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終焉のプレリュード、あるいは神に見捨てられたマエストロの残照

父マックス・ハミルトンの名は、僕の背中に張り付いたまま剥がれない呪いだ。


バークリーの練習室の壁に飾られた父のモノクロ写真は、まるで僕の無様な現在を見下ろしているかのように、いつも歪んで見える。


「ショーン、お前のリズムは論理的だが、心臓を叩いていない」


そんな幻聴が、ピアノの前に座るたびに頭蓋骨の内側で鳴り響く。それは、もう二度と生きて聴くことのできない声だ。父マックス・ハミルトンは、僕がバークリーに入学する前の年に世を去った。だが、彼の言葉だけは、まるで磁気テープに録音されたように、僕の脳内で何度でも再生される。


あの日——十年前の航空機事故の後、初めてピアノの前に座った僕に、父は言った。「お前は今日から、音楽的死体だ」と。その言葉が、呪いとなって今も僕の喉元に貼り付いている。それ以来、僕は論理という冷徹な鎧を着込み、不協和音を数学的に解体することでしか、自分を証明できなくなっていた。


けれど、今日、その鎧に亀裂が入った。


練習室の窓の外、チャールズ川を吹き抜ける風が、かつて父が演奏していたあの旋律と全く同じ「裏拍」を刻んでいたからだ。


「……死んでなお、僕を支配する気か」


僕はピアノを強打した。


音の塊が空気を引き裂き、静寂を蹂躙する。憎い。これほどまでに、音楽という呪縛を刻み込んだ父が憎い。しかし同時に、この指が奏でる旋律の美しさに、僕自身が震えているのも事実だった。


「ショーン、何してるの?」


ドアが開いた。メグが立っていた。


彼女は何も知らないはずだ。僕が父の亡霊と戦い、この部屋で一人で狂いそうになっていたことも。しかし、彼女は僕の不協和音を、何の疑いもなく受け入れた。


「今の音、すっごく歪んでてかっこいい。まるで、壊れた時計が踊りだしたみたい」


彼女の言葉は、父の呪いを一瞬だけ無効化する。数学的に正しい音ではなく、歪んだ心のままに鳴らされた音。僕の音楽を「完璧な理論」から解き放てるのは、父ではない。この、ゴミ溜めから這い上がってきた野生の少女だけなのだ。


「……聞くな。ただ、この音に合わせろ」


僕はピアノを再び叩いた。父の亡霊など、どうでもいい。僕は今、父の息子としてではなく、一人の「音楽の解体者」として、目の前の少女と共に、この静寂を完全に破壊してやる。


僕は決めた。父が定義した「神の領域」など、この狂ったポリリズムで粉々に砕いてやると。


僕の指が、かつて父が嫌ったはずの不自然なテンション・コードを刻む。それは僕が父の亡霊に放つ、最初で最後の宣戦布告だった。

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