再会
部屋の中は柔らかな朝の光が差し込み
ベッドの上にバルトが上半身を起こして座っていた。
昨日より顔色は少し良くなっているものの
肌はまだ薄く灰色がかり、 首筋や手首のあたりから
時折淡い黒い霧がゆっくりと漏れている。
バルトは扉が開いた音に気づき、ゆっくりと顔を上げた。
白く濁っていた目は、昨日よりいくらか澄んでいて、
エレナの姿を捉えた瞬間、大きく見開かれた。
「……エ……レナ……?」
その声はまだ掠れているが確かに「妻の名前」を呼んだ。
エレナは花束を握ったまま、部屋の入り口で
凍りついたように立ち止まった。
彼女の肩が激しく震え、 唇を強く噛んで
涙が一気に溢れ出した。
「……バルト…… バルト……!」
エレナは花束をベッドの横のテーブルに置くと、
よろけるような足取りでベッドに近づき
バルトの胸に勢いよく抱きついた。
バルトも弱々しい腕をエレナの背中に回し
掠れた声で繰り返した。
「……エレナ……ごめん…… 本当に……ごめん…
… 生きて……帰ってきたよ……」
二人はそのまま、静かに抱き合い
エレナの嗚咽だけが部屋に響いている。
ヨハクとリリアは部屋の入り口から少し離れた位置で、 その様子を静かに見守っていた。
バルトの体からはまだ時折黒い霧が細く漏れているが
エレナはそれを恐れる様子もなく、ただ強く
夫を抱きしめ続けている。
ヨハクはリリアと一緒に部屋の外へ出ると、廊下の少し先で足を止めた。
エレナの嗚咽と、バルトの掠れた声が、扉の向こうから小さく聞こえてくる。
ヨハクは近くにいた年配のシスターに、静かに声をかけた。
「すみません、少し席を外そうと思いまして…
… 他の患者さんは今、どのくらいいるんですか?」
シスターは柔らかい笑みを浮かべ、穏やかな声で答えてくれた。
「今朝は比較的落ち着いていますよ。 この棟には他に三人の患者さんがいらっしゃいますが、 皆さん軽い風邪や擦り傷程度で、 静かに休まれています。 バルトさんの部屋は一番奥なので、 あまり物音が漏れる心配はありませんわ。」
彼女は少し声を落として、付け加えた。
「エレナさん……ずいぶん長い間、夫の帰りを待っていらしたようですね。 今は二人きりの時間をあげた方がいいと思います。 どうぞ、こちらの待合室でお茶でも飲んでお待ちになってください。 何かあったらすぐに呼んでいただければ、いつでも駆けつけますから。」
シスターは廊下の突き当たりにある小さな待合室を指差した。
そこには柔らかいソファと、温かいハーブティーの香りが漂っている。
リリアがヨハクの袖を軽く引いて、小声で言った。
「……ヨハクさん、どうします? 少しここで待っていましょうか?
