第59話 何いってんだ?
気付くと宿屋の部屋でベッドに横たわっていた。何だ、今まで夢見てたんだ。二段構えの悪夢とは意地が悪いのにも程があるだろ。そろそろワンパターンの繰り返しにも飽きてきたな、もうちょい捻ってくれないかね。
「ん……ふぁ〜ぁ、なんか節々がギシギシいってんな……」
ぼんやりと辺りを見渡すと皆んながちゃんと揃っている、やはり夢だったな。魔法は残念だったけど資金が無事だったのは嬉しいな。
「おはようございます、アルさん。」
「アル、おはよう。」
何スンとしてんだ?ガキんちょコンビ。お前らが不満になることなんて特にないだろ?
「聞いてよ、昨日ナイターにウチらの全財産持っていったじゃん。」
いきなり爆弾発言来たよ。何サラッととんでもないこと言ってくれてんだよ。夢だろ……それって夢の中の話だったはずだろ?
表面には出さずに狼狽えていると勝手に話を続け始めやがった。
「アルが快く後押ししてくれた以上コッチも腹くくって決戦に臨まざるを得なかった訳だよ。」
快くない、後押ししてない、そして全く望んでない。新しい言い逃れのパターンか?逃してやる事はできないけどな。
「ええ、正に決戦。競馬って想像以上に素晴らしかったです!しなやかな筋肉から放たれる美しい疾走り、体幹、頭脳を持ち合わせ馬上にて戦いに参ずる騎手。そして人馬が一体となって勝利を渇望する姿。こういう勝負の世界があるのを私は知りませんでした!その上、その勝敗に同じ情熱で参加できるシステム!昨日は腹の底から吠えてしまいました!」
おいデカブツ、大人しかったのに急に熱く語り出すな。ただ単にギャンブルにハマったのを正当化しようとしても俺には無駄だからな。しおらしい演技をしてたのは分かっていたが、やっぱガキだな。抑えが利かなくなった様だった。
「それで最終レースで色々予想して、馬券を色々買って大勝利を確信してたんだけど……」
やめて、それ以上聞きたくない。どんな後始末しなきゃいけないか想像すると胃が痛くなってきた。生きてるだけで俺にダメージを与えてくるなよバカコンビ。
「そこそこの人気てそこそこの倍率にそこそこの賭けたのが当たったんだけど元手の一割そこそこ増えた位でなんだか釈然としない結果に終わったんだよ。」
「はい、最後は勝利の雄叫びを上げだったのですが、たまたま組み合わせで買った券だったので当たった事に気付いたのもレースが終わって暫くしてからでしたよね………」
当たってんのかよ!勝ったのかよ?資金増えてんのかよ!?なにガッカリしてんだオマエたち!?
なんだ、コイツらは大勝ちしないと納得しないのか?…………いや、そうだ、コイツらは金のためにギャンブルしてる訳じゃない。勝つ為、そう大勝利を掴む為になんだ!
と、危ない危ない。今は自制しなきゃならない事もある。ここで資金が増えたから良かっただろ?と言ってしまったら賭け事を容認したみたいになってしまう。デカブツはともかくバカディッドは言質を取るため虎視眈々とこちらを伺っている。微かに光る怪しい瞳を俺は見逃さなかった。こんな罠まで二段構えで来るんじゃないよ。
「いい加減にしろ。俺はあんなにすぐまた遊びに行くなんて聞いてなかったからな。いい加減言われなかったも許さない、後ろめたいから隠れて遊んでるんだろ?あと、全財産を持っていくな。勝手に俺まで背水の陣に組み込むんじゃない!」
「は〜い、チッ」
「はい…以後気をつけます……」
一人反抗的な奴がいるな。まあ、いつもの事だ、実際今回は被害は無かったのだから幸運だったって事だけだ。毎回こうなるとは限らないんだからな。自重せよ、アルゼ。
どうやら競馬は週末しか開催されないらしい。今日は月曜だ、しばらくは安泰か……やっときちんと休めそうだな……肩の力と気力が抜け、どうしようもない倦怠感に包まれて呆然となった頃だった。
「すいません、アルゼさんはこちらでしょうか?………あっ、昨日は申し訳ありませんでした。お身体いかがでしょうか?」
ノックに対応しマグがドアを開けると、そこには魔法使いが立っていた。




