Prologue B Part 『A failed country takeover(出来損ないの国盗り)』
とある島国の城内にある兵舎。時は深夜、日付が変わり既に2時間経過。
兵舎の中。殆どの兵達は夢の最中。
その建物の裏側で息を殺しながら時を待つ。頭から黒いローブを羽織った女。
顔こそ隠せているものの、白い澄んだ顔と美脚だけは隠せない。
命を待つ者は、他にも城壁の通路に2人。1人は女と同様、黒いローブで潜んでいるが、剣の柄と鞘が如何にも目立つ。
もう1名は身体が巨躯過ぎる。およそ隠密には向かない。取り合えず、見張りの兵士から死角になる場所で踏ん反り返る。
そして庭園の真ん中には、両手持ちの大剣を地面に突き刺し、不敵な笑みを浮かべ、漆黒の鎧を纏った剣士が堂々立っていた。
柄迄赤に染まりし大剣。
されど自ら動いて戦う出番はハナから度外視。自分の配下が全てを熟す。疑いの余地なし。
黒い剣士の背後には立派な庭木が2本、植樹されている。
左の木の裏には顔色まで漆黒の男。特徴的な耳がローブからはみ出していた。
右の木陰にはローブを羽織らず、銀色の髪を晒してる女が居た。『隠れるなんて意味ねぇよ』と言わんばかりの不敵な態度。
「然し何故、例の街でなく古びた王国を狙うのだ小賢しい学者?」
黒い剣士が口を開いた。全ての言葉が嘲笑混じる口調。『敵などこの世界軸に存在しない』と言いたげな体現。
彼の言う『小賢しい学者』は、確かに賢しい。
黒い剣士は国の転覆図る輩の首謀者。
その黒い影に潜み、アルファベット書かれたボタンが並ぶ機械を一心不乱に叩く凡そ戦に無用なる動き。まるで自分が真の黒幕であるかの様な仕草。
黒い剣士が指摘する『例の街』
この島国だけでなく、世界で唯一歴史の栄華を残した街だ。
その街に比べれば18世紀後半のカビ臭漂う城下町より余程魅力溢れるもの。
「貴方は絶対的な神に君臨すべき御方です。遅かれ早かれ総てを手に致します。例え古めかしくとも相応しき玉座は不可欠かと」
学者と呼ばれた男。
金縁の眼鏡の位置を直しながら神の座狙う者を称える台詞。
「ククッ……。言い寄る。まあ良かろう」
またも嘲る黒い剣士。
この学者の魂胆などたかが知れてる。『今は口車に乗ってやる』そうした気分で追及を止めた。
──むぅ?
「我の渦中に潜む女神よ。嗤うか、出来損ないの愚行を」
黒い剣士が眉顰め独り言を呟く異様。彼の胸中に蘇る300年前の思い出。この男、女神に限らず様々な者達を心に住まわせ、時に振り回された。
「──何か?」
「戯言だ。貴様如きの気回しなぞ無用」
小賢しい学者に繰り言を聞かれ、一言で圧倒した。『それ以上触れたら貴様の最期』そんな気分が満ち溢れる。
黒い剣士が両手持ちの大剣を高々と掲げる。刀身が月の明かりで妖しげに輝いた。
従者達が待ち侘びた時──訪れる。
兵舎の裏側で轟音と共に火球が爆発。兵舎は見るも無惨な姿へ転じた。中に居た者達の生死は一考の余地もない。
「他愛ない……。私の魔法の前では人間など無力よ」
爆弾を仕掛けた女性。感慨一つ起きやしない白けた様。
城壁の通路にいた剣士はローブを脱ぎ捨て一目散。見張りの兵士に駆け寄り侍の如く抜刀。見張りの兵士は、断末魔も出せず首と胴が泣き別れた。
「弱過ぎる、それでも国を守る兵士か」
蒼い眼した躰の線細い剣士。
剣で語る間もない争いを虚しく感じた。
もう一人の戦士は『待ちかねた!』とばかりに大跳躍。見張り小屋の上から飛び蹴り入れるド派手な一撃。
当然小屋が壊れる激しい音が辺りに響く。見張り小屋の兵士2人は、叫ぶ間もなく戦士の拳で頭を吹き飛ばされ絶命した。
「フンッ! 準備運動にもなりゃしねぇ!」
鼻息混じりで小屋毎吹き飛ばした跡を見る筋肉質な女性。まるで暴れ足りない様だ。
「滅殺ッ!」
黒い男はその目から赤い熱線を全周囲に放出。当たるもの全てに風穴を空けた。特徴的な耳からして人でないのは明白。それにしても異様が過ぎる。
右の大樹に隠れていた銀髪が背負っていたボウガンを構え、即座に鉄球を撃つ。鉄球は赤い熱線が穿った穴を容易にすり抜ける。
そして寝所で寝酒を飲んでいた王の眉間を難なく撃ち抜いた。
「ケッ! 下らねぇな。こんな玩具気に入らねぇよ。硝煙の匂いが嗅ぎてぇ」
銀髪の女、最大の獲物を殺ったにも拘らず文句を垂れる。
どうやら彼女本来のやり口ではないらしい。
漆黒なる夜の下、悍ましき『闇』の進撃が幕を開けた。