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【Breidablik】魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。  作者: 桜良 壽ノ丞
番外編【Reunion】―あの夏の日、英雄に憧れた者たちへ―
302/312

Reunion-08

 


 管理所で事情を話し、ギリングへと連絡を入れた数時間後。


 ぼく達は早朝にも関わらず見送りに来てくれたゴウンさんへと手を振りながら、船で港を後にした。


 出航する船が岸を離れ、他の乗客は甲板から客室へと戻っていく。そんな中、港に走り込んでくる1人の姿に気が付いた。こちらに向かって手を振り、大声で呼びかけている。


「あー行っちゃったか! おーい! ディズくん! アンナちゃーん!」


 もしかして……。


「あ! あれってテディさんよね?」


「ほんとだ、駆け付けてくれたんだ!」


「テディさーん!」


「すまない! ギリギリ間に合わなかった! みんな元気でー! 次は必ず、一緒に飲んで昔話でもしよう!」


 きっとリディカさんが連絡してくれたんだ。大きく手を振ってくれるテディさんの姿も、桟橋と共に見えなくなる。


 ぼく達が導き出した案を話した時、ゼスタさん達はどう反応するんだろう。まさか、もう試したなんて事はないよね。


 脅かせたかった事もあるけど、正直なところ「もう試したよ」を今聞きたくないがために、管理所への報告も詳しい内容は伏せていた。





 * * * * * * * * *





「英雄パーティー、勢揃いみたいね」


「ビアンカさんとシャルナクさんは、管理所の定例の対策会議の後で来るんだってさ」


「ゼスタさんとイヴァンくんは、もうシークさんの実家に泊まってるみたいね」


「2人とも先週からいるらしいぜ。気が早いよな」


 ゼスタさんとイヴァンくんは、ぼく達が連絡を入れた時にはカインズにいた。恐らくは、それからすぐに鉄道に乗ってリベラに向かったはずだ。


 何故それを知っているかって? 駅員をしているクレスタのお父さんが、首都ヴィエスの駅で見かけたからだ。


「ミラが魔力を込めたこの魔石のピアス。それを離れたところに置いて、もう1つのピアスを着けた時。間違いないと確信したわ」


「あの時は感動したな。魔具で確認したら、ミラが身に着けた何も込めていない方のピアスへと魔力が流れてた」


「きっと聖剣バルドルも喜ぶよね、シークさんが目覚めるのをずっと待ってるんだから」


 船、汽車、そしてリベラからは徒歩。ぼく達は疲れなんて感じる暇もなくギリングの町を出て、南の門からアスタ村方面へと向かう。


 淡い青空にはうっすらとたなびく雲、街道の脇には絨毯のように生い茂った草原。長閑過ぎて、アークドラゴンの封印があるなんてとても思えない。


 ぼく達4人はそんな街道を誇らしげに歩いていた。


 森に差し掛かる所で街道を逸れ、南西へと歩いていけば、アークドラゴンの封印と聖剣バルドルがある。


 ぼくがギリングに滞在している時は、毎日必ず訪れていた場所。聖剣バルドルも、ただ1度だけぼくに話しかけてくれた事がある。


『シークが動いていないかい? 動いた気がしたんだ、封印を覆ったシートの中を覗いてくれないかい』


 そう言ったバルドルは、シークさんが復活できると分かっていたというよりは、復活して欲しいと願っていたようだった。


「多分、聖剣バルドルはそこまでの確証がないんだと思う」


「俺達が絶対いけるって言ってやらねえとな」


「ちょっと、ちょっと待って!」


 自信満々で歩いていると、ミラが南を指さして目を丸くした。何気なく視線を向けた時、何故ミラが驚いたのかがすぐに分かった。


「煙が……封印のある方角だ!」


「もしかして誰かが強引に封印を破ろうとしてるのかも、一度止めてもらわなきゃ!」


 草原から黒煙が大げさな程もくもくと立ち上っている。覆っていたシートは5年ものあいだ風雨に曝されてボロボロになっていたけど、もしかしたら、それが落雷か何かで燃えているのかもしれない。


