※04話 少女達は前世のことを語り合う
──今日は日射しも柔らかく、薔薇の花を揺らしながら吹く風も、良い薫りを運んできて、本当に気持ちがいい。
脳みそを溶ろけさせるような声音に身をゆだね、どこかに旅だってしまいそうな時間が過ぎる。
「……では、とても名残惜しいけど、わたし達はこれで失礼するよ。今夜は花の精のような君たちの夢を見てしまいそうだ。楽しい時間だった。」
飲み終わったカップを置くと王子が立ち上がる。
一杯の紅茶を飲み終わる小半時、王子が自分の特技やら、趣味やらをあの溶けそうなセリフをまじえながら語り、他の者は相づちを打ったり、感心した素振りを見せることに終始していた。
何だか記憶に霞みがかかっているが、無難にやり過ごせたのだろう。だが、アリエンナの中で他の二人の少年はキッちゃんとマーくんのままだ。でも、何の問題もなかった。
「わたくしの方こそ、殿下と夢のような時間を過ごさせていだだき幸せでしたわ。**さっさと立ち去れ。このボケカスが。**」
ニッコリ笑顔で返した社交辞令に、早口で付け加えたのは、前世の言葉。
「ん?」と不思議そうな表情を浮かべた王子に、アリエンナは恥ずかしそうに目を伏せる。
「あら、わたくしったら。殿下と過ごせた嬉しさのあまり、古えの感謝の言葉をつい……。失礼しました。どうかお気になさらず」
「では、ご令嬢方はそのままお茶やお菓子を楽しんでいって──」
一つ頷いた王子は、笑顔で友人の少年達と立ち去る。
去り際の挨拶も王子だけが話し、他の二人の少年達とは軽く目礼しあっただけだった。おまけの役目を心得た良い友人なのだろう。
アリエンナは、ひと仕事終えた気分で着席すると、いつの間にか新しく入れかえられていた温かな紅茶を口に含む。
先ほどの紅茶とは、また違った上品な味と馥郁とした香り。王宮御用達茶葉は、何種類かあるのだろう。
細やかな心配りだと感心していると、右側から窺い見る視線を感じる。
顔を上げ目線を向けると、黒髪の少女とバッチリ目があった。
「あの……あのあの……**もしかしてあなたも転生者なの?**」
聞こえた日本語に、アリエンナの目は驚愕で大きく見開かれる。
驚きのあまり、指から離れたカップは、どこからともなく現れた従僕の手に受け止められ、ソッとソーサーに置かれる。
「えっえっ……ええ~~!**あなた達、二人とも転生者?!**」
左隣からも、悲鳴じみた声が上がり、バッとアリエンナが振り向いた時には、もう従僕の気配すらない。
三人の少女達はお互いの顔を驚きの表情で、見つめていた。
「**で、前世では勇者として召喚されて、魔王倒したんだけど、勇者一行ってのが王子をはじめ、偉そうな肩書きのある美形青年達でね。役目終えた後も、チヤホヤされて、『これ、もしかして逆ハーじゃない?』といい気になってたら、実はみんな、可愛い恋人がいるのがわかってさ。
『アラサーOLなめんなよ~!』とささくれて不機嫌になってたら、勇者にも効く特殊な毒を盛られてね。おダブツしちゃったのよ。
あ~今、思い出しても腹立つわぁ~~!**」
色とりどりのカラーチョコで可愛く飾られた丸型のチョコを、わしづかむといっぺんに口の中に放り込み、グシャグシャと咀嚼する金髪縦ロールの少女。
「**わたしも前世では、召喚された時はもう、ミソジ近くて。聖女って十代の少女がやるもんじゃないかと思いつつ、何とか魔王を封印して、世界に満ちた瘴気を浄化することが出来たんだけど……。
若くてイケメンの王様の正妃として後宮に入って、『これも、一つの幸せかしら』とか考えていたら、次から次へと若くてキレイな娘が後宮に入って来て……。
散々蔑ろにされて、ひねくれきったところで、王と新顔の側妃がわたしの悪口言ってるのを聞いちゃって、逆上して王に掴みかかったら、剣で切り殺されちゃった。
あああ……今もこうして考えるとムカムカする~~!**」
黒髪の少女は近くにあった、たっぷりの高級バターとクリームを使ったほのかに薔薇の香りのするクッキーをつかむと、ザクザクと端から噛み砕きはじめた。
「**わたしは、中2の時に幼なじみの男の子と一緒に召喚されて~。アイツは勇者だったんだけど、なぜかわたしは、ひらがなで『けんじゃ(笑)』だったの。
今世ではステータスみたら、″じゃ″のところが漢字になって『元・けん者』になってて(笑)は無くなって、少しホッとしたんだけどね**」
茶髪の少女の言葉に、チョコとクッキーを貪り食っていた少女達の動きが止まる。何かを睨むように、空をちょっと見つめると、納得したように頷いて再び菓子を食らい始める。
「**お姫様聖女、エルフ女弓使い、ケモ耳女盗賊、ドワーフ女戦士とか、勇者ハーレムの中に混じって魔王をなんとか倒して、『これで安心かな』なんて考えてたら、アイツが奴隷ケモ耳幼女を買って、一緒にお風呂に入ってるのを目撃しちゃったの。
アイソ尽きて離れようとしたら、土下座してひき止めてくるから、『もう少し一緒にいてもいいかな』とハーレム要員達と暮らしたのが、運の尽きって言うか……。
いじめられた。散々いじめられた。もう、陰湿でやらしいネチネチしたいじめが毎日……。やさぐれて、心身ともに参りきって死にかかってたのに、アイツは気づかないまま、ハーレム要員達とキャッキャッウフフと楽しんでたの。
ううう……今、よみがえるあの悔しさ……くぅ~!**」
茶髪の少女は皿に上品に盛られた、鮮やかな彩りの、宝石のような果実をうめこんだフルーツケーキに手を伸ばすとギュムッと口に放り込み、他の二人と同じように乱暴にムシャムシャと咀嚼し始める。
──ここに高位貴族のご令嬢はいない──
テーブル付きの従僕やメイドは、優雅な動きで、まめにお茶を入れかえ、ものすごい勢いで無くなっていくお菓子を補充する。
少女達がかん高い声で喋り始めたところで、周囲に迷惑がかからないよう、さりげなく防音魔法をかける心づかいも忘れない。
「**なめきってるな。異世界転生!**」
「**今度は何の冗談だ──!**」
「**ふざけるな。乙女ゲーム!**」
彼らは謎の言葉をわめき散らしながら、お菓子を貪り食らう、ご令嬢達を見ても顔色ひとつ変えることはない──。
これでひとつの区切りです。またひと区切りまで書きためます。
(蕩けそうな→溶ろけそうな わざと当て字してます)




