夜明けの作戦任務と知恵ある妖魔
大気が音障壁に肉薄したその刹那、それはもはや捉えどころのない風などではなく、生々しく圧縮された半透明の高圧白霧を孕む衝撃波の壁へと変貌していた。
轟――!
重苦しいソニックブームが背後で弾け、目視できるほどのドーナツ状のベイパーコーンを虚空に刻む。
ルルカの全身は、まるで超巨大マスドライバーから強制射出された幾何学的な徹甲弾そのものとなり、夜明け前の湿り気を含んだ冷たい朝靄の中を一筋の真空トンネルとなって貫いていった。
彼女の下半身は、すでに人の輪郭を完全に削ぎ落としていた。
反関節を描いて後方へ鋭く引き絞られた犬科の後肢は、ピアノ線のように硬質な銀灰色の短毛に覆われ、引き締まったアキレス腱と大腿筋は巻き上げ機のワイヤーめいて張り詰めている。
それは純粋に、狂気的な加速度を支えるためだけに特化された殺戮のフレームだ。
そして、本来なら柔らかく愛らしい肉球が備わっているはずの分厚い足裏が踏み締めているのは、実体のある大地ではなく、極限まで圧縮されて妖しい紫光を放つ二塊の狂暴な霊火だった――
つま先が微かに虚空を蹴るたび、紫の炎は小型核爆発めいた環状の衝撃波を後方へ炸裂させ、悲鳴のような大気圧の受力爆鳴を力任せに響かせていた。
さらに熾烈な推進力は、彼女の背後から噴え上がっている。
古いオーバーコートの背裏は、狂暴な運動エネルギーの濁流に耐えかねてとうに引き裂かれていた。ルルカの青白い肩甲骨は外側へ展開し、まるで骨装甲そのものの排気スラスターへと変異している。
真っ直ぐで、白熱し、純白の芯に深紫の輪郭を纏わせた二条の幾何学的プラズマ火炎が、両肩の後方から猛烈な勢いで吹き荒れていた。
それは生ぬるい光などではない。極寒の虚空に数十メートルにも及ぶ刺すような航跡を引き、周囲の大気を一瞬で歪ませる、文字通りの高圧ジェット噴流だった。
耳朶を打つ人間側の音のすべて――風切り音も、警報の絶叫も、街の目覚めの息吹すらも――瞬きの間に置き去りにされ、天地には心臓の魔核が過負荷で唸る耳障りな高周波ノイズと、眼球の角膜を削るような凄まじい風圧だけが支配していた。
視界に映る景色は、斑な光の奔流となって後ろへと引き伸ばされていく。
そびえ立つバイオフィルタータワー、複雑に交差する高架リニアレール、足元に積み木のように密集する灰色の旧式団地群。そのどれひとつとして、彼女の琥珀色の瞳に像を結ぶことすら叶わない。
ルルカは上体を極限まで低く沈め、顎を胸元の骨質装甲板に擦りつけるように固定していた。長く豊かな銀灰色の毛尾は暴風の中で一本の矢のように真っ直ぐ引き伸ばされ、荒れ狂う気流の中で唯一無二の姿勢制御ジャイロとして超高頻度の微調整を繰り返す。
その先端に備わる、人の手爪めいた不気味な白骨刃が風を裂き、死神の羽ばたきめいた甲高い風鳴りを響かせていた。
紫火狂暴、骨刃撕天。
躊躇は欠片もなかった。少女は冷酷なまでの超低空姿勢で最後の通信鉄塔の切っ先を掠め、人間の屋根のすぐ上を瞬きの一間に駆け抜ける深紫の流星と化して、焦げたオゾンの臭気と衝撃波の余震を撒き散らしながら、血肉の袋小路と化した遥かな放水路の深淵へと一直線に突っ込んでいった。
超音速で切り裂かれた暴風の奥深く、危機の訪れを知らせたのは、冷たく型通りの人造シグナルによる予防などではない。
それは脊髄の深淵、妖狼王族の血脈の奥深くに刻み込まれた原初の野生の直覚だった。
背の銀灰色の毛並みが刹那の間に針となって総毛立ち、心臓の魔核が吐き気を催すほど汚らわしい異物の接近を感知して、霜を踏むような冷え切った痛みを走らせる。
超音速で吹き飛ばされた朝霧の裂け目に、凝固しかけた胃酸と腐肉の濃厚な臭気が、前触れもなくねじ込まれてきた。
思考に一瞬の猶予すら与えぬまま、肉体は無数の死線で培われた反射に従って動いた。ルルカの左肩甲骨のスラスターが唐突に鎮火し、右足裏の幽紫の霊火が力学を無視して側方直角へ爆発する。
華奢な肢体は逆関節の後肢を軸に、内臓を引き千切らんばかりの勢いで空中に真横の錐揉み反転を描いた――
ジジジッ――!
