足りない経験
物語が作者の経験から生み出されるものだとしたら、自分にはどうしても書けないものがある。
仲間と団結して一つの目標を目指す——そんな物語だ。
息子が中学生になり、吹奏楽部に入った。
小学生で太宰治に傾倒して『僕は人間がわからないんだ!』とか言っている厨二病初期症状の少年は、吹奏楽部でパーカッションを任され、日々練習に励んでいる。
先日、コンクールがあった。
しかし県大会への切符は手に入らなかった。部員が少なく、入ったばかりの1年生まで駆り出されるほどなのだから、厳しい戦いだったのだろう。
引退を控えた三年生は帰りのバスで泣いていたらしい。
入部直後からあれよあれよとコンクールに出場させられた息子も、そんな先輩の姿を見て思うところがあったらしい。神妙な表情で自分の演奏を振り返っていた。
幕田は部活を頑張った経験がない。
友人に誘われて入りたくもない卓球部に入り、ほとんど練習に参加する事なく、楽な方に楽な方に生きてきた。
一致団結してひとつの目標を目指す——そんな美談は無縁だと切り捨てて、中高時代の幕田は『くだらねぇ……』と斜に構えていた。
自分が『孤独の頂』に立ったつもりでいた。
その頂とやらが、落とし穴の底に積み上げられた小高い砂の山に過ぎないとも知らずに。
今思い返すと後悔しかない。
誰かと共に、何かを全うする。
そんな青春を送れていたら、俺の人生はもっと豊かだったのかもしれない。
甲子園で汗を流す若者を眺める目に、羨望と嫉妬の砂粒が混じる——そんなしみったれたオヤジにはならなかったのかもしれない。
「一人で弾くピアノと違って、俺の失敗が、みんなの演奏を台無しにしちゃう……それがすごく不安なんだ」
そんな不安を呟く息子に、実感を伴わない想像力だけでこさえたアドバイスを投げかける。
俺は、大勢の努力を踏み躙るリスクを背負って、何かを成そうとした事があるだろうか。
その結果、誰かと分かち合う『よろこび』や『かなしみ』を、味わった事があるだろうか。
大人ってのは、独りだ。
俺のよろこびは、本質的に俺だけのものでしかない。成功も失敗も、俺だけの責任の上に成り立っている。
利害が伴わない『団結』の味。
経験。
それはきっと、あの頃しか味わえなかった。
俺は息子の話に耳を傾ける。
砂漠のトカゲが夜露を舐め取るみたいに、二度と得られない経験を心に染み込ませる。
落ち込んでるとかではなく、最近なんとなく思ってる事を書きました。
勉強に部活に(そして運動はほどほどに)頑張っている息子が眩しいです。辛い事もいっぱいあると思いますが、頑張って欲しいですね。
そして思いや悩みを父に相談してください。
父は真剣に考え、アドバイスをして……そしてちょっとだけ、自分の小説を潤そうと思います(^◇^;)




