第14話『Garou(我狼)』 B Part
一撃必殺の刃──。
要は力で捻じ伏せる戦い方だと思われていたガロウ・チュウマが森の自然を用いて戦闘を優位に運ぶ。意外に繊細で頭の切れる男であった。
対するヴァロウズNo8のダークエルフ、オットォンは自らの能力に全振りしがちな戦う様を随所に見せる。リイナ奇跡の御業、輝きの蜃気楼で精霊召喚の道が閉ざされた。
本来精霊を味方にするのはエルフ族の十八番であろう。
彼は精霊達を恐らく味方でなく隷属扱いしてるに違いない。
然し彼とてこの手段でこれ迄戦場を生き抜いた確固たる自負が在るのだ。
バシュッバシュッバシュ!
ガロウに投げ飛ばされながら薄暗い森の虚空を見上げ、これ迄より強力な赤い熱線を連続的に打ち上げる。加えて左腕で地面を叩き受け身の体勢を整えた。
だが間髪入れずガロウが刀を拾い上げ、腐葉土積もる地面でのたうつ予定の敵へトドメとばかりに逆手で握った剣を振り上げ伸し掛かった。
「ガロウッ! 乗せられては駄目だッ!」
「──ッ!?」
此処で突然無口なローダが悲痛に叫ぶ。
ガロウ、正直ローダの指摘が解せない。『乗っては駄目』これがダークエルフの誘いだと言うのか?
「グハッ!?」
突如ガロウを襲った背中から腹まで穿つ熱き攻撃。
腹を穿れ吐血を余儀なくされるガロウ。他にも左肩に右太腿とて同様の穴が開き血が噴き出す。
オットォンが空へ打ち上げた花火達は、闇色の空で楕円を描いて髭面の剣客を背中から撃ち抜く奈落へ転じた。
何故ローダ・ファルムーンだけがオットォンの謀略に気付いたのか定かでない。
兎に角一挙形勢逆転、ガロウが窮地に追い込まれた──誰しも絶望視した次の瞬間。
「これで終いだっ! 喰らえェッ、 滅殺ッ!!」
オットォンが機械仕掛けの左腕を噛んで引っ張る。
絶望に追打ちを掛ける仕込みの剣が出現、ガロウの首を目掛け愉悦の顔で振り下ろす。彼に取って正に至福の刻。
ザクッ!
「なッ!?」
「──ッ!」
周囲の取り巻き達が予期せぬ事象が巻き起こる。事象の発案者である当人だけの必然事項。
何とガロウ、右腕の肘を限界迄折り曲げ、仕込み刀の根元に押し当て最低限の負傷で防いだ。
満身創痍を描き尽くしたガロウの姿。
血みどろで深手を負った躰を用い、未だオットォンへ伸し掛かる剣筋を諦めてない執念の塊!
──俺の勝ちだ、この屑野郎。
血塗れの髭面が笑った。
これは侍風情が演出した状況。下劣なダークエルフが気付いたのと同刻。
死が闇に訪れた──。
「カハッ!?」
左逆手に握ったガロウの滾る刃がオットォンの脳天を分かつ意地の一撃必殺を成した。
自らの命にだけは周到な守りを秘めていた。頭蓋の上に腕と同質の金属を埋め込んでいたにも関わらず、総てを叩き割るガロウの刃が打ち勝った。
相手が下段からの剣を全力で振るった故、カウンターじみたのか?
或いはガロウが秘めた能力者の力が何らかの理由で底上げされたか?
そんな小賢しい屁理屈自体をガロウの剣が斬り伏せた。
余りの異常事態。
己の顔が首まで真っ二つに裂かれた状況を飲み込めぬまま、オットォンは地獄巡りへ旅立つ。
ようやく『うぜらしくない』ただの黒ずくめな遺体と化した上へ生死危ういガロウが倒れ込んだ。
「が、ガロウッ!!」
「ガロウ様ッ!」
身体の痛みを放り投げ、ガロウへ駆け寄るローダ。
悲壮感漂う表情で同じくリイナも詰め掛ける。
「じ、示現我狼──『櫻……華』」
我狼とは我流を極め己の剣と成した意味で名付けた。
ガロウ・チュウマの地元東洋の国、桜陽で語った真実の名ではない。
然も必殺の技を語るには余りに寂しい結末。本来なら天まで轟かせたかったものだ。地元で華開く火山の様に。
「──ッ!」
「す、凄いです!」
若者達の心配を他所に、ガロウは漢の信念を遂げた剣を掴む左の拳を突き上げ自らの命脈を主張する姿で意識を喪失した。
◇◇
「──判らぬ。鍵は愛を選び、そして男は同じ鍵を愛し守りたいが故、力に目覚めた」
モニターに映る外界のみ周囲を照らす暗闇。他は総てを包み隠す世界で独り、白髪初老の男性が釈然としない心中を呟くのだ。
凡そ300年、この刻を待ち望み仕組んだ……筈であった。
然し平凡な男女の営みだけを突き付けられては承諾出来る訳がない。
「愛を知り得ない私には到底理解が及ばん。これを人類同士判り合えたと解釈するのは早計過ぎる」
白髭を触りながらこれ迄の幸薄い人生を思い返す老人。
身勝手な人間に絶望した故、新たなる人類を創生する気狂いな夢を描き舞台を整えた。
老人の思い描く新人類と思しき人物それは……ローダ・ファルムーンでなく、もう独りの候補者が適任……今こうして現状を突き付けられても確信は揺るがない。
「ルシアよ……本当にその男で良いのか?」




