第4話『Angel of Dreams(夢見の天使)』 A Part
『虫共、地上から神の鉄槌を見上げ絶望に伏せるが良い。──『輝く真空の刃』!』
現人神──生きた人間で在りながら神と崇められた存在を指す言葉。
ゴゴゴゴゴッ……。
現人神が虚空の夜空で魅せる剣舞。
新月の闇に突如現れた蒼白く絶大なる三日月。エドナ村の海岸線を地響き上げ突き進む。
敵味方関係なく平等に斬り裂き、エドナ村内部へ進撃。
物見櫓や塁璧等、まるで最初から所在しなかったが如くそれら総てを破砕。
民家も続々神に因る鉄槌の餌食へ転ずる地獄の巷。村の中心付近に位置する教会と思しき建物を半壊させようやく消失。
「あ、嗚呼……」
「そ、そんな……ひ、酷い。こ、こんなの幾ら何でも酷過ぎる!」
暗黒神マーダが召喚したただの一振り。他のResistance毎、村半分をマーダ独自の力で灰燼と化す。
自分達と余りに次元が違い過ぎる様をまざまざと見せ付けられ、 絶望に崩れ往くルシアとガロウの二人。涙さえ最早枯れた。
「フフッ……クハハハッ!! 見たか虫共ッ! これぞ真なる神の力ッ! 見たら死ねぇッ!!」
マーダ、絶望に瀕するResistanceのリーダー。ガロウへ向け、やはり最上段から袈裟懸けの太刀筋見舞う。
ガロウとて並外れた剣士なのだ。
黙って斬られる程、ぬるい存在ではない。神紛いの袈裟懸けに対抗すべく、斜め下段からの振り上げで相まみえようと試みる。
ボキッ!
「ぐわッ!?」
──ひ、左鎖骨が折れた!
両手剣の自重、加えて空からの重力込めた最上段斬り。
後の先頼るカウンター狙いのガロウであったが、流石に分が悪過ぎた。
出来るものなら避けるべきであったやも知れぬ。下手に受け損ねた故、嫌な音と共に己の負傷具合を咄嗟に知り得た。
◇◇
「な、何だよアレはッ!!」
此方ゆるゆると波間に揺られアドノス島上陸を図るローダ・ファルムーンと渡し屋の少年ディン。
ディン、これ迄にもアドノスに於ける戦乱を幾度か見た経験を持つ。争いの隙間を縫える丹力があるからこそ、結果のお零れを頂戴した経緯が在る。
そんな彼が対岸で繰り広げられてる異常ぶりに目を白黒させる。
それ程黒い剣士が成した行為は常軌を逸していた。躰の震え止まらぬディン、正直渡し屋の報酬など依頼者に投げ付け、今直ぐ引き返したい衝動に駆られる。
──ドクンッ!
ローダ、立ち尽くしたまま争いの一部始終を目に焼き付ける。彼自身、理由が飲み込めず取り憑れたかの様子。瞬き一つしない──いや、出来ないのだ。
「ろ、ローダ? お、おぃ……や、ヤバいって。諦めて逃げようぜ、なあッ!」
ディン、大層狼狽えた目でローダの肩を必死で揺する。
なれどこの青年、明らかに様子が奇妙。海上の小舟であるのに青年の身体が岩の様に重たく感ずる。
「……俺、行かなきゃ」
「は、ハァッ!? い、今何て…うわぁッ!?」
ボソッと在り得ない一言を呟くローダ。
小さな船の頼りない甲板を容赦なく蹴り夜空へ飛び発つ。全身が赤みがかった輝き散らす異変。然も上昇したかと思いきや、アドノス方面へ向け扇を描いて飛び去った。
ディン、独り海上に捨て置かれ茫然自失。
赤一色の花火が暴発の末、天まで昇らず真横へ流れた感じ?
状況説明の語彙力、自分にはまるで足りない。ガクリッと肩を落とすしかない無力なディンであった。
◇◇
「──うっ……ンッ?」
ローダ、気が付けば夜空はおろか島の景色ですらなく、古ぼけた木造建築の天井を眺める自分に気が付く。その上、毛布に包まりベッドで寝ているではないか。
──夢? いや恐らく違うな。
その証拠……断定するには無理矢理感も在るのだが、やけに後頭部が痛みを帯びる。出血こそしてないが何かで酷く殴られた様な違和感。
されど海上から戦乱の様子を窺っていた後の記憶が如何にも思い出せない。思い出そうと試みれば後頭部の痛みより激しい頭痛に見舞われる。
ガチャッ……部屋のドアノブを捻られた音。
ローダの緊張感が一挙に高まる。
何しろ記憶が無い状態で気が付けば寝かされていた次第。ベッドへ横たわってるにも拘わらず在る筈のない剣を探る。自分の身に起きた現実を理解出来ねば落ち着ける道理がない。
ギィィ……。扉がゆるりと開く。
身構える処か寝たフリすら出来やしない。
「──あ、良かった。ようやく気がついたのね」
扉から顔覗かせる金髪女性の眩い笑顔。
ローダに取って想像の斜め上を往く存在が視界に飛び込む。
緊張感──? 最早何処吹く風な掌返し。
肩辺りまで伸びた天使の輪煌めく金髪。澄んだ緑の瞳がエメラルドを思わせる。左目下に色艶高まる泣きぼくろ。
さらに如何にも部屋着な緩さ。否が応でも身体の流れを己のやらしい視線が追い縋るのを止められない。
──ゴクリッ。
「き、綺麗だ」
「え? ……えぇ。えと、あの、そのう…」
思わず男性の本能頼みで身勝手を口走る内気な筈の若人。
金髪の女性、会話の初手が告白めいた発言に戸惑う色を隠せなかった。