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第92話 違和感、不信感

 たまにアマンダさんのことがわからなくなる。

 いや、本音を言えばずっとだ。

 ずっとずっとずっと……。

 違和感があった。


 悪い人ではない。

 というか、めちゃくちゃいい人だと思う。


 器が大きく、感情の安定性が半端じゃない。

 常に鷹揚(おうよう)としていて、ネガティブなことが起きても、その状況を楽しめる強さがある。


(そのせいで、わかりづらかったりするんだけど……)


 逆にアンリなんかは超わかりやすい。

 嬉しかったら笑うし、嫌だったら怒るし、悲しかったら泣くし。


 それに比べてアマンダさんは、怒るところも泣くところも見たことがない。

 笑うことはよくあるけれど、いつもニコニコと上機嫌だから、どこまで本心なのかよくわからなかった。


 最初は、感情を隠しているのだと思っていた。

 その(ほが)らかな態度はカモフラージュだと。


 でも付き合っているうちにわかってきた。

 アマンダさんは感情を隠しているわけじゃなくて、本当にただただ安定しているのだ。

 無感情とか無表情とかって意味ではなく。


 同じ女として信じられなかった。

 この人には生理がないんじゃないかと疑ったほどだ。

 もちろん、そんなことはないだろうけど。


 単純に、アマンダさんの精神はホルモンバランスよりも強いのだ。

 まさに最強。


 それはきっと美点なんだと思う。

 でも私は未だに、アマンダさんがなにを好み、なにを嫌うのかをよく知らなかった。

 もしかしたらギンやキャスパー博士ですら知らないかもしれない。


 ただ唯一の例外が、お兄さんの存在だ。

 アマンダさんはUDを作ってしまうほどに、お兄さんに恋焦がれている。

 でもそれがまた、よくわからなくなる原因になっていた。


(なんでそんなにお兄さんが好きなのに、私たちの背中を押したりするんだろう……)


 世界一の女の、余裕の表れだろうか?

 あるいは優越感を求めているのかもしれない。


 よくある話だ。

 モテる異性を落とし、恋敵に対して優越感を抱く。

 その悦楽(えつらく)のためだけに、異性を取っ替え引っ替えする人だっているくらいだ。


(……まあ、ソースは昔読んだ少女漫画だけど)


 それとも私の恋愛偏差値が低すぎるだけだろうか。

 大人の女性なら、ああいう立ち回りは普通なのかもしれない。

 いやでもそれだって、二人が付き合っているならわかるんだけど、付き合ってもいない段階からあの余裕の見せ方は、やっぱり違和感があった。


(もしかして私たちに隠れて付き合ってたり……)


 大学のサークルとか、社内恋愛のような、閉じた人間関係ではよくある話だ。

 ソースはやはり少女漫画だが。


 一瞬、血の気が引いたものの、それもさすがにないと思う。

 アマンダさんはともかく、お兄さんは隠れて付き合う、なんて器用なことができるタイプではなかった。


 アンリだけなら、まだわかるのだ。

 身内なんだから仲良くしておこう、と考えるのは。

 ついでにその親友の私も、というのだって。


 でもじゃあギンはどうなる。

 そもそもギンは、「ジローのおこぼれをもらえる」という条件でUDに引き抜かれたのだ。

 その時点で私には理解不能だった。


 なんだ、おこぼれって。

 好きな人を独占したい。

 そう考えるのが自然じゃないのか。


 ギンの気持ちはまだわかる。

 アマンダさんという強大な恋敵と戦うくらいなら、味方になっておこぼれをもらえた方がいい。

 それはギン自身が言っていたことだ。


「ジローのそばに居られるなら、なんでもいい」


 と。

 でもアマンダさんはどうなる。

 自他ともに認める世界一の女が、そんな弱腰な考えをするものだろうか。

 むしろなにがなんでも、お兄さんを独り占めにしようと考えるんじゃないか。


(それとも、お兄さんのためなのかな……?)


 ジローファーストな人だ。

 お兄さんが喜ぶならと、自主的にジローハーレムを作ろうとしているのかもしれない。

 自らが、ハーレム要員の一人に成り下がることすら良しとして……。


 いやでも、そんな男にとってただただ都合がいいだけの女なんて、本当に実在するものだろうか。

 アマンダさんくらい、お兄さんに惚れ込んでいたら、ワンチャン……。


(いやいやいや、ないないない。ウェブ小説じゃあるまいし)


 やっぱり、アマンダさんがわからなくなってしまう。


 ずっとずっとずっと……。

 見て見ぬふりをしてきた小さな違和感。

 それらが寄り集まって、私の中で不信感にまで育つ。


「騒ぎが収まったみたいだね」


 アマンダさんの言葉に、私ははっと我に返った。


「今のうちに、テストしておこうか」


 彼女のいうテストとは、新型ドローンの実地試験だ。

 特殊ダンジョンの通路で、ドローンを問題なく運用できるか試すのだ。

 それが終われば、今度こそ本番だ。

 命懸けの……。


「そう、ですね」


 無理に笑顔を作る。

 頭を軽く振ってから、私は立ち上がった。


(こんな時に、不信感なんて抱いてる場合じゃないよね……)


 でも切り替えようとしても、なかなかできなかった。

 こんな状況だからこそ、だ。

 大切な人の命がかかっているのだから。

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― 新着の感想 ―
やはり頼りになる天使春奈
累計100話到達おめでとナス!
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