第7話「影の招待状 ―ZERO、孤影の真実―」
夜――
寮の廊下。
誰もいない静寂の中、蒼の部屋の戸が**“コツン”**と叩かれた。
「……蒼。来い」
「……ZERO?」
戸を開けると、フードを被った黒影――ZEROが立っていた。
その瞳は、いつになく真剣だ。
「任務……か?」
「……いいや。“私事”。ついて来て」
戸惑いながらも、蒼は後を追う。
気がつけば、影のように歩む彼女に、足音ひとつ立てることもできず付いていくのがやっとだった。
◆
たどり着いたのは、忍者学院の裏山。
風の音さえ消える静寂の森。
ZEROは立ち止まり、フードを脱いだ。
「ここは……私が生まれた場所」
蒼が目を見張る。
漆黒の髪、猫耳フードを外した姿は――儚い少女のようでもあり、恐ろしい殺気を秘めた“刃”のようでもあった。
「……聞きたいことがある。君は“転生者”なんだろう?」
「……!」
蒼の表情が強張る。
「どうして、それを……!?」
ZEROは、静かに眼帯に手をかけた。
「私も――“前の記憶”を、少しだけ持ってる。
ただ、それがこの世界のものじゃないことだけは、分かってる」
彼女の眼帯が外される。
黄金のオッドアイが夜闇にきらめいた瞬間、空気が震えた。
「これが、私の“神目”」
「……神目?」
「見たものの“真実”を暴く。
君が“違う世界”から来た存在であることも、視えた」
蒼は、言葉を失っていた。
同じ“記憶の断片”を持つ存在。
もしかしたら、自分だけではないのかもしれない――
「だから、確かめたかった。
……私は“影”。誰の物語にも名を残さない存在。
でも――君となら、“運命を共有していい”って思った」
ふと、ZEROが差し出した手を、蒼は受け取った。
「私の刀の重み、背負ってくれるか」
「……ああ、今の俺なら、少しくらいは役に立てるかもな」
握られた手は、あたたかくて、でもどこか寂しかった。
同じ“記憶の迷子”たちが、いま、少しずつ手を繋ぎ始める。
その夜、蒼は初めて“影の涙”を見た気がした。