第3話『Black Knight(黒騎士)』 A Part
アドノス島北の端、辺境の漁村エドルを襲う黒い剣士率いる軍団。
それに対抗するのは髭面の剣士『ガロウ・チュウマ』率いるフォルテザ王国の圧政に異を唱えるResistance。
精霊術を駆使して戦う女武術家ルシアの反抗度合い。黒い正規軍の想像を絶する強さで戦局を大いに掻き回す。
「──な、何だあの騒ぎ?」
火の囲いに炎の精霊術と爆炎魔法の衝突。さらにResistanceの荒ぶる声は、密やかにアドノス入国を目論む船上のローダ・ファルムーンにも届いていた。
渡し屋ディン少年を見やるローダ。
ディンも首傾げて「こんな騒ぎ見た事ねぇよ」と応えるより他ない。
普段静けさ漂う地だからこそ、ディンはエドナ村を目指してるのだ。だから知る由も無い。
──い、一体何が起きている?
ローダの黒い瞳に映る火の手、驚きの思いが心揺さぶる。
だがそれとは別の不可思議な心高鳴る気分入り混じる。その正体がローダ当人にまるで思い当たる節がなかった。
◇◇
思わぬ苦戦を強いられる黒の軍団。
あからさまな首領格である黒い剣士と女魔導士。
女魔導士、その名は『フォウ・クワットロ』
彼女とてResistanceのリーダー格、ガロウ・チュウマの存在は聞き及んでいた。
アドノス島はその土地柄、元欧州であるにも関わらず、その男が振るう剣は東洋の国『桜陽』の刀に酷似している。
加えて現状まざまざと見せ付けられてる通り、剣士で在りながら一振りで相手を両断する凄腕の持ち主。
尤も類稀なる剣士が暴れた処で戦局を転覆出来得る筈もなく、黒の軍団に殉ずる特殊な連中に歯が立たず壊走せざるを得なかった。
然しまさかこんな辺境の村をこんな剣士が守護していたのは想定外。
黒の軍団の首領格、元々出張る予定はなかった。気紛れによる観戦の為、着いてきたに過ぎない。フォウとしてはこんな陳腐な争いに助けを乞う汚名は避けたい処。
──この可笑しな女は何!?
精霊術を武術に応用する存在など初見である。フォウ自ら戦線に出なかった戦は確かに存在する。だがそれにしてもこんな異常者。噂飛び交うに決まってる。何故知らないのか不思議でならない。
兎も角黒の軍団的にこのルシアは途方もなく煩わしき存在。
拳闘士的身軽さで動き回る上、風の精霊術で飛ぶ様に跳ね回られて、鎧を纏う騎士では如何にもし難い。然も炎の拳を用い全身鎧の隙間を突いて圧倒する。
フォウが如何にか詠唱の暇を稼ごうと試みるものの、威嚇の拳や蹴りを打ち込まれ成す術なし。
自分達の首領格に弱味を見せたくないが、つい後方へ視線を泳がさずにいられない。されどこれでは時間の問題、何れ助けを借りる羽目に陥る。
「──ハァッ!」
「グッ!? し、しまったッ!」
悩みと切り抜け方の意識が織り交じる最中、女武術家から左の裏拳飛び込む。フォウ、身体が勝手に反応。魔導士の杖で防ぐ愚策。脆くも折られてしまい大きく後退。
「フォウよ、4番目らしからぬ戦いぶりではないか? あんな小娘如きに後れを取るなど慢心だなこれは」
「ま、マーダ様っ!? も、問題ございません!」
フォウ、気が付けば己が敬愛する黒騎士『マーダ』の直ぐ近くまで自分が下っていた状況を声で知る。焦りで全く以って解決策を見出せないまま嘘吐かずにおれない。
マーダに連なる実力者、10人の4番目である自分がこの様では心底屈辱過ぎる。
この争いはエドナ村の殲滅が目的。それにも拘わらず未だ村に足を踏み入れる処か味方は壊乱。自身も打開出来ず後退を余儀なくされた。
「問題ない? 質問の回答にまるで為っておらぬ」
高飛車な声音極まるマーダの指摘。
然し正しき指摘故、ぐうの音も出ないフォウである。我ながら的外れ過ぎる応答。自分の無能を認めざるを負えない。
カッ!
「ぐっ!?」
「ひ、光の精霊術!?」
マーダとフォウの目前で突如弾ける眩い光。2人の視界を奪い去るのに充分過ぎる。魔導士であるフォウは確信する。間違いなくあの武術家に仕掛けだ。
ブォンッ!
風切る音と共にルシアが時空転移した様な勢いでマーダの背後に回る。敵は何やら話をしてた。この機会逃す手などあろうものか。
敵は剣士、然も馬上。背後からの攻勢返す刀など持ちようがない。
ブンッ!
──ッ!
思いがけぬマーダの反撃。
腰に差した剣を柄毎背後へ繰り出す。これも風切る音が聴こえた。
意外なる攻防一体。されどルシアとて負けてない。
風の精霊術は彼女が最も得意とする術式。精霊の翼用いて跳んでるルシア。正に風と自分を一体と成す。
舞う木の葉が如くマーダが起こした僅かな風に乗り、柄に寄る攻撃をふわりと往なしたのである。