それとも……外の空気を吸いに行きますか?」
待合室の窓からは、朝の柔らかな陽光が差し込み
白の癒し堂の庭に咲く白い花が優しく揺れている。
エレナとバルトの部屋からは、まだ時折、 エレナの嗚咽と
バルトの掠れた「エレナ……」という声が聞こえてくる。
「一応、ここで待っていよう。急ぎの用事も特にないからな」
シスターが温かいハーブティーを運んでくれたので
ヨハクはそれをゆっくりと受け取り、一口飲んだ。
優しい甘さと薬草の香りが、朝の疲れを少し和らげてくれる。
ヨハクはリリアの方へ視線を移し、穏やかに続けた。
「リリアさんはギルドの仕事があるならそちらに行ってもかまわんよ」
リリアはカップを両手で包み、柔らかく微笑みながら首を横に振った。
「……いえ、今日は特に急ぎの仕事はありませんから、ここにいますね。
エレナさんのことも気になりますし……」
彼女は少し間を置いて、ティーカップの縁を指でなぞりながら、 少しだけ遠慮がちに尋ねてきた。
「それより……ヨハクさん。 昨日の報告の時、詳しくは話してくれなかったけど…… バルトさんが『黒い霧に晒された』って、どういうことだったんですか? ただの森の霧じゃなくて、何か特別な……呪いのようなものだったんですか?」
リリアの瞳は純粋に心配そうで、 ヨハクが話したくないなら
無理にとは言わない、という遠慮も感じられる。
ヨハクは遠くを見るような目で思い返しながら話す。
「あの森にはなんでも、森の奥に入ったものは帰ってこれないという噂があったらしい。 俺たちはバルトの痕跡を辿ったからすぐに見つかったし帰ってこれたが、 確かに黒い霧があって長居してはまずいなと感じた。 あの霧のせいで、バルトは呪いを受けたのだと思う」
リリアはヨハクの話を聞きながら、ティーカップを持つ手を少し止めた。
彼女は真剣な眼差しでヨハクを見つめ、ゆっくりと頷いた。
「……黒い霧、ですか…… やっぱり、ただの普通の森の霧ではなかったんですね。 ギルドの古い記録にも、『黒い森の奥は霧が濃く、 長く留まると心を蝕まれる』という記述が残っているんですけど…… まさか本当にそんなものがあって、バルトさんがそれに晒されてしまったなんて……」
リリアは少し声を落とし、心配そうに眉を寄せた。
「ヨハクさんが無事で本当に良かった…… もしヨハクまであの霧に長くさらされていたら…… と思うと、ぞっとします。 バルトさんは……あの霧の影響で、 体から黒いものが漏れたり、 時々意識がぼんやりしたりしているんですよね?」
彼女はカップをテーブルに置き、 少し身を乗り出すようにして続けた。
「シスターたちも『影の浸食』と言っていたみたいですけど…… 完全に治るのは難しいんでしょうか? エレナさんには……どこまで話した方がいいと思いますか? 私も一緒にいるので、必要ならフォローしますよ。」
リリアの瞳には、ヨハクへの信頼と、 これからエレナがどうなるかへの心配が、素直に浮かんでいる。
待合室は静かで、 遠くの部屋からエレナの小さな嗚咽が、時折聞こえてくる。
「きちんと事実を伝えるべきだろう。 変な遠慮はむしろ彼女にとって、バルトの看護の邪魔になるかもしれん。」
リリアはヨハクの言葉をじっと聞いてから、ゆっくりと頷いた。
「……そうですね。 エレナさんは強い方ですけど…… 夫の変化を後から知って、 『なぜ早く教えてくれなかったの?』と傷つくよりは、 最初にきちんと事実を伝えて、 一緒に受け止めた方が……きっと良いと思います。」
彼女は少し間を置いて、柔らかい声で続けた。
「ただ…… 『黒い霧』や『影の浸食』の部分は、 できるだけ優しい言葉で伝えてあげましょう。 『体に影のようなものが少し残ってしまったけれど、 命は助かって、毎日祈りを続ければ少しずつ良くなる』…… そんな感じで。 エレナさんがパニックにならないように、 私も横でフォローしますね。」
リリアはカップを両手で包み込みながら、 少し心配そうに待合室の奥の方へ視線を向けた。
「ヨハクさん…… ヨハクが『事実を伝えるべき』と言ってくれたこと、
私はとても心強いです。 エレナさんも、ちゃんと受け止められると思います。」
