第42話『Resistance(叛逆の風)』 A part
ルイス・ファルムーンが愛刀、紅色の蜃気楼さえ通じなかったルヴァエルの多彩な防御。
鍵の女性ルシア・ロットレンから背中押された朧気な英雄ローダ。
ガロウ・チュウマ一撃必殺の刃。
見様見真似で成し得た示現我狼・櫻華、緑色の輝きで全て防いだルヴァエルの腕を遂に斬り裂く躍進遂げた。
漁村エドナを村毎半壊させたマーダの必殺剣、輝く真空の刃よりローダが真似たガロウの示現が勝る疑問。
さらにこれ迄は、争った相手の技や術を掠め取ったローダ・ファルムーンの候補者思しき力の体現。
ガロウと稽古すらしてない彼が櫻華を振るえた理由の根源怪しい結実導いた。
Forteza市の防衛システムも正常稼働へ戻し切れた。これで外敵襲来、一連の騒ぎは取り敢えず解決に思えた空気。
「兄さん──状況が切迫してたといえ、よくもその格好で俺の前に顔を出せたな」
穏やかな語り口だが怒り満ち溢れた弟ローダの爆弾投下。一挙凍りついた周囲の面々。
地元ハイデルベルクの近衛騎士を全て殺害する事件を起こした挙句、騎士道にあるまじき国抜け果たしたルイスの大罪。
例えマーダの意識支配があろうとも到底容認出来ぬ。それは尊敬してたローダだからこそ尚更。
「フフッ……何だ弟。まさか神童である僕と殺るつもりかい? 剣が折れたのに?」
弟から浴びせられた静かな怒り。
剣を構えず棒切れが如く手軽に握り煽り返したルイスの零れた笑み。傍らのフォウがローダを睨んだ連れ添いの怒気。
ヴンッ!
ローダ無言の答え。
左腕を真っ赤に滾られせた手刀、己の肉体で示現我狼の滾る刃を具現化した怒りと覚悟態度に示す。
再会成した兄へ向けた怒髪天の様相。
ルシア、彼女自身が嘗て戦い暮れた狂戦士との邂逅彷彿させた鬱なる震撼招き入れた。
「止めてッお願いッ! 二人は血の繋がった兄弟なのでしょう!」
兄弟の誓い、姉妹の契り──何れも知らぬルシア涙滲ます訴え。彼女は血縁の温かみを知らぬ存在なのだ。憧れの想い駆られた。
ルシアがハイエルフすら凌ぐ美麗漂わしながら精霊達と語れる姿で突如Resistanceの中心に浮いたのは何故か? 世間が気付くべき幻影。
そこに居るフォウ・クワットロが『こんな女見た覚えがない』と狼狽えた。漁村へ夜襲掛けた折、独り黒猫の瞳。我が物顔で暗闇と触れ合った幻想の片鱗。
バチンッ!
構わず赤い手刀振り翳したローダ無言の攻勢。腕と大剣が相まみえたとは思えぬ嘆きの音轟く。想像絶する手刀の剣圧、女形匂わす美しさ湛えたルイスの顔、苦悶に荒んだ。
構わず叩き込むローダの手刀が二刀へ転ずる理不尽。
ルイスは何故か紅色の蜃気楼の片鱗語らず、凡庸であった弟の二刀が散らす赤を受けるだけの平凡へ堕ちた。
ローダが両腕で現界させた紅の示現思わす太刀筋が辛辣過ぎるのだ。ルイスの歪な紅をMirageへ転化させる隙与えぬローダ壮絶蹴った凄絶なる滾る舞。その姿、正に炎舞。
──な、何だこれは!? お前本当にあのローダなのか?
