第176話 ダンジョン工作キット、デミヒューマン
そうして俺は別世界のダンジョンに戻ってきたわけだけど……。
前回のようにダンジョンを探索することはできない。
あの怪我を負った男性があそこにいたということは、仲間たちもすでにかなり近くまできているはずなのだ。
ダンジョンは複雑で、階段も複数ある。
すれ違いでもしたら元も子もない。
だから俺は異形の神の神殿で、彼らがやってくるのを待った。
(それにしても……)
ショッピングモールの化石があったり、トヨタ車があったり、得体の知れないモンスターが跋扈していたり。
色々と新鮮で驚くことばかりだったけれど、ダンジョンの構造自体は、こちらの世界とほとんど変わらない。
いやほとんどどころか、全く一緒と言ってもいいくらいで……。
そのことが、なんだか気味悪かった。
(共通の雛形でもあるのかな?)
冗談めかすように考えてから、何も冗談になっていないことに気づく。
俺は工場で大量生産される『ダンジョン工作キット』を思い浮かべた。
(いや、もしかしたら世界だって……)
別の世界は、一体どんなところなのだろう。
小説なんかによくある中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界だったりするのだろうか。
月が三つあったり、大陸が空に浮かんでいたり、妖精や精霊がいたり、エルフやドワーフのようなデミヒューマンが存在したり。
それどころか物理法則が根本的に違う可能性もある。
『E=mc³』が成立しちゃうとか、摩擦をマジで考えないものとするとか。
(いやだとしたら別世界人の身体的特徴が、俺たちと一緒なのは変だよな……)
重力がほんの少し違ったり、地軸の傾きがちょっと違うだけで、生物は全く別の進化を遂げているはずだから。
だとしたら工場で大量生産される世界というのも、荒唐無稽な話じゃないかも知れない。
(……なんか嫌だな、それ)
世界はオーダーメイドであって欲しかった。
いやこの場合はハンドメイドか。
それがまさかのテンプレートだったとは。
まあ確定したわけじゃないけれど。
でも別世界人の姿や、規格化されたダンジョンの構造を考えると、あながち間違っていない気がする。
(……でも別の世界に、亜人がいる可能性はあるよな)
俺たちの世界にも、ネアンデルタール人やデニソワ人といった別の人類が存在したのだ。
俺たちの祖先が生存競争に勝利し、他の種族を根絶やしにしただけで。
もし現代にまでネアンデルタール人やデニソワ人が生き残っていれば、きっとデミヒューマンのような扱いをされていたと思う。
こちらの世界のように、他の人類を淘汰したりしていなかったら、多種多様な人類——エルフやドワーフではないだろうけれど、たくさんのデミヒューマンたちが、共存共栄しているかも知れない。
そう考えると、とても夢があって、素敵な世界だ。
(……あれ?)
そこまで考えて、俺はゾッとした。
どうして俺たちの世界は、そうなっていないのだろう?
犬にも猫にも、たくさんの種類がいる。
馬や亀や鳥や蜥蜴にだって——
なのに人類だけが、たったの一種類しかいないのだ。
パンダやコアラみたいに、最初から一種類だったわけじゃない。
これまでにたくさんの人類が誕生し——そしてホモサピエンスだけが生き延びた。
そのことを、今まで疑問に思ったことがなかったけれど。
(……なんかそれって、めちゃくちゃ変なことのような)
ダンジョンや別世界の存在を知った今、そこに誰かの意思が介在しているように感じて……。
いや誰も何も、それはきっと——
(ああ、頭がおかしくなりそう……)