 ぼく達は慌てて走り寄る。


 そこにはあったはずのものが……なかった。


 シートどころの話じゃない。何もかもなかったんだ。


「封印が、ない」


「ちょっと、じゃあ何が燃えてるの!? 誰か、誰かいるの!?」


「まさか、シークさんが力尽きて封印が解けて……アークドラゴンが復活した? 大変だ!」


 さっきまで希望に満ち溢れていたぼく達の胸は一気に熱を失い、背筋が凍った。目の前の黒煙、失われた封印。それが何を意味するのか、考えられる選択肢はそう多くない。


 周囲の焦げた草、まだ見える炎、何時間も経ってはいない。


 慌てて目を凝らしたけど、アスタ村から煙が立ち上っているようには見えないし、街道をギリングへと逃げる馬車もなかった。


「ちょっと待って、ねえ、見て!」


 アンナが炎の中心を見つめながら震えている。それをよく観察すると、ぼく達は更に驚いた。


「骨……これ大きいぞ? 尻尾、もしかしてこれ、アークドラゴンじゃないのか!?」


 焼けた尻尾とみられる大きな骨。この周辺で、この場所で、こんな大きさのモンスターの死骸は他に考えられない。


「こっち、聖剣バルドルを立てていた台座よ! 炎で焦げたのかしら。でもディズがせっせと備えていたポーションはなくなってる」


「封印が消えて、アークドラゴンが燃えていて……まさかシークさんが封印を解いて、アークドラゴンに止めを刺したんじゃないの!?」


「ギリングに戻るよりも早い、アスタ村に急ごう!」


「解決方法……あーもう! あんなに悩んだのに、そんなのどうでもいいからぶん投げたい気分!」


 何が起こっているのか。そうであって欲しいと思う予想が当たっている可能性は高い。


 やっと見つけた解決策が無駄になった事もどうでもいい。


 でも、こんなタイミングでまさかと思う気持ちもある。ぼく達は走り始めてからアスタ村のすぐ手前まで、互いに一言も話さなかった。





 * * * * * * * * *





 何度も訪れたアスタ村。


 チッキーくんともテュールとも、何度も話をした。その時だってシークさんの事があったから楽しくワイワイやった訳じゃない。


 でも、今日ほど鬼気迫った表情でアスタ村を目指したことはなかった。


「ハァ、ハァ、シークさんの家まで、もう少し……」


「もう、無理、私……一応魔法使い。こんなに走れないわ」


「俺も、限界。ディズ、ミラ、先に行ってくれ、伝えてくれ」


 ミラとクレスタが遅れ始め、門の手前で立ち止まった。もう村の門までは数百メーテ、急いで知らせたいのに。


「ディズ! あんた先に行って! バテた2人は私が送っていく!」


「アンナ……分かった! 有難う!」


 アンナがぼくを先に行かせてくれる。このまま走りきって、ゼスタさんとイヴァンくんに早く状況を伝えないといけない。


 息が苦しい、足がもつれる。でも呼吸が出来ないなら後でするから、足が動かないなら後で倒れるから、今は走らせてくれ……!


 ぼくは不躾なほどの足音を立ててシークさんの家のステップを駆け上がり、扉を叩いた。


 家の中からは、恐らくチッキーくんのものだと思われる盛大な泣き声が漏れている。悪い予感……最悪の結末。どうかそうではありませんように。


「ごめんください! 誰かいらっしゃいますか! ゼスタさん、イヴァンくん、チッキーくん!」


 心を落ち着かせることが出来ず、多分強く叩き過ぎたんだと思う。しばらくすると警戒されるようにゆっくりと扉が開く。


 家の中が見えないくらいの隙間を開け、返事と共に顔を覗かせたのはゼスタさんだった。


「……ああ、ディズか!」


「ハァ、ハァ、ゼスタさん、大変です、封印が……」


 ゼスタさんはぼくを嬉しそうに、いや、待っていたかのように笑顔を作る。けど、その目には涙。


 奥から大げさな程響くのはチッキーくんが泣く声だ。エプロンの裾を持ち上げて顔を覆うシークさんのお母さんの姿もある。


「ディズ……さん?」


「イヴァンくん、ゼスタさん、まさか」


「話は後だ、こっちへ、早く!」


 どういう状況なんだろうか。ひょっとして瀕死のシークさんが担ぎ込まれた? 


 もう長くないってこと? 


 ぼくは不安な気持ちのまま、ゼスタさんに言われるがまま、開けられたままのシークさんの部屋の扉の中へと誘導された。


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