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ガラクタ箱の雫  作者: アオノクロ
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芯喜一転

「死ねよお前!」

「いっつ、やなこった!」

 殴り掛かって来た見上を左手の甲で顔を打つ。怯んだ隙に左足で相手の腹に蹴りを入れる。

「あっ!大人しくしろテメェ!」

 右腕と襟を押さえていた佐々川が、俺を無理やり引きずり倒そうと力を込める。させまいと踏ん張り、左手で殴ろうとするが力も入らず空振りばかりする。

「カッ、ハッ……よくも……腹っ、蹴りやがって」

 そうこうしている間に、腹を抱えてうずくまっていた見上が起き上がった。右手でお腹を抱え、宙に上げた左手には風が集まっている。

「ぶっ飛べ!」

 手の平がこちらに向けられた瞬間、突風に襲われた。片手で顔を守るが予想より強く、バランスを崩し仰け反って佐々川と一緒に転んでしまう。

「あぁ!?なんで何も使わねぇんだ!」

「やっぱり俺たちを見下してたんだろ好喜!」

 二人が叫ぶ。

「嫌いなものを使いたくないだけ」

 答えに納得しないのか顔を歪める。だけどこっちもこれ以上言えない。今日になってようやくでた答えだが、あくまで出ただけ。

 


「好喜は魔法が使えてええのぅ、わしも使ってみたかったわい」

 じいちゃんの事を考えると、いつもこの言葉が出てくる。自分を膝に乗せながら、卓上にあるバラバラになった時計を組み立てながら話をしてくれた。

「なぁ好喜、じいちゃんが子供の頃は魔法なんて絵物語の話じゃった。これからはそんな話も無くなってしまうのかのぅ」

 カカカッと笑うじいちゃんは、とても楽しそうに話していた。

「ふむ、そろそろご飯にしようか。お母さんのところに行こうか、ほれ」

 道具を置き、膝から下ろすために自分を抱きかかえるとそのまま運んでくれた。

 台所で料理をしている母さんに歩けるんだから歩かせて下さいと怒られ、そんな様子を見て父さんが笑う。

 好喜が膝から降りてくれんでのぅと言い訳をするじいちゃんが、また母さんに怒られる。

 ご飯を食べたらまた、じいちゃんの部屋に行って作業の様子を見ながら話を聞く。

 そんなじいちゃんがとてもかっこよくて、憧れていて、世界で一番好きだった。




 携帯のアラームで起きる。

 まだ布団の中にいたい誘惑が体にあるが、未だ覚醒しない頭のまま半分無意識で布団をはねのけ、体を起こす。

 そのままカーテンを開けると日の光が眩しく、思わず目を手のひらで隠した。分かりきったことなのに毎朝同じことをやってしまう。

 寝間着を脱ぎ、クローゼットから取り出した制服に着替える。


「お前何が言いたいの?わけワカンねぇんだけど」 

「あぁ、何が言ってやるよ」

 言いたくなかった、だって好きな人の好きなものだから。その人さえも否定してしまいそうで、嫌われそうで怖かったから。

 だから。

「言ってやるよ」

 ごめんな、じいちゃん。

「俺は魔法なんて嫌いだ」

 一度関を切って流れた、気持ちの濁流は止められない。

「魔法なんて理屈が無く、明確に個人の差でしか表せないものなんかくだらない。

 どうでもいい。

 いっそ消えてしまえばいい」

 周りにいるやつの顔がおかしい。惚けて間抜けな馬鹿馬鹿しい顔が。なんだか笑える。

「魔法も魔法ごときに踊らされるお前達もつまらない。

 くだらない」

 ははっ

 思わず笑みがこぼれた。重い鎧を脱ぎ捨てたかのように体が軽く、それでいてしっかりと足が地を踏みしめる。

 ようやく、自分が俺だったことを思い出せた。

「……お前さ、さっきから聞いてたら何?俺たちバカにしてんの?」

 ようやく浅木が口を開いた。目も口も笑っていない。俺とは正反対に。

「バカはバカだろ?」

 その一言で皆が動き出した。

 摑みかかる、風を起こす、火を焚く、それより速く、俺は一番近くにいた浅木に殴りかかった。

「って!」

 思っていたより拳が痛い。こんな殴り合いの喧嘩なんてしたことが無い俺は拳の握り方すら知らない。多対一なんて喧嘩なら平面世界でしか勝てない、そんなことも知らずに売ってしまった。言わず、関わらず、争わずなんて生き方の弊害がこんなところで出てしまった。やはり俺はバカだった。

 だが、運がいいことにそんなバカしかここにはいない。

「い、いいぃぃぃぃって!」

「あ、浅木!」

 猿山リーダーの浅木を最初に殴ったせいで、周りは驚いて動けなくなった。魔法なんてものを使いながら、一方的に踏みつけることしか出来なかった奴らは反撃に弱かった。

「終わりかよ?」

「うる、っウルセェ!」

 右手の痛みを我慢しながら煽ると、鼻血を出しながらボス猿は手下を率いて向かってきた。




「ってことがあった」

「何してるの!?本当にっ!?」

 その日の夜、制服がボロボロの、血だらけ、傷だらけで帰ってきた俺を見て母さんは絶叫した。今まで大人しく静かだった息子が、自分から喧嘩を売って怪我をして帰ってきた、が理由ならしょうがないとも俺でも思う。

 意外にも、手当ての途中で家に帰ってきた父さんも含めて二人はそこまで、怒らなかった。

「いつもおじいちゃんと遊ぶとき、少し目を離すとすぐに変なものを触ったり、何処かに行ったりするでしょ。もの静かなだけで行動力はあったのよ。昔から」

 中学生になって落ち着いたかと思ってたけど、そうでも無かったのね、と母さんからは呆れられた。

 父さんに至っては

「……勝ったのか」

「……どうだろ、俺が一番やられたけど、全員二回は殴ったはず」

「それくらい出来たのならいい」

 久々に頭を撫でられた。汗と血で汚れてた髪をクシャクシャにされた。父さんの手の平が昔より小さく感じたけど、褒められて照れ臭かった。

 その後、お湯で傷口がしみながらも風呂に入り、晩飯を食べながら溜め込んだことを話した。

 魔法が嫌いだったこと。

 じいちゃんが好きだったから言い出せなかったこと。

 高校は工業系、理系の方に進みたいこと。

 将来は何かを創る、もしくは発明するなどの仕事をしたいということ

 テーブルの皿にある唐揚げ食べながら、合間合間にポツリポツリと零すように。

 テレビはつけず、食事の音、時折り吹く風の音、そして俺の言葉だけが食卓にあった。

 食べ終わると同時に話し終えた俺に二人は

「おじいちゃん大好きだったものね」

「……やりたいことをしろ。それをするためには、を自分で考えながら」

 ちゃんと理解してもらっているのか不安だったが親はすごいのだと、なんとなく思った。

 おやすみと言い、自室に行く。電気もつけず、カーテンも閉めずにベッドに寝転ぶ。

 窓から見える夜空は星一つ見えず、代わりに近くの街灯が光っていた。

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