↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/268

第30話『Devoted lover(一途な恋)』 A Part

 リイナ・アルベェラータがルシア無償の愛を感じ、ひとまず安堵(あんど)に包まれていた後。

 生体検査(スキャン)の為、全身麻酔の強制的な眠りから目覚めたローダ・ファルムーン。


 意識を飛ばさなければ受(・)診(・)出来ない大袈裟(おおげさ)を感じた健(・)康(・)診(・)断(・)。

 エドナ村で意識喪失(そうしつ)した三日後と等しく見知らぬ(冷ややかな)白い天井が相反(あいはん)する黒い瞳に飛び込んで来た。


「そ、そうか。俺の検査とやらは終わったらしいな」


 全身麻酔は己が何を受けたか認識出来ないのが必然。それ故、猶更(なおさら)気分良いものではない。

 殊更(ことさら)彼の場合、至って健康体。避けられない手術等の類(たぐい)を受けた訳ではないのだ。


「え……? る、ル…シア?」


 見知らぬ天井の次に視界へ飛び込んだのは気の早過ぎる皮剥(む)かれた林檎(りんご)。少し茶色見掛かった不器用さを感じた。

 如何(いか)にも寝落ちしにくそうな折り畳み椅子に腰下ろしてベッドの端(はじ)と自分の腕枕で寝息立てるルシアを見つけた。


 初夏を感じさせる白い半袖のYシャツ、首元から胸上までボタンを外した涼し気。

 下は空色思わせる薄手のデニム生地、長いジーンズ姿。


 正直な話、これ迄普段着の彼女は余り御洒落(オシャレ)に気を配る感じでなかった。ラオにて初水着を購入した折(おり)、プリドール辺りにそそのかされ一緒に買ったのやも知れぬ。

 何とも不謹慎(ふきんしん)だが『スカートにすれば好いのに』と思った(願った)自分の妄想癖(もうそうへき)をローダは自ら窘(なだ)めた。


 朴念仁(ぼくねんじん)な彼は知らぬのだ。

 ルシアが彼を意識して以来、守備(ガード)を閉ざした複雑なる乙女心を。


「……あ、う、うぅん。ご、ごめんなさい、すっかり寝落ちしちゃった。意識戻ったのね良かった」


 ゆるり緑の瞳を開き、軽く背伸びしながら『おはよう』の御挨拶(ごあいさつ)代わりな眩(まぶ)しき笑顔。


 ローダ、思わず慌てて目を背(そむ)けた。

 夏の緩(・)ん(・)だ(・)衣(・)装(・)と中(・)身(・)を追い求めた悟(さと)られたくない罪の意識。過剰(かじょう)に反応した男心。

 殊更(ことさら)寝起きの油断し切った(自然可愛い過ぎる)ルシア、普段見せぬ貴重な場面に落ちる(赤面する)自分を責めた。


「お、俺こそ済まない。まさか此処(ベッド脇)で待ってくれるだなんて思わなかった」


 繰り返すが少なくとも現在、身体の異常きたしてない筈の己を態々(わざわざ)見舞いの体(てい)で好きな彼女が待ち侘(わ)びてくれてたなどとは思いも寄らずなローダ青年。


「あ……あぁ、いや、その、ただ暇だったから…さ」


 此方もあらぬ方へ視線を外し、下手過ぎる言い訳返すルシア。

 意識手向(たむ)けた男のベッド脇で目覚めを待つなど完全に連れ(彼女)の行動。自覚はあるのだ。


「と、処で俺、何ともなかったのか?」


 上擦(うわず)んだ声音でルシアに自分の検査結果を訊(たず)ねたローダ。未だ本物の彼女でない友達相手にこの場は敢えて聞くべき流れと空気を読んでみた。


 ヴァサッ!


 ──え……?


