第41話『Conversations of the Void(虚無の語らい)』 B Part
ルイス・ファルムーンが真の殺意向けた仇斬るべく振り下ろした紅色の蜃気楼。
これ迄如何なる攻撃も緑の輝きと共に受け流したルヴァエルに初めて走る狂気。
だがルヴァエルは朧へ転じ微塵も動じずこれを透かした。然もルシアの起こした風すら通り抜けた映像の如き朧気なる様。
攻撃手段なぞ在り得ないかに思われたルヴァエルの青色。
ルシア・ロットレン、ローダへ手向けた愛する心の間隙縫われた女のやらしさに覗かれた辱め。
明らかに身体の持ち主、ルヴァエルとは思えぬ煽りに羞恥と疑問入り混じるルシアの心揺らいだ。
この現象、仮に青いルヴァエルが成した幻術の類と仮定しよう。だが全く以って目的が見えないのだ。
攻勢へ転ずる為の幻であれば無意味、若き女の子の恋華に嫉妬と下品ぶつけた叔母さんの戯言に過ぎぬ。
何とも妖しき中年女性の意識、未だうら若きルシアの恋愛模様を弄ぶ。
──『ルシア・ロットレン、貴様に初夜と女の悦び与えた英雄? 女が拓いた男、フフッ……それで満足か? 俗物にも満たぬ慰み愛だよ』
──カチンッ!
恋慕する彼氏への悪口、流石に苛立ち感じたルシアの胸奥。さりとて裏腹なる怒りの根源。思い当たる節、在り過ぎて胸焼けしそうな嫌悪感。
兄ルイスを辿りこの島へ向かう矢先、偶々目に留めた漁村エドナに於けるルシア達の争いへ暴徒化した挙句、実は邪魔立てした彼氏。
鍵である彼女が無意識にもローダの記憶を封じた。結果、ルイス化した暗黒神を退けたのは彼女自身と云う間の抜けた事の顛末。
然もだ──。
メッキ塗れの嘘吐き学者から云い渡された青き薔薇。『俺は此奴を生涯守り抜きたい!』あの魂震えた言葉に偽りはない。されど云わば流され受けた偽りだらけな見せしめ。
「だからぁ? だったらどうしたって云うのよ?」
突如心の声を肉声に変え、毒混じえた罵倒浴びせ返すルシアの嘲笑。鼓膜震えた皆が振り返るちゃぶ台返しなる様相呼び込む。「る、ルシア?」ローダの狼狽え引き出す必然。
「言ったでしょ? 私が全部背負うってさ。彼は私が一生導くのよ」
嘲けと艶めかしき一皮剥けた色香漂わす恍惚滲むルシアの発言。いよいよ要領得ない周囲の連中、続くよもやなルシアの誰に向けてか判らず終いな挑発。
これはまさしく先程から中年女性の意志が煽る初夜のやり取り、気持ち直に受け取った彼氏だけ『嗚呼……』な気分だが争いの場で持ち出す話? 的外れにも程がある。
「──えっ?」
朧、消し掛けたルヴァエルさえ困惑の色艶。
緑に続く暁光、幻と相手の魂付け入る力。されど愛初めましてなルシアの間隙覗いたのは彼女の意志ではない。
確かにローダ・ファルムーンは鍵に拓かれた扉に過ぎぬ。
扉とは良き者を受け入れ、悪しき者は閉ざす器の出入口なのだ。
ローマの若輩なる漁師ディンに乗せられ揺られた笹船、流されて然るべき存在。
──だが、それで良いのだ──
「風の精霊達よ、彼に真なる自由の翼を!」
ルシアが己でなく他人に捧ぐ風の翼。ローダを月影から太陽へ担ぎ上げる鍵の矜恃。
「──ッ!」
不自由な笹舟が航海繰り出す自由授けられたローダの喜悦。ルシアと初対面で戦い暮れた初めての夜。
候補者はあくまで候補、未だ全てを相手から掠め取れる程万能ではない。言葉を要さず願いを見抜いた至高の彼女。寄り添うルシアの想いが重なる気分に心震えた。
「──『櫻華』!」
次なる調べはローダが自ら繰り出す見様見真似。ガロウ・チュウマの滾る刃を再現、ただ浮くに非ずな好きに空舞える自由の翼。
──空気が変わった!?
