。


「……よしっ」


 廃校へと続く坂道を登り直す僕の足取りは、不思議と軽かった。

大学に落ちたあの日、僕の世界は真っ暗になったと思っていたけれど。

この島に来て、ミカちゃんに出会い、防衛隊のみんなと出会い。

止まっていたはずの僕の時間は、今、この島の風に乗ってゆっくりと動き出している。

坂の上に見える旧校舎の窓に、明かりが灯った。

そこには、僕を待っている仲間がいる。

僕の名前がないはずの場所に、新しい居場所ができようとしている。

僕は少しだけ駆け足になった。

四月の風が、僕の新しい生活を祝福するように、背中を優しく押し続けていた。




【大学入試本番(2月13日)まであと……312 日

 

ここまで読んで下さりありがとうございます!

少し投稿するまでに遅くなりましたが、ちゃんと毎日書いております!

少し資料の写真やロケに時間がかかってました!

これこらからも頑張ります!

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