待合室の窓から朝の光が差し込み、 ハーブティーの香りが二人を静かに包んでいる。
遠くの部屋からは、エレナの嗚咽が、 もう少しだけ穏やかになったような響きに変わり始めていた。
リリアは自分のカップを両手で包み込みながら、窓の外の朝の光を眺めた。
待合室はとても静かで、遠くからエレナの嗚咽が時折聞こえてくるけれど、
その声は少しずつ、落ち着いたものに変わりつつあるようだった。
リリアはしばらく沈黙した後、ぽつりと呟いた。
「……ヨハクさんって、 本当に優しいんですね。 依頼をこなすだけでなく
こうして相手の気持ちをちゃんと考えて動く…… ギルドの冒険者さんの中でも
ヨハクさんみたいな方は珍しいと思います。」
彼女は少し照れたように頰を緩め、ティーカップを傾けた。
「私……今日、ヨハクさんとこうして一緒に待っていられるのが、 なんだか嬉しいです。 いつもはギルドのカウンターでしかお話しできないから……」
待合室に漂うハーブティーの優しい香りと、 朝の柔らかな光が、ヨハクとリリアを静かに包んでいる。
エレナとバルトの部屋からは、 もう嗚咽の音はほとんど聞こえなくなり、 代わりに低く囁き合うような声が、時折かすかに響いてくる。
リリアはカップを置いて、ヨハクにそっと視線を向けた。
「…そろそろ様子を見に行ってみましょうか? それとも、もう少しここで待っていましょうか?」
「まぁ、何日も待ったんだ。落ち着くまで待っていてやろう。」
それからカップを少し傾けながら、ふと思い出したように言葉を付け加えた。
「リリア……さんとは、確かにギルドのカウンターで会う程度だったな」
リリアはヨハクの言葉を聞いて、ティーカップを持つ手を少し止め、
柔らかく、でも少し照れたような笑みを浮かべた。
「……ええ、そうですね。 いつもは『依頼の確認』とか『報酬の受け取り』とか…
… 業務的な会話ばかりでしたもの。」
彼女はカップをテーブルにそっと置き、 窓から差し込む朝の光を浴びながら、静かに続けた。
「正直……こうしてギルドの外で、 ヨハクさんとゆっくりお茶を飲むなんて、
想像したこともありませんでした。 なんだか……不思議な気持ちです。」
リリアは少し視線を落とし、指先でカップの縁をなぞりながら、 小さな声で言った。
「ヨハクさんはいつも、 依頼の報告も簡潔で、余計なことをあまり話さないから…… 少しミステリアスだな、って思っていました。 でも、今日こうして一緒にいてみると…… とても優しい方なんだなって、改めて感じます。」
彼女はそこで少し頰を赤らめ、 照れ隠しのように軽く笑った。
「ごめんなさい、急に変なこと言って。 ……でも、本当です。
バルトさんのことも、エレナさんのことも、 ちゃんと相手の気持ちを
考えて動いてくださる…… そういうところ、素敵だと思います。」
待合室は静かで、 ハーブティーの温かい香りが二人を優しく包んでいる。
遠くの部屋からは、もうエレナの泣き声はほとんど聞こえなくなり、
代わりに、低く落ち着いた話し声が時折、かすかに響いてくる。
リリアはヨハクをそっと見つめ、 少しだけ身を寄せるようにして、優しい声で尋ねてきた。
「……ヨハクさん。 もしよかったら…… これからも、ギルドの外でも、 たまにこうしてお話ししてくれますか? 私……嬉しいです。」
彼女の瞳は、朝の光の中で、 純粋で、少しだけ期待を込めた輝きを帯びている。
「俺は冒険者だ、街にいる方が少ないだろう。 機会があれば良いがな」
リリアはヨハクの言葉を聞いて、ちょっと寂しそうな、でも優しい笑みを浮かべた。
「……そうですね。 ヨハクさんはいつも忙しそうにしていますもの。
でも……『機会があれば』って言ってくださっただけで、 私は嬉しいです。」
彼女は空になったカップをテーブルに置き、 小さく息を吐いて微笑んだ。
そのとき、遠くの部屋から聞こえていたエレナの声が、 だいぶ落ち着いた響きに変わったことに気づいた。
ヨハクはリリアに軽く目配せをし、 「少しだけ様子を見に行こう」と立ち上がった。
リリアも静かに頷き、二人はそろって部屋の前まで戻った。
シスターがそっと扉を開けてくれ、中を覗くと——
