もんもんぐんぐん
ぶたぼね王国には古来からつたわる、もんもんぐんぐん祭りというものがある。
その昔、国の存亡をかけた戦いが由来となっていることを知る者は少ない。
◇
ぶたぼね王国は、古くからトンコツ帝国と争いを続けていた。
トンコツ帝国の兵は、豚殿兵と呼ばれる強力な軍団。漆黒の鎧に身を包み、巨大な寸胴鍋を担いで突撃してくる無敵の兵士たち。帝国を最強たらしめる所以となっていた。
ある日。
「進めぇぇぇ!」
宣戦布告もなく豚殿兵が攻め込んできた。またたく間に国境の砦は落とされ、ぶたぼね王国の領土へ雪崩れ込み、蹂躙を開始した。
容赦なく村は焼かれ、食料は略奪された。逃げ遅れた人々の末路は悲惨なものだった。男は殺され、女子供は捉えられた。
「誰か助けてぇ!」
その時、一人の騎士が白豚に乗って現れた。
白銀の鎧。背中には巨大な骨の大剣。ぶたぼね王国最強の騎士――ブタボーン卿である。
「ここから先へは、一歩も通さん。」
豚殿兵を率いる、トンゴッツ将軍はせせら笑った。
「たった一人で何ができる! 蹂躙せよ!」
ドラの音に合わせ、数千の豚殿兵が一斉に前進を開始した。
地鳴りのような足音が迫るなか、ブタボーン卿は静かに佇んでいた。
「天の時、地の利、人の和。それら全ての不利を覆す幻の秘宝」
彼は腰の袋から、小さな木箱を取り出す。中には、王家に代々伝わる禁断の秘宝が収められていた。
その名は――
「もんもんぐんぐん」
豚殿兵たちは、ブタボーン卿の構わず前進を続ける。当然だ、通常であれば万にひとつも負ける道理がない。
ブタボーン卿は木箱のふたを開け、高々と掲げ、その名を三度叫んだ。
「もんもんぐんぐん! もんもんぐんぐん! もんもんぐんぐん!」
静寂。
すると。
もん。
もんもん。
もんもんぐん。
もんもんぐんぐん!!
謎の音が大地に響いた。地面が震える。空がうねる。豚殿兵たちは武器を取り落とし、胸を押さえ悶え始めた。
「な、なんだ……」
「胸が……」
「もんもんするぅぅぅ!」
心がざわつく。落ち着かない。理由は分からない。ただ、もんもんする。
それが、ぐんぐん。
もんもんが、ぐんぐん大きくなる。
「いやだぁぁぁ!」
「気になって戦えん!」
「私は一体、何にもんもんしているんだ!」
豚殿兵は列を乱し、頭を抱えて転げ回った。もはや秩序だった行動は取れず、軍勢は総崩れとなった。
絶望に顔を青くしていた、ぶたぼね王国の兵士たちの士気が上がっていく。
そこへブタボーン卿が大剣を掲げ、号令をかけた。
「前進!」
ぶたぼね王国軍が突撃する。
「ブタボーン卿に続けぇぇ!」
戦意を失った豚殿兵は次々と捕らえられ、ついには全軍が降伏した。
その知らせを聞いたトンコツ帝国皇帝は震え上がる。
「まさか……伝説の秘宝『もんもんぐんぐん』が、まだ存在していたとは……」
側近が尋ねる。
「陛下、もんもんぐんぐんとは一体何なのですか?」
皇帝は青ざめた顔で答えた。
「もんもんぐんぐんある限り、ぶたぼね王国に手出しするべからず」
「え?」
「先々代からの口伝……まさか真実だったとは」
「対抗策はないのですか?」
「何も分からぬからこそ恐ろしいのだ……」
側近はもう一度尋ねようとしたが、皇帝はすでに玉座から立ち上がり、震える声で停戦を命じていた。
その日を境に、トンコツ帝国は坂を転げ落ちるように力を失っていく。
やがて、トンコツ帝国は数年も待たずして、ぶたぼね王国に併呑されることとなる。
◇
秘宝もんもんぐんぐんがどこにあるのか、今となっては知るものはいない。
だが、もんもんぐんぐんのうねりは、ぶたぼね王国の祭りとして皆の心の中に引き継がれている。
今日も、皆が笑顔でぶたぼねラーメンをすする姿が見られるのだった。




