第210話 発想がエド・ゲインすぎる
「それで結局、ラストがここにいるのはどうして?」
「もちろん、彼女の特性が役に立つと思ったからさ」とアマンダが言う。「彼女なら、別世界人とも意思の疎通ができるかもしれない」
「あっ」
その発想はなかった。
確かにその通りかもしれない。
「だから通訳になってもらおうと思って」
「何が通訳だこの雌豚!」
「ラスト、だからそんな言葉遣いは」
「だってジロー様っ。こいつボクを殺そうとしたんですよっ!?」
「え?」
「人聞きの悪い」とアマンダが言う。「ただ検討しただけじゃないか」
「検討?」
「ほら、特別な力を持つ魔物の素材でアイテムを作ると、その特別な力が宿ることがあるだろう?」
「うん、まあ」
有名なところだとバクナワカバンとかだろう。
見た目よりも多くのものを収納できる、一流冒険者御用達の超高級品らしい。
俺みたいな冒険者ですらない貧乏人には無縁だが、名前くらいは聞いたことがある。
ちなみに春奈ちゃんに貰った俺のバックパックにも、似たような特性があるのだが、あれは一体なんの素材でできているのだろう?
「だから」とアマンダが続ける。「彼女の素材でアイテムを作れば、言語翻訳の力が宿ったりしないかなって」
「それはなんというか……」
発想がエド・ゲインすぎる。
ラストがしがみつく手に力を込めながら叫んだ。
「そんなこと考える時点で異常者なんだよっ」
俺も正直そう思ったけれど、アマンダは飄々とした態度で「逆だよ」と言った。
「残酷なことにもしっかりと目を向けて、その上で却下することにこそ、人の善性が現れるんだ。はなから考えようともしない人間は、いざって時に平気で残酷なことをするからね」
ふむ。
それはそれで一理あるような、ただの詭弁のような。
「ボクが死んだらダンジョンがなくなっちゃうからだろ!」
「もちろんそれも理由の一つではある」
「ほらぁ!」
「どういうこと?」
俺の質問に、アマンダが簡潔に答えてくれる。
「管理者を失うと、ダンジョンは崩壊するそうだよ」
「崩壊……」
物騒な言葉だ。
それがどんな事態を意味するのか、具体的なことまではわからないけれど。
でも驚きまではしない。
だからこそ『管理者』なのだろうと納得感すらある。
(じゃあ父さんはどうなんだろう?)
咄嗟に浮かんだのは、その疑問だった。
父の立場もラストに近いもののはずだ。
もし父が命を落としたら、この世界は崩壊してしまうのだろうか。
アマンダが父の首を刎ねようとした場面を思い出す。
(アマンダって、もう少しで世界を滅ぼすとこだったんじゃ……)
俺がじっと見つめていると、気づいたアマンダがニッコリと微笑み返してきた。
こちらの気も知らないで……。
いやアマンダの場合、俺が考えていることを察した上で、知らんぷりして微笑んでる可能性もある。
なんにしても、恐ろしい女性だ。
「なるほどね」
なんか色々な問題を棚上げするように俺は言う。
我ながら言葉の響きが白々しかった。
「それで実際のとこどうなの?」と背後のラストに尋ねる。「別世界の人たちとも意思の疎通はできる?」
「試したことはないですが、おそらく」
「へえ、すごい。ラストにそんな能力があったなんて」
「…………」
いつものラストなら俺がちょっとでも褒めると、『散歩』って言われた犬くらいはしゃぐのに、なぜか微妙そうな反応だった。
「どうかした?」
「別にボクの能力ってわけじゃなくて……」
「そうなの?」
言いづらそうにしているラストに、「何かあるなら遠慮せず話してほしい」と伝える。
それでも長いこと躊躇ってから、ラストはようやく口を開いた。
「言葉って本来、そういうものなんです。むしろジロー様たちが使う言葉が変というか、不完全というか……」
「ふむ」
なんかまたややこしい話が湧いて出てきた。
俺はしばらく考えるふりをしてから、
「なるほどねっ!」
と元気よく言った。




