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Prologue A Part 『The departure of a failure(出来損ないの旅立ち)』

 22世紀初頭、約300年前に歴史のページを(さかのぼ)る──。


 世界と共に焼き払われた(むな)しき()()()

 事実を凡庸(ぼんよう)に並び立てた歴史の教科書に記された『Purge of(星屑達の) Stardust(粛清)』この事変に伴い(ともない)国境はおろか人類を文明毎、無情にも刈り取り尽くした現在。

 ただでさえ地球温暖化と云う人類が犯した大罪で風化した岩の如く削れた人の営み。


 (ごう)を背負わずにはいられぬ人類が好きに弄った(いじった)この惑星が、未だ青さを喪失(そうしつ)せず孤独な漆黒(しっこく)の宇宙に浮かんでいられる奇跡。


 ()しくも歴史のMöbius(メビウス)が18世紀後半辺りと酷似(こくじ)する時代。


 嘗て(かつて)二度目の世界大戦の引き金と為った国、ドイツ──。

 この国とて、例外なくそれ迄の文明を焼き払われた。

 その後、復刻の足掛かりにすべく国名を『Heidelberg(ハイデルベルク)』と呼称を変えた。ハイデルベルクとはこの地で発掘された人種の名称。


 ホモ・ハイデルベルゲンシス──。

 凡そ(およそ)40万年前、いや60万年前とも言われる同時期の人種に比べ、脳容積が大きく優れた種と云う研究結果が在る。


 そんな怪し過ぎる過去の意地(プライド)縋り(すがり)付けられた国名。

 何もこの国に限った話ではなかった。各国がこぞって『我が祖国こそ!』を合い言葉に、紀元前の(古めかしい)栄光を引っ張り出す醜い団栗(どんぐり)の背比べを続け、300年が(むな)しく過ぎた。


 そして物語を()()に帰す──。

 人々が絶滅(300年前)の危機を忘れ始めた頃。旧ドイツ領(ハイデルベルク)で事件が起きた。


「──王ッ! ニュルブル王ッ、どうか御拝謁(ごはいえつ)をッ!!」


 時は深夜3時頃。

 ハイデルベルク当主の寝室、民衆を無視した誇大な門を汗だくで必死に叩く伝令を帯びた兵士。中から木霊(こだま)するは、王に在らずな男へ()ちた者と肉欲求められた相手の官能(吐息)


 国の命運と悦楽(えつらく)浸る(ひたる)同刻(慟哭)せめぎ合う底辺の絵面。


「何だ何だこんな深夜に騒々(そうぞう)しい。ハイデルベルクの名が(けが)れる」


 さも(わずら)わしい態度、()7()婦人を抱いてた最中(快楽)殆ど(ほとんど)裸の姿で応じるニュルブル王。背後に居る狼狽え(うろたえ)顔の()()()()がシーツで身を隠し、(もだ)える何とも堕落(だらく)した(さま)


「も、申し上げますッ! 近衛騎士団がたった1名の族に因り(より)壊滅(かいめつ)致しましたッ!」


 血と汗に塗れた(まみれた)(あわ)れな伝令。

 如何(いか)にも命からがら此処迄辿り着いた様子。大層呑気(のんき)夜伽(夜遊び)なぞ目に敢えて入れぬ。


「な、何だと!? ぞ、族の消息は明らかであるか?」


 流石の王も色も失う。

 ハイデルベルクの近衛騎士団は選り(より)すぐりの精鋭(せいえい)揃い。大変狭き(せまき)門を潜り抜けた連中。

 それがたった独りに殺られた。到底容認の出来る話ではない。


「そ、それが……」


「何だ? 早く申せ」


 乾き疲れ果てた伝令の兵士。

 冷汗なのか、或い(あるい)は此処迄駆けた疲労に因る(よる)発汗か。返り血(おぼ)しきものを被ってるのでニュルブル王には、彼の焦燥(しょうそう)の意図する処が判別出来ない。


「ふぁ、ファルムーン家。聖騎士『ラムダ』の御子息(ごしそく)!」


「……ば、馬鹿なッ? あ、あの()()だとッ!?」


 兵士は必死に声を絞り出した。されど疲労と焦りから大した声量に届かない。

 然しそれでも夜伽(よとぎ)の夢、(うつつ)抜かした王の小汚い耳と動揺を生むのに充分過ぎた。


 聖騎士ラムダ・ファルムーン──。

 ファルムーン家は代々王家へ優秀な騎士を輩出(はいしゅつ)した御家柄。


 特にラムダの長男『ルイス・ファルムーン』は傑出(けっしゅつ)した存在。史上最年少で近衛騎士に任命。

 他に類を見ない剣術は神童と呼ばれ、ハイデルベルク王家期待の星であった。


 ファルムーン家は、一夜にしてその立場を喪失(そうしつ)

 罪を問われた父ラムダは聖騎士を剥奪(はくだつ)され投獄(とうごく)。ファルムーン家自体もハイデルベルク中、治安最悪の()()がある地。『ズゥロング』に居を移された。


 肝心の容疑者、ルイスは行方不明。

 近衛騎士最大の禁忌(きんき)。国抜けをしたと(ささや)かれた。


 ファルムーン家にはルイスと、腹違いなもう独りの息子『ローダ』が居る。

 彼は兄ルイスと正反対。親の七光りで如何(どう)にか騎士見習いにしがみ付いてられる凡庸(ぼんよう)な弟。


 幸か不幸か、神童と力の差歴然過ぎて彼自身は罪を問われなかった。失墜(しっつい)したファルムーン家で怠惰(たいだ)な人生送る選択を赦免(しゃめん)された存在。


「──ルイスを捜し(さがし)に行きたい? 何馬鹿な事を! 貴方迄ファルムーン家の威光(いこう)を追う必要ありません!」


 ローダの母、リィーダは息子の申し出に目を吊り上げ猛烈に反対。優しかった面影が『ルイス』の名を挙げた途端(とたん)、鬼へ転じた。


「貴方も何か言って下さいッ!」


 ルイスと腹違いの弟ローダの母リィーダの夫、ラムダが面会室で憮然(ぶぜん)とした態度。

 馬鹿を言い出した息子を止めるべく、失意の父すら引き合いに出す母親。


 ローダは残された最後の家族。だから母として、加えて妻で在るが故、当然の権利に(すが)るべく夫ラムダを証人として引き合いに出した。


「──()()()()()()()()()()()()お前など何処へなりと往けば良い」


 髭だらけ、やつれ顔の罪人ラムダ。真顔で力無く呟く(つぶやく)と後は何も言わず口を閉ざした。


『約束された息子ではない』


 父の不可思議な台詞。

 18歳で尚且つ(なおかつ)恵まれた家で育ったローダにはまるで解せない言葉。


 然も大罪人扱いとはいえ、『兄を捜し(さがし)に旅したい』ローダ当人的には普通の感情が、何故これ程まで叩かれるのか?


 ローダ・ファルムーン、剣技のみならず世間の波風を余りに知らな過ぎた。


 斯く(かく)してローダ・ファルムーン、出来損ないの騎士が兄ルイスを探すアテ無き旅路へ出立した。

 これがやがて世界を揺るがす第一歩になろうとは夢にも思わなかった。

挿絵(By みてみん)

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