 突如(とつじょ)ローダを襲(・)っ(・)た(・)無言の圧力(胸元)。

 応答より先にルシアが動きで寝癖(ねぐせ)付いた黒い頭を抱き寄せた。続けて彼女の息子が如き様子で頭を温かみ溢(あふ)れる手で幾度(いくど)も撫でる。


 最近彼女から抱かれる事柄(ことがら)が増えたと感じ固まるローダ、居心地良過ぎるベ(・)ッ(・)ド(・)へ縋り(すがり)身体を(心すら)預けた。


「辛(・)か(・)っ(・)た(・)よ(・)ね(・)」

「──ッ!?」


 涙滲(にじ)んだルシアの言葉。

 柔らかな労い(ねぎらい)、未だ大人に成り切れぬ青年の情緒(じょうちょ)揺さぶる。これ迄弱気を置き去りにして戦い続けた自分の本音溢れ出る。


「戦う度、相手の心(意志)が流れ込んで来るとか。普通でいられる訳ないよ……」

「る、ルシア……だ、駄目だ。それ以…上」


 泣き震えた愛する女性のこれ以上なき心遣い(こころづかい)。ローダ、涙堰き(せき)止めた堤防(ていぼう)崩(くず)れ去るのを抑え切れず、己も肩揺らして慟哭(どうこく)し始める。


 初めてルシアと相対した(戦い抜いた)夜更けの出来事──。

 彼女に鍵(・)掛けられ潜(ひそ)んでいた記憶さえも蘇り(よみがえり)、その後の戦いに於ける記憶も走馬灯が如く矢継ぎ早(やつぎばや)に浮かんで消えるを反復し始めた。


 現状、身体の機能こそ支障無きローダであるが、脳裏に刻(きざ)み込まれた戦いと、争った相手の知識と思いは残留(ざんりゅう)し続けていた。


 自分へ注ぎ込まれた殺意。

 不死(アンデッド)の巨人から続々染み込んだ、道半ばにして命消された無念だらけの残留思念。


 ローダ・ファルムーンは、敵を傷物にせざるを得ない苦痛のみならず、相手の気分と常日頃から絶望的戦いに明け暮れていた。

 他人へ語れぬ苦悩──。『痛い』『苦しい』叫んだ処で上っ面(うわっつら)さえ繋がる道理無き鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)。


「くぅっ、うぅ……。あ、嗚呼辛すぎんだ。俺を斬りたい殺したい! 斬られたくない止めてくれ! そ、そんな声(痛み)が頭ん中を回り続けるんだッ!」


 子供の様に胸抱かれたまま泣きじゃくる青年の哀哭(咽び泣き)。

 何故、彼女(ルシア)は狂いなく彼(他人)の苦悩が解(かい)せるのか?


 疑問──。

 そんなもの投げ捨てた無遠慮(ぶえんりょ)。愛する女性(ヒト)の心(胸内)へ盛大に焼き付けたくて仕方ない人(・)間(・)め(・)い(・)た(・)ローダの行為。


 託児所で共に遊ぶ子供をあやすかの様な、繰り返されるルシアの頷き(承認)。

 人間独りで到底抱え切れぬ煉獄(れんごく)……表層(ひょうそう)だけでも清めたいと欲する彼女の深い情愛。


 これぞリイナが先刻彼女へ告げた『貴女次第』の正体。

 何が候補者──。新人類なものか。分かち合う相手が居る故、如何(どう)にか成し得る奇跡に過ぎない。


「ローダ……貴方、私の想い(心の音色)、今流(・)れ(・)込(・)ん(・)で(・)来てる?」


 ルシアの投げ掛けに泣き腫(は)らした顔をローダがハッと上げた。彼女の伝えたい想いが如実(にょじつ)に知れた。


「い、いや……大(・)丈(・)夫(・)だ。き、君の優しさだけ」


 涙濡(ぬ)らした顔を袖(そで)で拭う(ぬぐう)ローダの気付き。


「そぅ……良かった。私(・)も(・)よ(・)。常日頃から自分の思いが相手へ筒抜け(つつぬけ)じゃお互い辛いよね」


 笑顔交えたルシア。『良いから此処(私の胸)で拭きなさい』とばかりに再び、愛する男の頭を胸元へ埋(うず)めさせた。


 度々流れ込んでいたローダの恥ずかしい本音(恋心)──。

 取り合えずこの場に於いては、ありふれた愛し合う男女(カレカノ)でいられた幸福を重ねた笑みで歓喜したルシアの試み。


 御互い目(・)と肌(・)で感ずるだけの当たり前過ぎる至福。

 ローダ青年も想い釣られ、ぎこちない泣きべそ笑いを彼女へ寄越(よこ)すのであった。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。