第6話『Blonde female soldier holding keys(鍵を抱いた金髪の女戦士)』 B Part
ルシア・ロットレン、よもやよもやな共闘話を敵の親玉から半ば無理矢理押し付けられ困惑顔。
この争い、ルシアに取ってもマーダとの初戦である。
敵の首領に背中をいきなり任せる? これは全く以って意味不明。
ルシア的にはこの兄弟染みた二人が同時に喰って掛かった処で負ける気しない。そもそも敗北なんて許されない。鍵を任せられた彼女の矜持である。
然し一考の余地有り──。
候補者マーダの能力値を図れるまたとない絶好の機会到来。
敵がこの争いの最中、総力を自分にひけらかすとは到底思えぬルシアだが、片鱗だけでも過分なる報酬だと受け止めれば良いだけの事。
「判った、だけどくれぐれも邪魔だけはしないでよ」
「ふふっ……随分な言い草じゃないか。まあ構わないさ」
ルシア、マーダの口車に敢えて乗せられる選択肢を選ぶ。
相変わらず気丈な鍵の女相手に苦笑を禁じ得ないマーダだが、紅色の蜃気楼を中段に構え、果たすべき仕事を忠実に熟す様を御丁寧にもアピールするのだ。
こんな二人のやり取りの裏側、納得出来兼ねる他の二人──。
マーダの忠実なる僕、女魔導士フォウ・クワットロ。
そしてResistanceのリーダー格、髭面の侍ガロウ・チュウマである。
特にマーダを暗黒神として敬うフォウ的には殊更承服し兼ねる。
マーダへの忠義を敵である女の手助けに用いる不愉快。然もマーダが可笑しな銃に撃たれて以来、中身が入れ替わったか如きの変調。果たして信じても良いものか。
ガロウの場合、既に思考が追い着かない。『俺、頭悪ぃから』と言いたげな処も多分に在るが、そういった輩ほど過剰な悩みをサッサと破棄し、行動に移れる機敏さを兼ね備える。
兎も角互いに己の思考を捨て、この場に文字通り降って湧いた謎の剣士を止める事。残り僅かな尽力を振り絞ると決めた。
ブォンッ!
「ムッ!」
「あ、彼奴まで空ん飛ぶっとか!」
赤い輝きを全身から放つローダが宙で静止する。
此方には暗黒神の神聖術、重力解放で同じく空が飛べるマーダとフォウ。
加えてルシアも風の精霊術を駆使さえすれば同様の動きが出来る。
自力で空を飛べない独り取り残されたガロウがさも悔し気な顔で、夜空に突如生まれた赤い超新星爆発を睨む。
「ガロウ──彼は此処迄、恐らく夜空を飛んで来たのよ」
「大丈夫、問題ない。空で戦い熟れてない者は、かえって狙い打たれるだけさ」
判り切った事をルシアとマーダの両方から同時に聞かされ何とも腑に落ちないガロウ。少し惨めな気分に堕ちる。
飛べる者達含め、敢えて地に足を付けて戦う方針を選ぶ。
もし仮に飛び道具が来ればルシアが風の精霊術で散らせば良いだけの話。余程神速でない限り、マーダの解説が至極正しいと言える。
余程神速でない限り……。
ブォンッ!! ローダが躰で風切る音が木霊する。
「速いッ!?」
「……『爆炎』」
ローダ、空からこれ迄通り鍵なる女を狙って来るかと思いきや、ルシアの背後に素早く回り、黒騎士襲う初動を見せる。
ルシアに取っては想定外の動きで在るが、爆炎をフォウへ指示したマーダ的にはただ速いだけの予定調和に過ぎない。
従って既に詠唱済な呪文をフォウが地雷の如く仕掛けていた。
激しい爆炎でローダは吹き飛んだ?
ブンッ!
煙の中から赤き男が平然と手刀を振り上げマーダの首を獲りに迫る。彼もルシアと等しく風の術式でフォウの魔法から身を守った次第。
カキンッ!
「やはり来たな! お前は正義の味方に憧れてるから真っ先に殺りたいのは僕だと確信してたさ!」
紅色の蜃気楼でローダの手刀と斬り結ぶマーダの用意周到。
左の手刀が駄目なら続けざまに右の手刀を繰り出す。これらを宙で静止しながら反復するローダの二刀流。
マーダの台詞、相手の動きを読んでただけではない様子を匂わす。
まるで互いの昔を知り抜く旧友か、はたまた兄弟へ掛ける言葉。
何時命が消し飛んでも文句が言えない状況の最中、剣で語り合うのを謳歌している印象。
一方ローダも何故だか黒騎士相手にやたらとムキに攻撃を繰り返す。
本気でこの4人を独りで相手取るつもりならガロウかフォウ。何れか弱き者を先に狙い討ち取るのが道理。
ローダ・ファルムーンとマーダ。二人共々、周囲に目もくれぬ。
互いの人生に於いて巡って来た宿敵争い?
或いは真逆な剣の稽古をしている様子。
少々手持ち無沙汰になる他の連中。
ルシアだけには何となく両者の気分を感じ取れた。それにマーダの狙いも承知済故、敢えて静観し続ける。
「ガッ!」
「足蹴も混ぜるとは無粋!」
両腕に寄る二刀流で埒が明かないローダ、足で相手の鎖骨辺りを踏み付けようと試みる。
されど右手1本で赤い両手剣を巧みに操るマーダ、空いた左腕の拳で難なくこれを振り払った。
踏まれると読んだマーダが不服を漏らす。
然し実の処、彼の思うがままに事は流れてる。狼狽え気味なローダの足蹴がそれを裏付けていた。