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魔法世界の回復役  作者: Se(セレン)
1章 勇者と魔法使い
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1-1 おしまい

 ──血の、感触。


 命を自らの手で潰す、その感触は強く、強く残る。


 気持ち悪い。気持ち悪い。どこまでも嫌なこの感覚に、えずく事すら許されない。


 何が、自分にこんな事をさせるのか。何で、自分がこんな事をしているのか。


 どれだけ嘆こうにも、殺戮の腕は止まらない。


 その腕が、脚が全てを消し去る一閃を放ち続ける。


 仲間の命を奪ったその手が。どこまでも、どこまでも。


 朦朧としていく意識の中、そんな光景を味わいながら、


 ──白い世界へとその意識を引きずり込まれる。





 ─────




 時は、ほんの少しばかり遡る。


 ここは、何の変哲もない、アスファルトの敷かれた道。それはここを何を考えるともなく歩く男、──“(よみ)”からしてみれば、『通学路』と言った所だ。

 甦は、一つの点を除けばいわば何処にでも居るようなただの高校生。大抵の事なら中の上程度にできる、オールラウンダー的な人物であった。

 その一つの点については後に説明をするとして──、

 甦は今、高校二年の秋。即ち高校生活のちょうど中盤である。だがしかし、甦にはこれまでこれといった青春感溢れるイベントや、これからの人生に大いに役立つ素晴らしい経験があった訳でも無かった。

 だからこそ、甦はこの高校生活の内に、永遠の思い出となる様な一大イベントを心の何処かで願っていた、のかも知れない。


 まぁ、それはすぐに叶うわけで。


 軽く口笛なんかを吹いていた甦の足元から、謎の光が姿を現す。

 それは、上を見上げればそこに在る太陽にも負けず劣らずの輝きを見せていた。

 そして何より大事なのは、その光の造り出す形状で、


 「魔方陣……」


 甦は、眼下の光景を自分の知識で簡潔に、正確に表す言葉を口から漏らした。

 それは間違いなく、二次元とかでよく見る『魔方陣』そのものであり、恐らくこういう物には、必ず何らか役割がある。甦を包むように輝きを増すこの魔方陣の役割は何か。

 それは甦には何となく察せる内容であり、


 「これは、イセカイショーカンってヤツだ。」


 数年前に棄ててきた筈の厨二心が、甦にそう訴えるのである。


 その言葉と同時に、光は急速に強まり、魔方陣はその役割を果たす。


 甦を飲み込んだ光は次第に薄れていき、その後通学路は、何事も無かったかの様にただの道へと戻っていく。


 ──甦を別の世界へと連れ出して。




 ─────




 ゆっくり、ゆっくりと、光は影を含んでいく。

 濁りのない白の世界は落ち着いていき、そこはぼんやりとでも、元いた通学路とは別の場所だということが判った。

 つまりここは、甦が元いた世界とは違うという可能性が高い。


 「来たぜ異世界……!」


 甦はそう声を震わせる。これからの生活に期待を膨らませ、素晴らしき世界を自由に生きる。そんな妄想をしていた。今までとは違う、第二の人生に希望を抱く。


 だから、そんなお花畑思考の甦の視界に映った光景に、甦は絶句した。


 ここは、美しい煉瓦造りの家々が並ぶ平和な街。豊かな木々の自然。そして甦を此処まで連れてきたであろう足下の魔方陣の側にいる召喚士らしき美少女。


 今、ここから始まる甦の異世界生活が──






 ──魔物達によって蹂躙されている光景。






 「……は?」


 甦が立ち尽くす眼前、傍らに倒れる少女。焼け焦げた家々。それで更にいるのは、剣を携えた大量の骸骨達。

 甦は全身が大きく震えるのを感じる。異世界開幕この絵面はどうかと思う。もう少し優しさのある召喚を求めていたのだが。

 崩れた瓦礫の合間、遠くで闘う人影が見える。そこら中に溢れかえる骸骨達に剣を振るうのは、この村の人間だろうか。男の剣撃も虚しく、多勢に囲まれた身体に何本もの刃が刺さる。


 遠目からでも大きく魅せ付けられた、宙を舞う赤色。甦の目に焼き付けられたその瞬間は、例え全く見も知らぬ人間であれど、甦に深い恐怖心を植え付けるだけの役割を果たしていた。


 恐怖に駆られた甦に、膝をつく暇さえ与えられない。

 甦のすぐ横には、骸骨がゆらりと歩み寄る姿があった。骸骨の錆び付いた剣は、しかし人一人簡単に殺せる程にはしっかりとしているように見える。


 迫ってくる骸骨。まだ一歩たりとも動けていない両足。甦の額に雫が浮かぶ。


 ──だが、甦の頭に一つの可能性が生まれる。


 それは──、


 「異世界召喚されたんだから、超すげぇ能力の一つや二つ貰ってておかしくねぇだろ!」


 つい先程までの甦なら、異世界転生など是が非でもしたいと考えていただろう。だが、今の光景を見た後では、とてもそうは思えない。

 しかし、これまで異世界に行ってみたかったのは、物語の主人公が大抵強大な力を得ていたからである。そしてそれは、召喚された甦にも例外なく与えられたものではないか、そういう考えである。

