第36話『"Ley", where the law lies("レイ",法の在処)』 A Part
Fortezaの創設者であり、嘗て現人神と称え恐れられたレヴァーラ・ガン・イルッゾが眷属。
断罪者ルヴァエル駆るRaviNeroVs候補者ローダ・ファルムーンと、鍵の女性ルシア・ロットレン愛なる結託の図式。
風の精霊帯びた拳を地上へ突き立て煙幕を張ったルシア。
されど敵はAI探知式、赤く鋭い目頼らずとも天敵を感知する術は多岐に渡り往く。
メインカメラから覗き見る土埃、操縦士ルヴァエルが「何も見えぬ」と文句を垂れるだけに留まるのだ。
極論──もし仮にだ。
RaviNeroの中枢回路がルヴァエル擁する猫額に非ず、別の何処かに存在したとするなら、首毎捥いだ処で敵の動きは沈黙適わぬのだ。
「ハァッ!」
拳で自ら起こした爆発と同時に宙へ爆ぜたが如き華麗なるルシアの跳躍。気合いの声さえ敢えてド派手なる囮狙い。
或る意味愚昧なる頭脳に忠犬なるRaviNero、候補者に在らずな彼女には飾りの視線すら与えぬ。
天敵しか眼中に無き兵器。だがほんの僅かながらも脚元揺らぎ掬われた。
ヴンッ!
超強化セラミック製、文字通りなる白刃が蒼白い輝き纏いてRaviNeroの首筋──セスナを断罪の供物に捧げた辺りへ振り下ろす。
当然、ローダの御業。目眩に非ずなルシアの背後へ忍んだ流麗極めた連鎖。
然しこれしきの首狙いが会心の一撃必殺に成り得るほど甘くはなかった。
見てくれ通りの掠り傷──。機械相手じゃ擦過傷にも成れない。
物語的にありがちな血を濁流の様に垂れ流した者が『問題ない、掠り傷だ』などと嘯くに至らず。不死の巨人が鎧と成した人型兵器の装甲さえも斬り裂いた刃が通らぬ理不尽。
なれど白刃を振るったローダはおろか、共に見ていたルシアさえも動じる気配感じさせぬ不可思議。『予定調和だ』言わんばかりの泰然自若。
候補者を絶命させる使命帯びたRaviNeroとて無論黙っちゃいない。
全高約5m、全長約10m──。
これだけでも既に人間相手じゃ兇器と云って差し支えない圧倒感。
されどRaviNeroの長くしなやかな後ろ脚、四本脚の獣が二足歩行へ大化けする劣悪。
高み取りつつ背中に生やした4本の悪目立ちする棘。これらがローダの着地点狙い澄ました発砲。30mmバルカン射撃の雨霰。この機体、本当に試作機なのか?
これでも揺るがぬ英雄なる二人組、ルシアが風の精霊術でローダの周囲を巡る空気を掻き回す守備。巨大兵器相手に期待裏切らぬ活躍見せ付けた。
だが──。
疑問多きローダとルシアの闘争に於ける一手。
2本脚へ転じた兵器……。吊り橋渡るが如き危うき所在と云える。
2足歩行人型兵器が常日頃から抱える弱点、オートバランス。猿から人類へ革新遂げた我々でさえ、誇大な頭支え尚且つ二本足で歩く危険性を普段から孕んでいるのだ。
増してや相手は機械、後脚の指ひとつでも損失させれば此方へ勝利の方程式転がり込む確率跳ね上がるのだ。けれども脚狙う気配すら粉微塵も感じさせない立ち回り。
──あの尻尾が厄介なのよ。下手に寄せたら鞭の様に叩かれそうで正直怖いわ。
これはルシア、心音による舌打ち──。
RaviNeroの黒い大蛇を彷彿させる尻尾。
機敏さならばローダの弐手上を往けるルシアですら、慎重に成らざるを得ない存在。
進化の最上位に座する人類が喪失した異なる進化の系譜。さながら別の意志秘めた印象。
これはルシアの戦いに於ける熟練者的発想。もうひとつ気掛かりな点。
扉を拓いた候補者、ローダ・ファルムーンの相手が意志無き者。恐らくローダに取っての初顔合わせなのだ。
マーダ、ルシア、ルイス……。犬族等々、ローダの戦歴。
彼は剣、時には拳を交わす事で敵と会話を熟すかの如き異端者なのだ。意志秘めた相手と戦う都度、変身遂げるローダの卓越した能力。
もう良い加減語り尽くした話──RaviNeroは機械、単純なるAI。決して何も得られぬ争いに他ならぬ。
この辺り──。
『兵器なんかに負けやしない』と啖呵切りつつも王手へ踏み切れぬもどかしさを感ずる理由だ。
ローダは再び切断敵わぬ敵相手へ蒼白い白刃を浴びせ続ける。傍から見るに華麗でこそあれど何とも歯痒き戦術。
初の外敵相手に戦い挑む弟。
モニター越し、固唾飲んで見つめる黒い兄に潜む300年前の敗北引き摺る意志とて同じ鬱憤を抱えていた。
本来ならば己が先陣切りたい終われなかった戦争。心に抱えた古傷疼く悔しさ──だが彼は独りではない、例えそれが紛い者の傀儡であろうとも。
ズダダッ! パリンッパリンッ!
「えっ?」
「な、何だ?」
信じ難い光景に遭遇したルシアとローダ。RaviNeroの赤い飾り目が甲高き悲鳴と共に飛散する様映り往く。
されど二人の曇り無き眼は、確かに捉えたのだ。
コルト・ガバメント──限りなく近しい自動小銃二丁のみ、猫額の目前。不自然に…そして無慈悲に姿表れ、数百年未来の子孫へ鉄槌下す驚天動地。
1911年生まれの老朽甚だしき存在。
なれど100年にも渡る最中、人の紛争を見守り続けた歴史の生き字引。木霊する銃声、まるでマーダの咆哮を体現し尽くした絵面。
「──よォ、面白そうな玩具と遊んでんじゃねぇか。英雄様よ!」
銀髪のショートカット、やはり銀色のロングコートを羽織り無慈悲込めた嗤い垂れ流す細目の女性。
如何にも好戦的な殺し合いこそ人類の煌めき、そんな風体匂わす美学。けれども得も言われぬ魅力溢れる姿形。
「俺様はLey、マーダの御使いって奴。余りに見兼ねて助けに行けって言われた。まっ、そういうこった英雄」
呆気に取られた二人を他所へ放り、身勝手に口開き続けるレイ。何時の間にやら拳銃達が彼女の手元に収まる不思議。
Leyとは旧スペイン語で『法』を示す言葉。
レイは法の守護者としての経歴があるのだろうか。
「あ、此奴等イカしてんだろ? コルトに似せて造らせた俺様の愛人。『Ley-the-mend』ってカスタムメイドだ──おっと危ねぇ」
RaviNeroが語りに入れ込むレイを30mmバルカンでつけ狙う。
軽々とその場から消え失せ、ローダ達の背後へ回る驚異。
Ley-the-mend──法の先導者。
能々聞き直せば出鱈目な名前。Leyは旧スペイン、theは本来theであるべき。
実は『Rage-mend』を織り込んだ造語やも知れぬ。レイの言動的にも馴染むのだ。




