第41話『Conversations of the Void(虚無の語らい)』 A Part
ルヴァエルの機械仕掛け思わす躰、至る所に存在する翠焔。
これぞ彼女の力を象徴する色艶。人と機械入り混じる姿でローダ達の攻撃をすべからず弾いた根源吐露した自信。
ルシア『それでも!』と相打ち覚悟で初めて放った土の精霊術に因る鋼の拳。
相対するルヴァエル、緑が実り帯びた赤へ移行しながら迎えうつ準備整えた矢先。
大海蛇の爪思わす金色混じりの漆黒が果たす介入行動。
ヴァロウズのNo4暗黒神の神聖術士、フォウ・クワットロの微笑みが巻き起こした結実であった。
これ迄常にマーダの背中預かる彼女がよもやな先陣、後塵拝すルイス・ファルムーンが僅か遅れて参戦成した逆転劇。
未だ宿敵──それもローダ達に取っての最上級が背中護る形で姿現した。
否応なしに走る戦慄、これは必然。
「ローダ・ファルムーン、そしてルシア・ロットレン。今日の僕達は君等の味方だ。そこに振ん反り返った僕達の宿敵を追い払う。レイを送り込んだ理屈と同じだよ」
金色の飾り──フォウが鍵、界嫁させ聖痕成し得た神格の表れ。
彼女を先に送り込んだルイス余裕の真顔。嘲笑面消え失せた視線を血縁の繋がり含む連中へ注いだ。
さらに鞘不要の歪なる大剣、紅色の蜃気楼が彼の手元で赤い霧の中から名前に違わぬ現界果たす。
ピクリッ……。
ルヴァエルの眉、微かに揺れる。
紅色の蜃気楼で己を差し『宿敵』と罵られた発言。マーダこそ我の宿敵、真祖レヴァーラを無理矢理虜に落した巫山戯た存在。『聞き捨てならぬ』彼女に流れる血が叫ぶ逆鱗。
カッ!
ルヴァエルの翠眼が赤に染まる激怒呼び込む。
ゆらぁ……。ルヴァエル周囲の大気、蜃気楼が如き揺れ動く様。当人もふらりと目眩思わす変遷、蠢き首鳴らした。
「宿敵? 空耳かなぁ……。言葉の意味判ってるぅ? 貴様が300年もの間、間抜け面晒して生き長られたのは誰の御陰ェッ!」
両目ひん剥き爪立て、牙見せルイスへ飛び掛かるルヴァエル狂気の変貌。これ迄何されても涼風吹かした少女が初めて見せる怒髪天。
レヴァーラ・ガン・イルッゾから得た異能──意識を他人へ移し替える力を躰毎強奪した故、現在のマーダが存在し得るのだ。
畏敬の念抱くべき相手からまさかの『宿敵』呼ばわり。ルヴァエルの激怒、察して余りある。
だが其れにしても別人格──いや、別人に転生し切った様相。少女が一転、吸血鬼──それも散々『眷属』と云い尽くした存在が『真祖』を彷彿させる変身。
ボッ!
ルイス、まるで暴発したライター思わす炎、蜃気楼に変わり失せた。
人から神獣へ転化した感あるルヴァエルの奇襲、赤から霧に転じ避けず透かした。これぞ紅色の蜃気楼の真価だ。
首強く横へ振り、消えたルイスを追い求める神獣ルヴァエル。これでは獣の狩りそのもの。
ヴォン!
別の生物へ転化したルヴァエルの背後、赤い霧が瞬時集結し尽くし、大剣に帰った紅色の蜃気楼を振り上げたルイスの鮮烈。
そのまま斬られる程、凡庸に非ずなルヴァエル。『殺るなら背中だろ?』瞬間、向かい合いこれ迄あらゆる攻撃を受け流した灰色の掌差し出す。
だが紅は灰色と混ざらない。赤い大剣の姿成したまま、ルヴァエルが防御を擦り抜ける冷遇。
光を集め成した剣だから他と交わらない?
否──紅色の蜃気楼は真の殺意向けた敵の命狙いて斬り裂く無双剣なのだ。
よもやなルヴァエル敗北の絵柄?
殺意──。
それは言葉通り、殺害すべき相手が朧でなければ成立するのだ。
「なッ──!」
斬った手応え感じぬ違和感。今度はルイスが慄く番迎えた。
緑から怒りの赤、『止まれ!』と凶烈な生死与えるかにみえたルヴァエル色彩の変遷。
まるで蒼き月、緑から赤の次は青。SIGNAL思しきLOST。
──間違いなく『閃光』の緑だったんだ、他にもあるのか!?
ルイス、またしても300年前の記憶を辿りルヴァエルが先祖。旧約聖書に在る『生命の大樹』の頂点に君臨するレヴァーラが最初に成し得た力閃光。
緑の輝きが渦成す折、レヴァーラの精神・体力共に他を圧倒する能力を引き出した。ルヴァエルの躰、至る所に見られる緑こそマーダが最も怯え震えた力の再現。
なれど緑から一瞬赤思わせる片鱗見せるも、次は青の朧月夜を体現したルヴァエルの変幻自在。
「やあ、今のは流石に冷汗掻いたよ。まさか青まで引っ張り出されるだなんてさ」
冷汗掻いた──?
それは嘘だと周囲に伝わる寧ろ挑発の蒼色。『青だ、お好きに行ってどうぞ』的な空気。
処で黒猫RaviNeroと争う直前『俺達の戦いぶりを世界へ流すんだ』だと珍しく豪語したローダの憂鬱。
意識保ったまま2年ぶり、尊敬する兄との思いがけぬ再会果たすも『これが俺とルシアの仇』魂が眩みそうな気分。完璧に彼は外野へ置き去りにされた。
思わず愛するルシアへ目配せ、情けない救い求めたローダの哀愁。『俺の鍵は誰にも負けない! 不甲斐ないのは俺自身だ!』心音で己を叱咤激励するしかない。
ビュュュゥ……。
鬱なる彼氏の気分を察した気遣いの出来る彼女ルシア。
ルイスが振り下ろした紅色の蜃気楼を擦り抜けたルヴァエルの朧度合を確かめるべく、風の精霊を送り込む試み。
何も当たらず騒がず……。青に転じたルヴァエルは、風さえ意に介していない。存在自体、喪失した不愛想。映像だけの完全なる虚無。
──と、云う事は攻撃へ転じる為に緑に戻らないと恐らく何も出来ない。
ルシアがそう断定した矢先の出来事。
──『フフッ……。ルシア・ロットレン、貴様の中に初めての悦びを刻んだ男の味は甘美であったか?』
「──えッ!?」
霊魂でも通り抜けた背徳感じたルシアの悪寒。確かに感じた女の声、されど16歳の少女ルヴァエルの台詞とは思えぬ不可思議。
──『我は男から手向けた愛撫を知らぬ……いや、違うな。金欲しさに腹跨る淋しき踊りだけ。少女の熱に焦がされた夜なら、虚夢忘れるが如くあるのだがなフフッ』
自嘲──。
明らかに中年女性の妖艶溢れ出た声音感じたルシア、これはルヴァエルの仕掛た幻想なのか?
否──寧ろ心に眠る本音に思えた女の勘。空虚の淵なぞった感覚であった。