 故に、根拠のない謎の自信を持って眼前の敵に対峙する。


 「いくぜ骸骨……!」


 その声に応える様に、骸骨は剣を構える。


 「うおらぁぁぁぁ!!」


 よく言われる、魔法はイメージという話。本で得たファンタジー知識全開で骸骨を迎え撃つ。


 「火とか、出ろぉぉぉぉぉ!!」


 高らかに叫ぶ。叫びがどこまでも響いていく。その瞬間、甦と骸骨の間には──、




 凄まじく、微妙な空気が流れ込んだ。それこそ、虚ろで心無い骸骨が一瞬気まずそうに硬直する程に。


 「……あれ? おかしいなぁ?」


 頭をポリポリと掻きながら、一歩、また一歩とゆっくり後ろに下がる。

 そして、少し距離をとった所で骸骨が我に帰る。眼球の抜け落ちた睨みが甦に突き刺さった時、甦は意を決して、


 「全力、ダーーッシュゥゥ」


 思い切り、真後ろに向かってクラウチングスタートをかます。

 その美しいまでの逃げ様に、骸骨は反応を遅らせた。その間に、甦は走り抜けようとする。ちょっと人に見られていたら悶えて目も当てられない様な一連の流れを、脳内で払拭して走ろうとする。


 ところが、走り抜ける甦の視界の隅に立ち上がる影があった。

 それは──、


 「さっきかっ裂かれたおじさん!? 生きてたのか!」


 甦がこの世界に来た直後に見た、骸骨に串刺しにされた男だ。

 だが、その男の立ち姿は明らかに様子がおかしかった。今までこの男の姿を見た事があるわけではないが、それでも判る。

 ──これは、生きている人間の動きではない。様は、


 「殺されたらゾンビ化とか、どこのホラー映画か!? 逃げても敵増えてくだけですか?! そうですか!」


 つまりは、この骸骨達に殺されれば、自分も人を無慈悲に殺す魔物となる訳だ。

 ヤケクソ気味に叫びながら逃げる足を再開させる。いよいよもって本当に異世界召喚の絶望的スタートな雰囲気が確定してきていると思う。

 何の為に、何処に呼ばれて、何をすればいいのか全然解らない。とにかく、今は逃げるしかできないのだ。ただひたすらに逃げ続ける。


 崩れた家々をくぐり抜け、倒れた木々を飛び越え、つい先程まで生きていたであろう人間達の成れの果ての姿に言葉にならない何かを感じつつ、ひたすら走り続ける。


 しかし、悪い足場の中を走っていた甦は突然足を止める。


 「目の前に敵、真後ろに敵、左右にゃ高い瓦礫と木材の山、と。絶体絶命四面楚歌ですか。」


 初めてこんな四字熟語使った気がする。使い時が来たら来たで困るけども。

 そんな事を考えているうちにも、甦の周りは骸骨やここの村人であったであろう魔物達に完全に囲まれてしまっていた。

 これはもう、戦わなくては越えられない状況だ。だが、平凡な生活をし続けてきた、喧嘩もそうしていない人間が拳一つで剣を持った何体もの骸骨に勝てる筈も無い。

 この場で唯一の救いとなる物は、偶然にも甦の足元に落ちていた剣だ。美しく磨かれた、僅かに血のへばりつく剣。これを振るっていた人はどうなってしまったのか、なんて考えを巡らせている場合ではない。


 「こいつで……!」


 だが、剣があっても初めて持つものを闇雲に振った所でまだ勝ち目は薄い。

 なら、まず一体。一体の骸骨の骨の隙間にこの剣を突き刺す。人体を骨だけの状態で持った事など当然ないが、軽いと信じてそのまま剣を振る。骸骨は見た感じ引っ掛かる所は多い様に見える。だから、他の骸骨におもいっきりぶつけて、絡まらせる。絡まってくれたらいいな。


 「異世界補正で、俺の秘めたる剣技が発動すりゃぁ最高だけどな……!」


 どこまでも適当で運任せな作戦を立てていく。


 骨共を絡めたあとはどうすればいいのか。まだ皮と肉があるゾンビ達はどうする。見た感じ、人間だった頃は非戦闘員だったと思われる年寄りや女性が多い気がする。ゾンビ化が戦闘能力を底上げする様な作用を持っていなければ、甦でも勝てるかもしれない。……自分のしたシミュレーションに少々心は痛むが。

 これが想像通りに上手くいけば、逃げ道くらいなら作れるかも──






 そこで突然、甦の思考は遮られる。


 何故、何故、今は考えを止めている場合ではない。策略を考えないと──


 しかし、思考が止まった原因はすぐにはっきりと解った。






 ──あぁ、首が刎ねられてんのね。






 大きく回りながら地に近づく視界。


 考えに集中しすぎて後ろ首を取られるとは、なんたる様だ。


 回る外界の中で、次の獲物を探すかの様にこの場を離れる魔物達。


 首から上が落ち、頭だけと成り果てた姿で、痛みも何も感覚が無くなる世界を一人、眺めていた。


 その視界にも、ゆっくりと黒が覆われていく。


 もう、ほとんど見えない。もう命が落ちるであろう一瞬が、恐ろしく長く感じる。




 これから、あの人間性の欠片もない魔物となって、人を沢山殺めて行くのだろうか。




 駄目だ、意識が、遠退く。もう、すぐに、死ぬ。




 意識が朦朧とする。死がはっきりと見える。




 生が遠退いていく。死の底まで墜ちていく。生が死へと墜ちていく。緩やかに、真っ直ぐに。緩やかなのに、掴めない。掴まる壁が存在しない。藁にもすがる、なんて言葉もあるが、藁があるだけマシな状況なんじゃないか。生が墜ちていく死の世界には、掴めるものなど何も無い。ふわりふわりと、何もない虚無を掴みながら、死の底に、近付いて──。




 異世界より喚び出された青年、“甦”は今この瞬間、命を落とした。

 すでに語彙力が危険な物語、記念すべき一話です。

 モブおじと主人公が死んでしまいました。

 ここにあらすじか何かを書いていきます。


 それでは皆さん、おやすみなさい。

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