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第29話『Human System(ヒト成し得た原理)』 B Part

 バラタバザル(旧インド領)に於けるルヴァエル一派の決起。

 冷笑が真顔というべきマーダさえも震え上がらせた余りに似過ぎた彼女の面影。


 一方、フォルテザにて候補者(新人類)最大手と(おぼ)しきローダを調査しているドゥーウェンとリイナ。そんな情報(ニュース)届かぬ不可思議。

 ドゥーウェンの雇い主(マーダ)が敢えて隠蔽(いんぺい)。これはドゥーウェンに限らず、フォルデノ城王の間にて兵士から報告を受けた(やから)以外、伝達せず極秘とした。


 例え情報(Network)希薄(きはく)な社会といえど、マーダ直属配下ヴァロウズには自ず(おのず)と知れよう。これは雇い主(マーダ)に対する不信感生む短慮(たんりょ)な隠し事。

 冷笑だらけの暗黒神がこれ程迄焦燥(しょうそう)し切っていたのだ。現人神(レヴァーラ)眷属(けんぞく)名乗るルヴァエルとは一体……。


 ▷▷──Master(ドゥーウェン)、火急の要件がございます。


「ベランドナ?」


 風の精霊術『言の葉(風の便り)』を用いて己が主へ緊急報告を送ったベランドナの焦り。(リイナ)の天使(・アルベェラータ)との至福の密談を敢えて邪魔された彼女の行動、付き合い長いドゥーウェンすら驚かせた。


 バラタバザルに於ける決起集会の一部始終をつぶさに報告したベランドナ。

 金縁(きんぶち)眼鏡の中に潜む細い瞳が大きく見開かれた驚異。『外敵』は思い掛けぬ場所から想像以上の迅速(じんそく)込めて出現した事実を深刻な重大事と受け止めた。


「──ドゥーウェン様?」


 同室の隣で冷汗()らす学者風情(ふぜい)な男の狼狽(ろうばい)に気付くリイナの顔色も()られた如く如実(にょじつ)に変化した。明らかに異常な様だと知れた。


 ベランドナから報告を聞き終えたドゥーウェン。熟考(じゅっこう)の末、重い口を開く。


「あ、後で詳細はお話します。これは皆様へ連携必須な内容です」


 何れは皆も知るのだろうが現状は目前に居る英雄(ヒーロー)候補の安堵(あんど)が最優先課題。「ローダさんの件、皆様へお伝えする際はくれぐれも慎重に」それだけ言い残して学者は天才司祭を解放した。


「り、リイナ……ど、どうなのローダの身体は」


 繰り返すが何とも不吉なやり口にルシアが動揺を隠さない。

 ローダ当人は元より、寄り添う愛を感ずる彼女にも検査(スキャン)結果を伏せられたまま。

 これではまるで不治(ふち)の病に犯された患者と、何れ()()と化す家族へ伝え方を悩む(やぶ)医者の様な関係。


 ──希望ならまだある、()()に。


 廊下(ろうか)で独り結果待ち()びるルシア御姉様の(よど)みなき緑の瞳を見つめる白衣姿のリイナの願い。

 なお()()(てい)であるローダ・ファルムーン、全身麻酔の眠りから未だ意識戻らずにいた。


「な、何?」


 妹分の蒼き瞳が真っ直ぐルシアを正面から見据え(みすえ)、ガシリッと両肩すら掴む(つかむ)誇張(こちょう)を示す。


「私の大好きなルシア御姉様、ローダさんの体調は今直ぐどうこう語る状況ではありません。ですが……」


「ん、んん?」


 昨夜は二人、リイナの部屋で彼氏の打ち明け話(女子トーク)を普段と異なるフランクな感じで聞き及んだばかり。今日のリイナ別段異なる堅物顔(かたぶつがお)で迫るのだ。


「これからあの方の未来は貴女次第なのです!」


 真面目過ぎるリイナの視線、瞬き(まばたき)さえ自分に赦さずルシアと目で語り合いを要求。

 この発言に深い趣旨(しゅし)は全く以ってないのだ。リイナは敬愛(けいあい)する御姉様に自分らしく居続け恋焦がれ続けて欲しい。


 飾り気なきルシアの純粋な愛(鍵なる女の見返り不要)をローダへ手向け(たむけ)続ける事こそ寛容(かんよう)

 これは俗に言う女の勘。女の思い込みは、時として事実さえも捻じ(ねじ)曲げるもの(なり)


 ガバッ!


「お、御姉様ぁッ!?」


 次はリイナが驚く時間が突然降り掛かる。ルシアが椅子を蹴り立ち上がると勢いそのまま白衣のリイナをギュッと抱き締めた。女性特有の香りとは異質な何かが少女を包む。


「判ってる、判ってるつもりよ私。私が()を導く、初めて逢ったあの()から……ね」


 ──あ、嗚呼……やっぱり()()よこの(ヒト)


 ルシアから滾々(こんこん)と湧き出る泉が如き温かみがリイナを包み込む。理屈を超越(ちょうえつ)した処から流れ出流(いずる)形容出来ぬ優しみ。


「そ、そりゃあ不安あるわよ。彼にいずれ愛想(あいそ)尽かされるかも知れない。……でもね、それでも私は生涯(しょうがい)寄り添いたいのよ。例え()()に成ろうとも」


 あくまで寵愛(ちょうあい)なるローダへ手向(たむ)けたルシアの言葉。

 自然と涙(あふ)れるリイナ、声にならない心音(こころね)


 この人、私から言われる迄もなく知り尽くしていたのだと思い知らされた。


 ローダと共に歩みたい旅路(人生)──。

 ルシアはローダと(こぶし)交えた()()から心さえも決めていた。その後、彼と言葉で語り、触れ合い……辿り着いた確信。


 例えこれからどんな苦難が待ち受けようとも燦然(さんぜん)煌めき(きらめき)放つ笑顔で受け止める幸福(覚悟)の意志が金色煌めく髪色(滲み出た黄金の精神)を成しているとさえ思える様。


 候補者(ローダ)が敵と争う(おり)、相手の潜在意識と会話を遂げる。ルシア自身も()程ではないが成し得ていた。


 愛と命繋ぎ留めたい本能から(からだ)の繋がり合いこそ至上の悦び(よろこび)と信じ疑わぬ人の恋愛模様。

 なれど()()を開け放ち、それすら(まぐわいも)遥か(はるか)凌駕(りょうが)した密接なる(きずな)刻み(きざみ)付けていた。


 平常なら女の揺れる心を開くのは男ではないか──?


 それは非常に古臭く身勝手な当て付けに過ぎぬ。

 ()()()(からだ)の繋がりなんぞ後回しで構わないのだ。人の(Human)在り様(System)はひとつして同じモノは在り得ない。


 言葉も触れ合いすら要らぬ無償の愛──既に彼女は()()()()()。『何も心配要らない』聴こえぬ心の声音(こわね)が穏やかに、揺れ動く少女(リイナ)の心を支える。


『この女性(ヒト)の胸内は既にあの男性(ヒト)への一途(いちず)な恋心で溢れて零れ(こぼれ)落ちそう。()()の様に曲がらない愛なのね』


 男と女──英雄(ヒーロー)女傑(ヒロイン)

 仮に揃い(そろい)で肩並べれば男が上位? 一体誰が定めた戯言(決め事)なのか?

 ルシア・ロットレンは、()()()さえ越えた空から微笑み絶やさぬ陽光を愛する者へ注ぐのだ。

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