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第15話『Exciting thoughts(心躍る想い)』 A Part

 漢の意地、剣客(けんかく)執念(しゅうねん)

 ガロウ・チュウマが全身全霊(ぜんしんぜんれい)を賭けヴァロウズの8番目、ダークエルフのオットォンを滾る(たぎる)一撃必殺の刃で倒した一部始終。


 余りに出血が酷過ぎる髭面の侍風情(ふぜい)折角(せっかく)敵を(ほふ)ったのにこれでは命に関わる。

 されどリイナ・アルベェラータ奇跡の御業(みわざ)輝きの蜃気楼(アンチマジックシェル)による効力切れを待つより他ない。

 実の処、もうひとつ手段があるのだが、何れにせよ患者を移送出来なければ如何(どう)にもならぬ。


 スッ──。


 リイナが背負いのリュックから何やら鋭利(えいり)な物を取り出した。包帯や糸も在る。気絶しているガロウの傷口を先ず取り出した包帯を用い、容赦無用(ようしゃむよう)で止血し始めた救命行為。


「リイナ? 止血は判るが何故裁縫(さいほう)道具まで在るんだ?」


 準備が良過ぎるリイナに舌巻く(したまく)ローダの謎掛け。身悶(みもだ)しそうな答えを半ば知りつつも正答を聞かずにおれない。


「え……決まってるじゃないですか。傷口を()い合わせるんです。事は一刻(いっこく)を争います。ローダさん、ガロウ様を押えて下さい。貴方も身体が御辛いかと思いますが」


「お、俺は構わない」


 僅か(わずか)躊躇い(ためらい)混じりで頷く(うなずく)ローダの顔色が()えない。ガロウの傷口全てを雑巾(ぞうきん)でも縫うかの如くこの幼気(いたいけ)な少女が縫合(ほうごう)するのか? 見た目と裏腹なる度胸(どきょう)


 リイナの言い分は至極(しごく)真っ当なれど自分が同じ目に合うのを想像すると背筋(せすじ)が凍る思いだ。


 ダークエルフに散々斬られ、穴も穿(うが)れたガロウだが針刺す痛みだけで半強制的に意識が戻る。そのまま好きに縫われて聞くのも辛い悲鳴を上げた。


 気持ちは額面(がくめん)通り()()()良く判る。

 然し折角(せっかく)上げた漢の()()()()()()()()()()()()()少女(リイナ)の縫い針ひとつで社会的地位を損失(そんしつ)した。


 トレノとティン・クェンを説き伏せたジェリド・アルベェラータがそんな(あわ)れな場面に合流。

 苦痛でのたうつガロウを「情けない奴だ」と嗤い(わらい)飛ばす無遠慮。彼とガロウはResistance(民衆軍)の戦友同士。戦人(いくさびと)として遠慮はしない。


 ──俺は内側だけで済んで(外傷が無くて)良かった。


 ローダが気丈(きじょう)な態度をみせる裏腹(うらはら)に在る弱気。自分も等しく惨め(みじめ)(さら)したに違いない本音。


 ガロウを一通り縫い終えたら、アマン山から下山を始めた一行。

 リイナの起こした奇跡は時間だけでなく効果範囲も存在し得る。逆に圏内を抜け出せれば例の細胞分裂活性化に寄る確実な治癒(ちゆ)術が(ほどこ)せる。


 不貞腐(ふてくさ)れたガロウを荷物が如く粗雑(そざつ)に扱うのは中年男(ジェリド)の役目。泣きっ面に(はち)な状況だが止むを得ない。

 未だ()()()である修道女(Sister)じみた美女(ルシア)を抱えるのは王子(ローダ)様であるべきなのは百も承知(しょうち)


 ──んん? な、何かしら? ええっと私確か……。


 自分の(からだ)が何やら不自然に揺れているを感じながら、ルシアがゆるりと意識を取り戻して往く。

 いや、それ以前に背中と両腿(りょうもも)の下。温かみある頼もしき(かいな)が支えている実感。


 初めて味わう何とも不可思議(ふかしぎ)な気分。


 ──い、一体何が? ……え?


 ジワリと僅か(わずか)に瞳を開いたルシア唖然(あぜん)。真上に(おだ)やかな片想い(ローダ)の顔を見つけ、慌てて再びその目を閉じた。


 ──ええ……こ、これってまさか私ローダに抱きかかえられて(お姫様抱っこされて)……。(視線)、合っちゃたかしら。


 だけど心地良い匂い(におい)の主をルシアが決して違う(たがう)()()()()


 トクントクントクトクトクトク……。


 もう俄然(がぜん)気を失ってる場合でないルシアの胸元(心臓)鼓動(こどう)が張り裂けんばかりに胸打つを抑え切れない。


 直接自分の(からだ)に彼が触れてる。

 心拍(ドキドキ)か、或い(あるい)は跳ねるが如く波打つ胸に気付かれた処で何ら不思議じゃない。罪なき金色の十字架(ロザリオ)が胸を舞台に躍り(踊り)狂う。


 やはりしっかり翠眼(緑の瞳)を開き、意識が戻ったのを伝えるべきだ。されどこの幸せに浸り(ひたり)尽くしたい修道女姿(仮のシスター)らしからぬ乙女心(欲しがり)が首を擡げる(もたげる)気分とせめぎ合う。


 優しいローダは恐らく好意でなく倒れた自分をただの()()で抱えてるに過ぎない。きっと私でもそうする。


 実際4日前の夜、自身もローダを同じく運んだ。あの時は生命の危機を感じたのも重なり、可笑しな(後ろめたい)気分など微塵(みじん)も……。


『ルシア・ロットレン、君は寧ろ(むしろ)()()()()()()()。俺は君の寝顔と泣きぼくろを(なが)めていたい』


 ──……あ、ん、うんっ。……えっ??


 不意打ち過ぎるローダの意識介入。相手に伝達するか怪しい想い(返事)


 然も『君の寝顔と泣きぼくろを眺めていたい』──嬉しい、嬉しいけれど(すさ)まじき羞恥(しゅうち)。次どんな顔して目を開けば良いのやら。ルシアは想像出来ぬ後始末と幸福の狭間(はざま)で揺れた。


 ──ローダは私を抱えながら寝顔をずっと(のぞ)いている!? 私の泣き所(ウイークポイント)をじっと見つめてる!? うんん、待ってぇ!? 今の心根(ドキドキ)さえ見透かされてるの!?


 詳細不明とはいえ、まだローダからの()()()()なら構いやしないのだ。よもやルシア自身の意中まで読まれていたなら羞恥処の話で済まない。


 暫く(しばらく)だんまりを決め込み恋慕(れんぼ)な男に抱かれたままその身を預け(あずけ)続けたルシア。熱愛の相手へ我が身を(ささ)げる幸福に酔いしれ恥じらいを置き去りにした。


 なれど別の感情が沸々(ふつふつ)湧き出て来た。


 ──昨日の夕方(夕暮れ)もだけど、()()()し過ぎじゃない?


 無口・愚直(ぐちょく)素朴(そぼく)

 そんな可愛げにルシアは()かれた。けれど美しい夕暮れを肩寄せ共に見つめた抜群(ばつぐん)駆引き(リード)


 さらに現在、自分を抱え『寝顔が素敵だ(そこまでは)見ていたい(言ってない)』サラリッと心で告げた狡い(チートな)美青年(イケメン)。言葉無くとも知れた女心を扱う(すべ)熟知(じゅくち)している?


 ローダ・ファルムーン20歳、過去の恋愛()疑念(ぎねん)を抱くルシアであった。

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