紅色の蜃気楼すら透かしたルヴァエルの暁光。
物体に過ぎぬ滾る刃も摺り抜けるが道理。なれど変わり果てた男の魂が天上から降り注ぐ理不尽覚え防御へ帰る。
技に非ずな裁きの豪雨、虚無が形を成したルヴァエルへ突き刺さる人の重い。緑色の両腕十字を掲げ白刃が燃ゆる魂へ昇華果たした存在を迎え鬱ルヴァエル。
ザクッ!
パキンッ!
「ば、馬鹿なッ!」
「折れた?」
全身バネで振り下ろされた、ローダ断罪の刃。
重ねたルヴァエルの腕一本、よもや貢がされる。普段魂在らずな翠眼が、見張らずにいられぬ驚異の図式。
揺さぶられたルヴァエルに、芽生えた初めてなる感情。
機械じみた腕を失い、ショートした電撃が飛び散る様。だが、自身のダメージよりも心を動かされた分の方が完全に大也。
そしてルヴァエルの硬気と交わったセラミック製刃、体力保てず硝子の如く砕け散ったローダの剣筋。
バシュッ! バシュバシュッ!
此処で無粋極まる砲撃の雨霰。
外敵感知成し得たForteza市の迎撃System稼働の花火。『30分だけ僕に時間を下さい』路線止まった気分思わせぶりなドゥーウェンの遅延、漸く動き始めた。
「お、おぃッ! なんてもん人に向けんだ巫山戯んなよぉッ!」
一応外敵のみを狙う迎撃ミサイル。誘爆する必然を女らしさ全開で華麗に舞踊るが如く躱すレイの空間転移。逃走しながら文句垂れる器用さ。異端かつ流麗な動きで避けた。
『皆様お待たせしました、漸くFortezaの迎撃Systemを此方側へ掌握出来ました』
今更過ぎたドゥーウェンからの通話報告がローダの腕時計型携帯端末を鳴らす本末転倒。普段通りの業務報告な声色響く苛立ち。
敢えて蒸し返す話、彼がフォルテザの長に収まって即時、これを成していれば馬鹿騒ぎは回避出来たのだ。欲しかった玩具手に入れた歓喜に諸手挙げ大事を置き去りにしたに違いない。
然しながら此れで外敵対策は完調し尽くしたのか。
何しろルヴァエルにはあらゆる攻撃嘲笑う青の暁光と、防御と攻撃が混然一体成した緑の閃光があるのだ。
彼女を乗せて駆けた試作機RaviNeroなら通じたやも知れぬ。中身に効くのか未知数なのだ。
「ふぅ……今日の遊びは此処迄か」
飛び交う砲弾の最中、朧月夜用いて透かし続けるルヴァエル余裕の絵柄。けれどもこれ以上進撃する気がない気分、溜息と共に吐き出した。
吐いた台詞とほぼ同期したかの如く、細かい光の粒と為りてその場から消え往くルヴァエル自在の退場。これは暁光の延長線に存在する力なのか?
或いはハイエルフ・ベランドナがローダ達をフォルテザへ呼び寄せた術式『生物召喚』由来なのか理解し辛い絵面であった。
結局の処、正体不明のまま逃走されたルヴァエル戦。
重い腰上げ、霧が晴れ渡ったかの如く出現した紅色の蜃気楼の使い手ルイス。
そして場の空気に流され生まれた英雄ローダの三つ巴。総て虚無めいた闘争の幕切れ?
──人はそれ程便利で数字の如き割り切れる生物でない。