エレナはベッドの横に腰を下ろし、バルトの手を両手で包み込んでいた。
バルトは上半身を起こしたまま、妻の顔をじっと見つめている。
二人の間には、もう激しい嗚咽はなく、 代わりに低く、途切れ途切れの会話が続いていた。
エレナが震える声で言っているのが聞こえた。
「……本当に……生きててくれて……ありがとう……
どんな姿でも……あなたは私の夫よ……
これから……一緒に頑張りましょうね……」
バルトは弱々しく、しかし確かに頷き、 掠れた声で答えた。
「……エレナ……ごめん…… 俺……ずっと……怖かった……
でも……お前が待っててくれたから…… 帰ってこれた……」
エレナはバルトの手に頰を寄せ、静かに涙を流しながらも、 穏やかな表情を見せ始めていた。
リリアがヨハクの袖をそっと引いて、小声で言った。
「……よかった…… エレナさん、だいぶ落ち着いてきたみたいです。
どうしますか? そろそろ声をかけてみますか?」
部屋の中の空気は、まだ少し重いけれど、 確実に「再会の温かさ」が広がり始めている。
ヨハクは静かに扉の前に立ち、軽くノックをした。
トン、トン……と、控えめな音が部屋の中に響く。
中からエレナの少し驚いた声が返ってきた。
「……は、はい……どうぞ……」
ヨハクはリリアと一緒にゆっくりと扉を開けた。
部屋の中では、エレナがバルトのベッドの横に座ったまま、
夫の手を握った姿勢のままこちらを振り向いていた。
彼女の目はまだ赤く腫れているけれど、さっきよりは表情が柔らかくなっている。
バルトも上半身を起こしたまま、ヨハクたちを見て、 弱々しく、しかしはっきりとした声で言った。
「……ヨハク……さん…… 来てくれたんだ……」
エレナは立ち上がろうとして、膝に少し力を入れながら、 ヨハクとリリアに深く頭を下げた。
「……ヨハクさん、リリアさん…… 本当に……ありがとうございます。
夫の話を……ちゃんと聞いてくださって…… そして、こうして……」
彼女の声が少し詰まり、 もう一度バルトの手を握りしめた。
バルトは灰色がかった顔で、でも確かにヨハクを見て、 掠れながらも誠実な声で言った。
「……ヨハクさん…… 俺を……助けてくれて……本当にありがとう……
エレナにも……全部……話してくれたんだな……
俺……まだ体が思うように動かないけど…… ちゃんと……礼はするから……」
エレナはバルトの横で、 ヨハクに向かって花束を少し持ち上げながら、 震えるけれど真っ直ぐな目で言った。
「……ヨハクさん。 夫の話を……詳しく聞かせてくださって、ありがとうございます。
黒い霧のことも……ちゃんと受け止めます。 これから……どうしたらいいか…… 一緒に考えてくれますか……?」
部屋の中は静かで、朝の光が三人を優しく照らしている。
エレナとバルトの視線が、ヨハクに注がれている。
「あの近くの宿で少し聞いた噂程度の話だが、あの森の奥は黒い影に支配され、深く入った者は帰れないところだったそうだ。 多少後遺症はあるとはいえ、こうして帰ってこれただけでも幸運と言えよう。 死んでしまうより、よほど良い。」
エレナはヨハクの言葉を最後までじっと聞いてから、
バルトの手を握ったまま、ゆっくりと頷いた。
「……黒い影…… そうだったのね…… 夫が……
そんな恐ろしいところまで行ってしまっていたなんて……」
彼女の声はまだ震えていたけれど、さっきよりは
しっかりとした響きがあった。 エレナはバルトの灰色がかった手に
自分の頰を寄せ、 静かに、しかしはっきりと言った。
「でも……ヨハクさんの言う通りです。
死んでしまうより……ずっと、ずっと良い。
姿が変わってしまっても…… 時々黒い霧が出ても……
バルトが生きて、ここにいてくれるだけで…… 私は十分です。」
バルトは妻の言葉を聞き、 白く濁った目を細めて、弱々しく微笑んだ。
「……エレナ…… 俺……本当に……ごめん…… お前を……こんなに心配させて…
でも……ヨハクさんがいなかったら…… 俺はもう……ここにはいなかった……」
彼はヨハクの方を向き、掠れた声で続けた。
「……ヨハクさん…… 本当に……ありがとう。
後遺症があるって……シスターからも聞いたよ。
