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第4話『Angel of Dreams(夢見の天使)』 B Part

 海上からアドノス島の戦乱を見て飛び込んだ筈のローダ・ファルムーン。

 気が付けばベッドの上。


 然も20年の人生に於いて最も美麗(びれい)と確信出来る女性が部屋を訪問してる夢色の空間。

 奈落(ならく)転じて極楽浄土(ごくらくじょうど)。自分は真に命を全う(まっとう)し終え天へ()されたか?

 或い(あるい)はこれが俗に言う意識持ち得たままの転生であるのか?


 ──……ハッ!?


「あ、あ、あ……。い、いや、その……何だ。さっきのは祖国の御挨拶(ごあいさつ)みたいものだ」


 初対面の女性に途方(とほう)(あられ)もない言葉を投げた自分にようやく気付いたローダである。我ながら酷過ぎるデタラメ具合、されど口を突いた『綺麗』これは(うそ)でなく(まこと)()()とは言い難い言動だが本心なのだ。


「あ、あぁぁ……挨拶。な、成程ぉ。あ、挨拶なら仕方ないよねぇ…うんっ」


 ──えっ?


 顔赤らめた容姿端麗(ようしたんれい)なる金髪(女性)。恥ずかし気に言い淀み(よどみ)ながら引き攣る(つる)笑顔を湛え(たたえ)ローダの寝ているベッドの端に腰を下ろす。


 あんな嘘(デタラメ)がまさか通用したのか? 俄か(にわか)に信じ難いが兎に角(とにかく)胸撫でおろさずにいられぬローダである。


 ──そ、それにしてもこの女性()。余りに無防備過ぎやしないか?


 ローダ、取り合えずベッドに面してる壁に寄り掛かりゆっくり身体を起こす。するとこの女性、さらに距離を詰めて来た。互いの温もりが伝わる程に。


 ラフが過ぎる格好のまま瞬く(またたく)間に寄せられ、心拍(しんぱく)が高鳴らずにいられぬ初心(うぶ)な青年。この女性、彼を異性と意識する気がないのであろうか。


 ──は、()()()()()ん……じゃないのか?


 部屋着の下に()()()()()()()()()(なま)めかし過ぎるのだ。その証拠に自分にはない胸元の大きな膨らみ。彼女が動く都度()()()()()()()


「そ、それにしても意識が戻って良かったよ。だって3()()も起きなかったんだから」


 ──3日!?


 女性の一言に、()()()()()()から覚めた気分のローダである。どうやらあの夜から3日も経過したらしい。


「そ、そうだ。あの争い、き、君も……」

「あ、ごめんなさい。ルシアで良いよ。貴方は?」


 ローダ、海上で見た戦乱を如何(どう)にか思い出し本題に触れようと試みる。

 ルシアは名乗ってなかった旨を髪を()き上げ微笑みと共に()びる。


「あ……こ、此方こそ済まない。俺はローダだ。──る、ルシア……。()()あの戦いの中に居たのか?」


 相も変わらずファルムーン姓の語りを躊躇う(ためらう)ローダ。加えて彼に取って絶世と言って差し支えない美女から折角(せっかく)聞けた名前で呼ぶのさえ躊躇(ちゅうちょ)する。


 ──えっ?


 ローダの質問に首を(かし)げるルシア。

 自己紹介こそしてなかったが、3日前の戦乱に於ける自分を覚えてないのは納得往かない。ローダの黒い目を思わずじっと見つめる。


「ひょ、ひょっとしてあの時の記憶が無いの?」

「記憶? あ、嗚呼……どうもそうらしい。実はさっきから思い出そうとしてるのだが酷い頭痛がするだけなんだ」


 ガシッ!


 ルシア、増々驚かずにいられない。『頭痛が酷い』と語るローダの両腕を白い両手でガシリッと掴み(つかみ)、半ば無理矢理自分へ向ける。


 ──あんな激しい争い、覚えてないとか意味判んないよ!


 これがルシアの気分。

 不謹慎(ふきんしん)だがこれ迄の総てを失う記憶喪失(そうしつ)ならまだ納得出来る。3日前の争いだけ抜け落ちるのは如何(どう)にも()せない。


「──俺は海の上から蒼白い光が走るのをこの目で見た。上手く説明出来ないが、アレを見て俺は如何(どう)にかしたいと感じた」


 淡々(たんたん)と真顔で話す自分を演じ続けるローダ。昂る(たかぶる)気分が漏れ出しそうな視線だけ(そむ)けた上で話を続ける。


 ──処で自分(ローダ)は何をこんなに昂ぶって(期待して)る?


 例え身体を抑え込まれたとはいえ、大変真面目な話をしてるのだ。今の束縛(そくばく)()()()()へ進むのを妄想(もうそう)するとか全く以って頭がおかしい。それでも鼓動(こどう)高鳴る(夢見る)下心を止めようがない。


 ガバッ!


「──ッ!?!?」


 さらに在り得ない()()()()が跳ねる様に御相手からやって来た。


 男性として最底辺、決してやってはならぬ間違いを、気狂い(きぐるい)任せでやり兼ねない気分に頭が支配され掛けてたローダに途轍(とてつ)もない追い打ち。


 あろうことかルシアが自身の大きな()()()で黒いローダの頭を抱き締め、幾度(いくど)慈しむ(いつくしむ)様に撫で始める。


「ローダ・()()()()()()。貴方は私達の恩人なの、もし貴方が駆けつけてくれなかったら今頃()()()()()()か判らないよ」


 ローダのフルネームをルシアが耳元で囁く(ささやく)不可思議。

 加えて『恩人』と(たた)えつつ、『どうなったか判らない』実は曖昧(あいまい)なる誉め(ほめ)言葉。恩人の枕詞(まくらことば)()が付かない。


 単なる偶然かも知れないが、ルシアは『ローダのお陰で私達は生き延びた』と言った訳ではないのである。


 それはさておき騎士ローダ様の活躍を、ルシアは幼き子供へ読み聞かせする様な穏やかな顔で語り始めた。

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