ハイデルベルクにて互いに騎士目指し轡並べた少年時代。
弟ローダは常日頃からルイスの背中追い続けるだけの可愛げしかなき弱者であった。
漁村エドナで足蹴にした示現流の剣士。
斬り裂かず、すべからず叩き捻じ伏せる狂犬、同様の力滲ませつつ剣速は細身の剣、羽が如き神速。黒い神名乗りを置き去りにした。
さらなる不条理が背中に残りし鍵が授けた風の翼、此れに頼らぬ控え残した弟に辛み感じる兄ルイス。
冴え渡る弟、技の斬れ──ルヴァエル戦で何故出し惜しみしたのか腑に落ちぬ不可解。儚き白刃が枷成していたのか。
「ルイス様ッ!」
「男の間に割って入るな!」
己が男の危機瀕した姿見て愛孕んだ忠誠成そうと動いたフォウを叫んで止める暗黒神の強がり。
さらに攻勢の速度上がり往くローダの冴え、赤に染まるよもやな脚加えた四刀。阿修羅舞い、滾りが四方から襲い来る修羅道。死してなお戦い続ける地獄の沙汰思わせた。
ルイスも神の矜持──決して譲らず。
大剣の届かぬ至近から蜘蛛の様に襲来し尽くすローダの赤。紅色をMirageに帰する暇なくとも交える巧妙超えた奇妙なる剣で応える。
「兄さんッ! アンタ程の男がマーダに抗わず負けるッ!? 一体何狙っているんだッ!」
「フンッ! 次は舌戦を挑むかッ!」
蜃気楼に為り切れぬ赤──焼き尽くす断罪の炎燃やした真実の紅。
流され座した英雄、真格以って神童に挑み果敢に覚悟の道斬り拓いた。
「舌戦ッ!? 言っても判らないアンタがッ!」
「ぐぅッ!?」
一方敢えて望んだ漆黒の玉座、兄ルイスが感ずる躰の軋み。例え斬られずとも一方的に殴られる衝撃に燻り堪える兄の意地。
──なんて力だ。これが真実なる扉拓いた者!
恋慕寄せるフォウの手助け借りながら、弟の候補者としての力に肩並べたと安堵してた己を叱咤したい気分に駆られたルイス。歯を食い縛る怒り。
「ぐぉぉぉ……ローダァァァッ! 他人から奪った力で逆上せ上がるなァッ!」
「負けるものかッ! 俺には仲間がッ……ルシアが居るッ!」
どうにか盤上返す神の一手を刺したいルイスの苛立ち。
恐らく企み抱えた上で敢えてマーダを許容したと決め付けた弟、裏切られた想い全乗せする怒涛。
ギュッ……。
彼氏の神超えた攻撃を独り案じるルシア、静かに見守りながら拳を握る力に込めた祈り。
女傑、鍵、そんな塵は捨て置きたい女の想いだ。ローダの変身、いよいよ躰が精神が保てるのか危うい動き。『兎に角無事で……』待ち続ける心の灯揺らぐ。
『ルシアよ、アレがお前の見初めた男だ。力だけを押し付ける凡人に過ぎぬと何故思わん?』
「──ッ! お父さん!」
不意にルシアの脳裏へ直に響いた乾き切った老人の声。気が付けば空に立ち込める暗雲。
自分を成した者から受けた忠告混じえた下世話。
心の声──否、まるでルシアの脳裏へ直に埋め込まれた電波塔。 周波数帯、合わせる迄もなき頭ごなしが、思考を詰るかの如く流れ込んだ。
周囲の空気など意に介さぬ癖──ルシアが容赦無き歯痒さ込めた鬱憤を吐き散らす。
「お父さんが望んだ者じゃない! 気に入らないからって勝手過ぎるよ! ならどうして私に愛する痛みなんか与えたのッ!」
一体何処に訴えってるのか不明瞭なルシアの叫び。天に届け、地へ轟け──怒声を慟哭の涙へ変え、響けとばかりに感情ぶつけた。
『ぐっ!? 相手を殴り判り合おうとする愚者を認める訳には往かん!』
「間違ってるって判ろうとしない父さんこそ哀れだわッ!」
暗闇の雲が降らす豪雨と轟き始めた稲光──。
それに負けぬ劣らずなルシアの涙雨。判らず屋な父の背中へ雷が如く刺さり往く。
怯む白髪の老人、AIが飛ぶが如くなる跳躍成した彩芽から諭された『好きに振舞うAI』の件、窶れた頭中に渦を巻いた。




