最終話
後ろにはウイスタンが苦しそうに立っていた。
カートは地面に這いつくばっている。
「はぁ...はぁ...!馬鹿が!...」
ウイスタンは苦しそうに声を出す。
身体から大量に血を出しながら傷を手で押さえ、カートを睨む。
「あ...あ...?!」
カートは身体を震わせながら意味が分からないといわんばかりな顔で倒れている。
「お前は...殺した...はずだ...?!」
「ああな...お前は急所っていう概念を知ってるか...!」
ウイスタンは震えた手でカートを指さす。
カートは全てを悟ったかのように、目を大きく開ける。
「あ...あぁ!」
「2回刺しても...お前がやった位置は急所じゃねえんだよ!馬鹿が...!」
「あああああああああああ!」
カートは悔しそうに叫び声をあげる。
叫び声は外まで聞こえる勢いで響き渡った。
「あああああ!ううううう!」
カートは叫びながら赤子のように地面を這いながら前へ進み始める。
「自分で自分の気の緩みを恨むんだな...確かにお前は賢い。俺らの何倍もな。だが、俺らと唯一、共通点があったな...!緩みだ!最悪な点を真似しても意味ねえんだよ...!」
ウイスタンはずっと指を指し、哀れな目でカートを見下している。
カートは前へ進みながら言った。
「うるせえよ...!」
そして勢いよくその場にとまり怒鳴った。
今までに聞いたことない声を出す。
「俺の勝ちなんだ...!俺はギャングスターなんだ...!お前なんかに...阻止されて!!」
「もう少しで!もう少し!俺は!スターに!なれてたんだ!」
「お前!なんかに...!」
ウイスタンは目を細くし、叫ぶカートをただ、見つめていた。
悲しそうな表情で、同時に、苦しそうな表情で。
立っているのが辛くなってきた。
足のバランスが崩れ、がくんとウイスタンは座り込む。
そして懐に手を入れ、片手にナイフを持つ。
ウイスタンはナイフを持ちながらカートの元へ前進し始めた。
「はぁ...う...」
カートがわめき散らす。
「うううう!俺あああ!俺がああ!」
足元などに死体が触れそうだ。
ウイスタンはカートに近づくにつれゆっくりと腕を上へあげる
「やめろおおおお!俺はああああああああああ!!!」
そしてもう片方の手をカートの上に乗せる。
ずっしりと体重をかけ、動かないように固定させ、カートはその場で死にかけの虫のように足をドタバタさせていた。
ウイスタンの目は殺意と哀しみでいっぱいだった。
「俺はああ!ギャングスターだああああああああああ!!!!」
静かになった。
ついさっきまで叫んでた男は頭から大量の血を出しながら仰向けになって倒れている。
仰向けになって倒れている男の上には、ウイスタンが手を置いていた。
ウイスタンは震える片手を頭からゆっくり離し、背中からも手を離した。
なぜ震えるのか自分でもわからない。ただ、皆の仇をとった嬉しさか、哀しみか。
どちらかしか選択肢はない。
「はぁ...はぁ...」
ウイスタンは血まみれの手を壁にこすりつけ、手についた血を拭う。
あとはペンキが手についたように染みついてしまっている。
苦しそうにウイスタンは腕の力で壁へ向かって前進する。
「うぅ...」
震えを抑えながら、なんとか壁に背中をくっつけれた。
安心したのかウイスタンはほっと一息をつく。
しばらく天井を何も考えずに見つめている。
「...」
何も発さず、じっと天井だけを見つめている。
静かになった空間が、より一層孤独感を強調させていた。
何回かため息をつくが、それ以降は黙って目を細くしている。
さっきよりも動いたからかかなり出血していて、ウイスタンもわかっているのか手を抑えて、血を見ないで苦しそうな表情をする。
ウイスタンはゆっくりと手を身体から離して、光を遮るように自分の前へもっていく。
かなり動きが遅い。
手を見たらもう肌色はなくなり、赤色しかない手だった。
確認したらウイスタンはまた手を傷口へと戻した。
すべてを悟った目で呟く。
「...死ぬな...もうすぐ...」
頭を壁に寄りかからせて辺りを見渡す。
「当たり前か...」
死というのが迫ってくるのを実感し、ゆっくり死ねなかった仲間たちを、なんと思えばいいのか分からなかった。
それ以前に、死が怖いのだろう。受け止める気が合っても怖いのだろう。
「ハ...」
微笑んでまた天井を向き始める。
さっきよりも息を吐くのが多くなってきた。
汗もかき始めた。
手は...さっきから同じように震えが止まらない。
