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第9話『Angel of the forest(森の天使)』 A Part

 アドノス島の漁村エドナの歴史は浅い。300年以前、この島がシチリアと呼称された時代には存在しなかった地名。


 尤も(もっとも)300年前、全世界を襲った未曾有(みぞう)()()

 世界中の営みが過去の歴史を辿る(たどる)しかなかった故、エドナ村の歴史が浅いのも止むを得ない。


 エドナ村の東側、アドノス島の北端には全世界の文明総てを担う(になう)街フォルテザが(のき)(つら)ねる。

 さらにその東向こう、アドノスの東端に位置するラオ。


 逆に西側を海沿いに辿れば峻険(しゅんけん)な土地しかない世辞にも裕福とは言えぬカノンが存在する。

 さらに島の西端をぐるりと回り南下すれば、そのカノンを自然の塁璧(るいへき)と為すフォルデノ王国が在る。


 フォルテザにフォルデノ。

 然も嘗て(かつて)シチリアのほぼ中心に位置した現在のラファン。

 この深き森は300年昔、エトナと呼ばれた。エドナ村の南にあたる。

 例の魔女が住むと言い伝えられる()()だ。


 元々余所者(よそもの)であるローダは、その似過ぎた地名を前に『覚えきれん』とやがて頭を抱えるのだ。

 まあ地名とは得てして歴史を知らぬ者に取って厳しきものと言えよう。


 さて──。

 ローダとルシアが()()と茶化された託児所へ話を戻す。


 余所者であるローダが意識を持ち得たまま、出逢い得られた二人目の島民。

 リイナ・アルベェータを中心に話が動き出す。


「処でえと……」

「あ、ローダだ」


 リイナがルシアから4日前に聞いた名前を半ば忘れ掛けた処。

 すかさずボソリッと名乗りを挙げる普段通りのローダは、無愛想(ぶあいそう)なのか……はたまた実は紳士(しんし)な振舞いか幾分(いくぶん)判らなくなる気遣い(きづかい)の形。


 もしこの場に渡し屋ディンが居たなら腹抱えて『俺ん時と同じ』と吹き出したやも知れぬ。


「ローダ様ですね失礼しました。改めまして(わたくし)はリイナ・アルベェータと申します。ルシア()()()が貴方様をお連れした時、正直無理だと思いました」


「な、何? 何の話だ?」


 天使の様なリイナの(ゆる)んでた顔色が深刻に転化しながら告げた台詞。


 ──ルシア()()()

 ──正直無理だと?


 ローダ的に()せない言葉が(あふ)れてるのだ。『この(少女)は妹なのか?』『一体何が無理だと言うのだ?』説明口調なのに言葉が足りな過ぎた。


「あ、リイナはね。私を勝手に御姉様って呼んでるのよ。可笑しいでしょ? うふふ」

「御姉様は誰が何と言おうが(わたくし)の御姉様です!」


 優雅(ゆうが)に笑って説明したルシアへ意味不明に喰って掛かるリイナ。兎に角(とにかく)ルシアを心底敬愛(けいあい)しており、それに関しては()()()()な決め事らしい。


「──ローダ、確かに君はあの黒い剣士を追い払った英雄。だけどね、そのまま気を失った君は私から見ても正直助からないかと絶望したわ」


「そ、それ程酷かったのか?」


 妹分を笑い返して僅かにさっきの仕返しが出来たと感じたルシアの顔。悪夢を思い返した様子で泣き(降り)出しそうな曇りに淀む(よどむ)


 ギュッ。


「な、何を?」


「ローダ様、貴方様の身体は糸が切れた操り人形みたいでした。筋肉繊維(せんい)、関節部は言うに及ばず。私は細胞の活性化を促して(うながして)回復を急速に促進(そくしん)させる術式を会得(えとく)しております」


 リイナが深刻な顔つきのままローダの掌を両手で握る。口調が丁寧(ていねい)過ぎて三人の内、最も大人びて聞こえる。


 天使(リイナ)突如(とつじょ)(つか)まれ狼狽え(うろたえ)顔のローダを他所(よそ)に、()()を続けながら説明するリイナ()()

 彼女は『戦の女神(エディウス神)』に仕える言わば本物の司祭(シスター)なのだ。


「ですがその術は相手に多大な負荷を与えます。細胞分裂の超活性──堪え切れる体力がローダ様に残っているとは到底(とうてい)思えませんでした」


 ルシア御姉様がダラリと()れた見知らぬ男を『救って』と訪ねて来た(おり)運んだ時点(無知が過ぎる行動)でリイナは首を横へ振るしかない気分に駆られた。


「──ただ」

「ただ?」


 少し間を置き、リイナの顔が穏やかに変遷(へんせん)する。


「ただ逆説的発想を私はその姿に抱いたのです(わたくし)の所まで御姉様が()()()()()()()


 次第に微笑みを引き出すリイナの声音(こわね)


「貴方様が意識を失ってからほんの数刻(すうこく)(わたくし)が手を下す迄もなくローダ様の治癒(回復)は既に始まっていた。まさに()()じみた能力、(わたくし)はローダ様の自然治癒(ちゆ)力に()けたのです」


 賭ける──。

 この若さで司祭(クラス)まで登り詰め、彼女の地元ラファンの中心的な街『ディオル』に於いてリイナは『森の天使』なる別称で民から愛されてる存在。


 森の女神『ファウナ』にあやかり、まるでその御使い(みつかい)が如く森の天使と呼ぶのだ。その実リイナが仕えるのは戦の女神(エディウス神)なのだが、その辺りは地元の神を引き合いに出した次第。


 司祭になる為、あらゆる勉学に(いそ)しんだ彼女的に『賭け』とは用いたくない言葉と行為。

 それでもローダに纏わる(まつわる)事の顛末(てんまつ)を知り得たリイナは、半ば確信織り交ぜながら未来に()()()のだ。


「──わ、私も正直心配だったけどリイナが言うなら間違いないってね。本当(ホント)リイナ()()には頭が上がらないのよ」


 暴徒化したローダの自爆を、結果止め遅れたルシアは当初絶望に(ひん)した。

 然しである。黒騎士マーダ相手に急激な力に目覚めた(ローダ)所業(しょぎょう)は、()相応(ふさわ)しいものだと思い返してリイナの言葉を受け入れたのだ。


 結果、()()()使()()()()は現実と化した。

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