第2話『Resistance(反乱者達)』 B Part
アドノス島、北側の中央部に位置する辺境の村エドナ。海岸線沿いであり漁で生計を立てる世帯が多数。
深夜──ただでさえ不安な怪しい静けさの只中、自ら暗黒神を名乗る外連味帯びた黒い男が率いる輩がこの村を殲滅すべく姿を現す。
いち早く察知したのが緑の瞳を持つルシアという女性。緑迷彩のマントに身を包み、本来の見た目こそ定かでないが、木の枝に身を隠した様は森人達を彷彿させる。
▷▷──もうちょい、後30秒。
妖しげなカウントを髭面の剣士ガロウへ言の葉で伝えるルシア。緊張感高まるResistance。
「今よッ!!」
「──ムッ!?」
ルシア、突如声を荒げる。態々敵の注意を自分へ惹き付ける勇気。
村の至る所、それ処か族の背後からも火矢が続々放たれる。されど敵兵には全く掠らず周囲を囲む位置へ落ちただけ。
湿り気混じる海辺の砂地、例え火矢でも拡がり見せず消え失せるかに思えた黒い軍団。
バァッ!
「征くよッ!! ……風の精霊達、私に自由の翼を」
木陰に潜んでいたルシアがマントを脱ぎ捨て夜空へ舞う跳躍。派手な出方と裏腹しめやかなる風の精霊術による詠唱。
迷彩柄だった姿形が白いふわりとした萌え袖染みたどう見繕っても戦いに不都合な衣服へ様変わりする大胆不敵。金髪棚曳く天女が如き様。
処で大層執拗いがルシアの視界良好ぶりは余りに異常過ぎる。
暗過ぎて味方さえ気取られていないが、緑の瞳がまるで猫の如く瞳孔を拡げてるから為せる行い。地味だが到底普通の人間には成せない御業。
直ぐに消え逝く火矢の最中、月灯りすらアテにならない状況で敵へ単身空を飛ぶ。狙うは魔導士らしき女の頭上。
相手的──特に女魔導士を囲む男の騎士達的には目のやり場も対応手段も困る有り様。暗闇でも肢体に視線釘付け。流麗なる天女の一挙手一投足を黙って見送るしか出来ぬ無能。
ズガーンッ! ズガガーンッ!
「なッ!?」
「か、囲まれた!」
女武術家に気を取られた魔道士風情な女と彼女を囲む馬上の騎士達が慌てふためく。敵兵力全ての周囲を瞬く間に火の壁が取り囲む。
砂浜に予め湿気を遮る仕組みで仕掛けられた火薬。火矢が点火し誘爆を生む。
「炎の精霊達よ、私の拳に宿れッ!!」
ブワッ!
ルシアの右拳が突如燃え盛る。躰を捻り女魔導士の直上へ叩き落とす動作。魔導士守護の任を受けた騎士達、未だ何も出来ずただ見上げるのみ。
地面は爆炎の囲い、さらに可憐に夜空舞い踊りし危険な燃ゆる拳の二重苦。余りに突拍子過ぎる。
「……その息を我に与えよ──『爆炎』!」
「なっ!?」
然しこの魔導士、黒い剣士の肝煎りなる存在。ルシアの拳近寄るのを察知の上、事前に中途まで詠唱を済ませていた。
フォルデノ城下で兵舎を吹き飛ばした爆炎呪文。焔玉を魔導の杖で己が頭上に点火。ルシア炎の拳と見事相殺。女同士、文字通り火花散らせる。
──グッ!? まさか魔導士相手に仕留め損ねるなんてっ!
砂地に降り立ち悔しがるルシア。
魔導士と黒い剣士。何れか先に手傷負わせれば、後はただの騎士や兵士。
烏合の衆相手なら、味方の兵士もさぞかし組み易いと狙っていたがアテが外れ思わず歯軋り。然し狙いは違わない。
──爆炎と相殺!? 馬鹿な!
見事防いだ女魔導士に走る戦慄。よもや拳一つで魔法と互角など到底容認出来ない。
敵の武術家らしき女が囲いの騎士達へすかさず砂を撒いた後、矢継ぎ早に足払いを叩き込む。
ただの女の脚を馬が喰らい馬上から落ち往く騎士の群れ。余りに脆過ぎる。この女武術家、次は己の両脚へ風の精霊を付与し、威力を底上げしたのだ。
女魔導士、これでは何れにせよ魔法に集中出来ず紫色の唇噛み締めるのみ。
「ククッ……やりおる」
黒い馬上の騎士、独り余裕のほくそ笑み。彼の味方が怯む様を見世物が如く愉しげに見物する。
「先陣、ルシアに続けぇッ!! 火に怯むんじゃなかどォォッ!」
Resistanceのリーダー、ガロウが吼える。奇声を上げながら敵陣中央へ堂々突撃開始。
「キェェェッ!!」
ガロウ、最上段に刀を構え一見無謀に思える突貫。
されど猿叫と共に振り下ろす刃。黒い軍団が持つ武器と相まみえるかと思いきや、そのままへし折り、相手を残らず叩き斬る無双。
振り下ろしも戻す剣筋とて全てが必殺の刃。剣…術? 術を嘲笑う型無しの剣。
リーダーの後に続く戦士達。
槍・斧・ナイフと得物が不揃い。
さらに皮鎧を着てる盗賊風情や、上半身裸で筋骨隆々加減を晒す戦士。
此方も千差万別なれど統率取れた動きで黒の軍団を蜘蛛の子散らす勢い見せる。
火攻め、空から敵陣へ飛び込む女武術家。一振り必殺の剣に手練れの戦士達。
これ迄アドノス中を席巻した黒の軍団。
よもやこんな辺境の地で、思いも寄らぬ苦戦強いられる羽目に陥るとは予想だにしなかった。