思わず目から涙が零れ落ちた。
片手を頭にのせる。
涙は地面に落ち、血の海の中に入っていく。
半分は飛び跳ねて、半分は混ざりあう。
涙は止まらない。
永遠に続くように止まらない。
泣けばなくほど、虚しさが伝わってくる。
冷たい壁が、その心を表現していた。
「う...うぅ...!」
悔しさで心がいっぱいだ。
皆を助けられなかった。
ボスの期待に応えられなかった。
気づいたのに油断した。
一緒に行動していたのに見抜けなかった。
カートを止められなかった。
これらの出来事が、走馬灯のように集まり、心を攻撃してくる。
1人で、ウイスタンは悔し泣きをしていた。
今はもう遅い。
もうすぐ死ぬから遅い。
過去を見ても死ぬのは確定している。
こんな悲惨な事、あるだろうか。
「う...う...」
「ふぅ...」
ため息をついた。
「...ふっ...」
何かを決心したかのように笑う。
ゆっくりと顔を上げ、泣き疲れた顔を片手でこすった。
そうして、後ろを向き、壁に血まみれの指をあてた。
灰色の壁に、赤色の一個の丸い指の跡がつく。
ウイスタンは壁に何かを書くように指を動かしている。
まるで文字を書いているようだった。
虎視眈々と書く。
勿論とてもゆっくりに。
静かな空間で、1人ゆっくりと。
なぞり終わったのか指...手をまた傷口へ当てた。
「...」
ウイスタンはなぞった文字を自分で見る。
「...悪ふざけにもほどがあるかな...ハハ...」
微笑んでまた前を向きなおし、上を見始めた。
天井の光が、さっきよりも暗く見える。
視点がブレブレにもなってきた。
ウイスタンは上を向きながら考え事に浸っていた...
「...あの映画...あれ...そうだシンドバット...七回目の冒険...?いや航海か?」
「航海だビリー。俺も見た。あれポルノ映画だろ」
「馬鹿が。本当に見た?!最高だよな?!あの古臭い感じとシンドバットの色気が凄いよな!」
「まじか?俺はクソだと思ったよあの映画」
「なんだって...もう一回言ってみろ...」
「はっきり言ってゴミの中のゴミだ。怪物は魅力的だったがな。お前と女がくっついているくらいの気持ち悪かった」
周りからクスクスと笑い声が聞こえる。
「クソ野郎が。映画の良さが分からねえ奴は人間じゃねえぜ...いいかよく聞け。あの映画は凄いんだぞ」
ビリーは手をあげてジェスチャーしながら言い始めた。
「あの映画にはな、壮大なカタルシスが込められているんだ。勿論普通のじゃない。」
「冒険・ドキドキ・ハラハラ。エロはないが十分楽しめるんだ。完璧だ。マジでパーフェクト。」
(パーフェクトって完璧って意味だよな...)
カートが眉をひそめる。
「パリサ姫をもとの姿に戻すために冒険に出るんだが、これがとてつもなく危険な旅路」
「シンドバットは他人のためにそんなに頑張れるんだ。」
「まあセックス目的かもしれねえけどな。助けてヤるつもりだったのかもしれねえ。朝昼夜、一時間に一回くらいヤる気だったのかもな。」
「だが、それでも助けることには変わりない。シンドバッドは凄いんだ」
「ヤるのか?だったら見るぜ」
横からジェイが割り込む。
「エロはないって言っただろ話聞いてるのか?」
「話は聞いていたがただ単に気になっただけだ。カッカするな子供みたいでダサいぜ」
「黙れ!」
周りからはクスクスとずっと笑い声が聞こえる。
周りは静かだ。
誰も何もしゃべってない。
皆死体になって倒れているだけだ。
「...」
ウイスタンはまぶしい光に照らされながら、目を更に細める。
少し口を開けた表情から、微笑んで上を見つめる。
「...ハハ...」
優しい目つきで上を見上げている。
そしてゆっくりと、眠るように目を閉じた...
壁側から脱力し、すり落ちる。
背中から落ち、後ろの壁側がくっきり見えた。
そこには血で文字が書いてあった。
MY GANG STAR
落ちた勢いで下にあった血の海が飛び跳ねる。
あたりに血が飛び跳ねて、シャワーのようになる。
壁側にも飛んで、血があちこちについた。
そしてちょうどGとSの間に血が飛び跳ねた。
まるで・のように。
外は暗闇で覆われている
アジトの倉庫には冷たい空気が駆け回る。
倉庫の外では、コンビニのライトの光や、車の音でにぎやかな雰囲気だ。
灰色の壁は、どこか哀愁漂う雰囲気を作り、血に濡れている。
にぎやかで明るそうな組織は静かになっていた。
そして、もう誰も喋らなかった。
=MY GANG・STAR=