夜に悪夢を見たり、体から霧が出たり…… でも……生きてる。
これから……少しずつ、治していこうと思う…… エレナと一緒に……」
エレナはバルトの手に自分の手を重ね、 ヨハクとリリアに改めて深く頭を下げた
エレナの瞳には、感謝と不安が混ざりながらも、 「これから一緒に頑張ろう」という決意のようなものが、 少しずつ芽生え始めているのが感じられた。
部屋の中は朝の光に満ち、 二人の手がしっかりと繋がれている。
「……ヨハクさん…… あんたは……本当に……いい奴だな……
俺……エレナと二人で…… 少しずつ……元に戻れるように……頑張るよ……
時々……顔を見に来てくれ…… 話……聞かせてくれ…」
エレナはバルトの肩にそっと頭を預け、 涙を拭いながらも、穏やかな表情を見せ始めた。
「……ヨハクさん、リリアさん…… 今日は本当に……ありがとうございました。
夫の容態がもう少し落ち着いたら、 改めて……ちゃんとお礼をさせてください。」
部屋の中は朝の光に満ち、 夫婦の間に静かな、けれど温かい空気が流れ始めている。
リリアがヨハクの隣で小さく微笑み、 そっと耳元で囁いた。
「……ヨハクさん…… 上手に伝えられましたね。 エレナさん、少し安心したみたいです。」
「お礼については、また落ち着いてからでかまいません。
こちらからも、お願いしたい事がありますし.....ゆっくり養生してください。
あぁ、それと、次に行商に出る時は多少高くついても護衛をつけて下さいね。
それでも100%安全というわけではありませんから。」
バルトはヨハクの言葉を聞き、灰色がかった顔に苦笑いを浮かべた。
「……はは……そうだな…… 護衛をケチったのが……全部の元凶だった……
次は……絶対に付けるよ…… 高くても……命には代えられない……」
彼はエレナの手を握ったまま、弱々しく頷いた。
エレナは夫の横で、ヨハクに向かって深く頭を下げた。 声はまだ少し震えていたけれど、しっかりと響いた。
「……ヨハクさん…… 本当に……ありがとうございます。
礼のことは……落ち着いたら、必ず…… こちらからお伺いします。
そして…… 何でも言ってください。
夫婦で……できる限り……お力になりますから……」
彼女はバルトの肩にそっと手を置き、 ヨハクに優しい、けれど真剣な眼差しを向けた。
「……これからは……二人で、ちゃんと生きていきます。
ヨハクさんが助けてくれた命…… 無駄にはしません。」
バルトも小さく頷き、掠れた声で付け加えた。
「……ああ…… 次に会う時は…… もう少し……まともな姿で…… 挨拶したいな……」
部屋の中に、朝の柔らかな光が差し込んでいる。 夫婦の間には、まだ不安の影は残っているものの、 「これから一緒に歩いていこう」という、静かな決意が芽生え始めていた。
リリアがヨハクの袖を軽く引き、 小さく微笑みながら耳元で囁いた。
「……ヨハクさん…… そろそろ、二人だけの時間にしてあげましょうか?」
「そうですね、ではこれで。」
ヨハクは軽く頭を下げ、部屋を後にした。
エレナはベッドの横から立ち上がり、深く頭を下げて見送ってくれた。
「……ヨハクさん……本当に……ありがとうございました。 また、必ずお礼に伺います。」
バルトも弱々しい声で、しかしはっきりと言った。
「……ヨハク……またな…… 体が落ち着いたら……ちゃんと話そう……」
リリアも一緒に部屋を出て、廊下を少し歩いたところで、 小さく息を吐きながら微笑んだ。
「……よかったですね。 エレナさん、だいぶ心が落ち着いたみたいです。
ヨハクさんが優しくて、しっかりした言葉をかけてくれたおかげだと思います。」
白の癒し堂の外は、すっかり朝の光に満ちていた。
街の喧騒が少しずつ始まり、鐘の音が遠くで鳴っている。
リリアはヨハクの隣を歩きながら、 少し照れたように言った。
「……今日は本当にありがとうございました。 私も……エレナさんのことが心配だったんですけど、 ヨハクさんがいてくれて、心強かったです。 ……これから、どうされますか? ギルドに戻りますか? それとも……少し、街を歩きますか?」
昼前のセルリアンは、穏やかで優しい空気に包まれていた。




