◎05話 安易に大儲けは出来ない
10歳頃少女達は王宮のお茶会で出会いますが、いきなり話は5年後──中等の最終学年になっていて、学園での話になり、ここでも、季節ごとの話になります。時間経過はあっという間です。 春夏秋冬そしてまた春と、飛び石の上をポンポン飛んでいく感じで、話は進みます。違和感があったら、すみません。
──またたく間に五年後の春──
チラチラと透き通った日射しが木々の間から洩れ、気持ちよい風が、新緑の葉を揺らしている。
花壇では、咲きほころび始めた色とりどりの花々が、のどかな春の訪れを感じさせていた。
そんな春のきざしのある、中等学院中庭で木目の丸テーブルの周りに、揃いの制服を身に付けた三人の少女が座っていた。
制服は、白いブラウス。首もとには臙脂色のリボン。袖口と裾に銀糸の刺繍がほどこされ、胸元のポケットには花とハートに囲まれたバグのエンブレムがある、グレーの丈の短いブレザー。同色のベスト。臙脂と紺の細かな格子の入った膝丈のスカートだ。
なぜか学院の制服なら足を見せていても、はしたないと眉をひそめられる事はない。
白地に小花模様が描かれた、陶器のティーポットと揃いのカップ。チョコチップの埋め込まれた薄茶のココアクッキーと、白いミルククリームが挟まれたバタークッキーが山盛りにされた大きな深皿がテーブルに置かれている
ポットを持ち、手ずから目の前のカップにお茶を注いだ金髪縦ロールの少女は、くんとひと嗅ぎ、香りを確かめた後、一口お茶を口に含んだ。
「これはフレーバーティー……。ベルガモットオレンジよりも、柑橘系の香りが強く、喉ごしもよく、ほのかな甘みもありますわね。とても美味しいですわ。」
「あら、エーさん。気に入ってくれましたの?」
すぐ後に黒髪の少女が自分のカップにもお茶を注ぎながら、嬉しそうに微笑む。
「町に出たら、八百屋で橙色をした金柑のような果物が、てんこ盛りで安く売ってましたの。それをむいた皮を細かく刻んで乾燥させ、やっすい茶葉と合わせてみたんですわ」
黒髪の少女の言葉を聞いて、茶髪の少女も自分のカップに注いだお茶を一口飲む。
「あっ、本当に美味しいですわ。でもビーさん、これ、聖水使ってません?この爽やかな喉ごしは聖水のおかげかも……」
「まあ、それはそれは……。聖水なんていくらでも作れますから、茶葉に付けて売り出してもいいんですけれど、やっすい茶葉で儲けるという野望が、早くも行き詰まりましたわねぇ」
情けなく眉を寄せた黒髪の少女に、茶髪の少女がニヘラと笑う。
「えっ、でも聖水なら充分高く売れますわよ。売るつもりなら、聖水だけの方がいいと思いますわ。茶葉の方がおまけになりそうですわね」
「シーさん、ビーさんを唆すのはやめてくださいな。聖水なんて勝手に売りさばいたら、神殿の人間がやってきて面倒な事になりますわよ」
慌てて、金髪の少女が二人を諫める。
衝撃の出会いから、五年──。三人の少女達は匂い立つような美しい乙女に成長していた。同い年の三人は同時に学院に入学し、同じ寮に入り、中等学院3年に上がった今日まで親交を深め、友情を培ってきた。
ここは乙女ゲームの世界だ。どうゲーム補正が働くかわからないし、特殊な前世を持つ三人が何かやらかしてしまわないように、素の状態が出過ぎる日本語はゲームから解き放たれるまで封印した。
乙女ゲームの登場人物であると自覚を持って行動し、自分達を戒めるためにも、お互いをキャラA・B・Cで呼ぶ事にした。
アリエンナ→エーさん
ブリジット→ビーさん
クリスティーナ→シーさん(ご年配発音)
変に親しげな愛称呼びするよりも、人の耳を訳のわからない響きでごまかせるという発想からだった。その発想自体が訳がわからないという事に三人は気づいていない。
「ハァ、神聖魔法ばかりでなく、今世では調合や他の魔法を身に付けたかったのですけれど……。聖水は売りませんわ。でも、茶葉調合は失敗ですかしらね?」
悩ましげにため息をついたブリジットはココアクッキーをつまむと、ポイと口の中に放り込む。
外側はサクサクとして、内側はしっとりとした食感。噛みしめるとトロリとした甘めのチョコクリームが溢れだし、甘さを抑えたほろ苦い外側のクッキーの生地と口の中で混ざり合う。──カカオ豆から生まれた絶妙なハーモニー。
ブリジットの顔が幸せそうに綻んだ。
こんな作品に挑戦して、下さってる方もおられるようですね。
何だか申し訳ない気持ちになりますが、ありがとうございます。