焼け付くような悪臭を放つ、マグマめいて粘りつく黄色い液体が、彼女の右頬の銀髪をかすめて虚空を撃ち抜いていった。散った数本の髪は燃える暇すらなく、その熱気に触れた瞬間に焦げた青煙となって霧散する。
酸液に穿たれた大気は白濁した酸の霧を噴き上げ、数百メートル下方にあった廃鉄塔の山形鋼は、飛沫が数滴掠めただけで耳障りな溶解音を立てて黒ずみ、煮え立つ黄色い膿の溜まりへと崩れ落ちた。
ルルカは反転の最中に紫の炎を絞り、豊かな尾を空中で鋭く振るって、先端の骨刃で気流を切り裂き無理やり慣性を殺すと、宙に静止して振り返った。
その刹那、琥珀色の瞳に飛び込んできたのは、生物学の範疇を完全に逸脱した二塊の奇形肉塊だった。
左手を追尾してきた個体は、辛うじて成人の男の輪郭を保ちながらも、下水道に数ヶ月放置された水死体のように肥大しきっていた。
皮膚は半透明の蝋のような黄色を帯び、皮下の血管は深緑色の侵蝕菌糸で埋め尽くされて、無数の蠢くヒルめいて表皮の下で痙攣を繰り返している。
顔面は油脂と皮下浮腫に押し潰されて崩れ、瞼の隙間からは濁った黄色い粘液が垂れ流され、鼻腔と口腔は唇を失ったただ一つの爛れた孔へと融合していた。
先ほどの高圧酸液は、その咽喉の奥からせり出した、無数の逆生肉歯に覆われた食道腫瘍から吐き出されたものだった。
そして最もおぞましいのは、その背に生えた、力学構造を嘲笑うかのような二枚の肉翅だった――それは鳥や蝙蝠の翼などでは断じてなく、奇形化した肩甲骨と発育不全の死胎の手足が継ぎ接ぎされた異形の肉弁であり、破れた腸膜のように薄く、充血した毛細血管がびっしりと張り巡らされていた。
その肉翅は毎秒百回を超える異常な頻度で激しく痙攣し、羽ばたくたびに背中の爛れた創口から黄色いリンパ液と腐肉の欠片を雨のように撒き散らし、蝿の羽音めいた濁った羽鳴りを立てて、重く腐臭漂う肉嚢を空中に繋ぎ止めていた。
そしてその右手に並んで浮遊するのは、純粋に人間の四肢だけで編み上げられた悪夢の具現だった。
直径三メートルに達するその巨大な肉塊には皮膚が存在せず、無数の異なる年齢、異なる性別の「人間の腕」だけで構成されている。
その腕毛や指先には各々の神経反射がまだ残っているらしく、爪が剥がれ落ちたもの、肉が削げて白骨を晒したもの、錆びた安物の結婚指輪を嵌めたままのものまでが、互いに絡み合い、関節を逆さまに折り曲げ、隣り合う手首を締め上げ合っていた。
肉球全体がそれら数百本の手腕による無秩序な掻き毟り、痙攣、蠢きによって回転しながら前進し、指の隙間からは半固形のピンク色の脂肪漿が絶え間なく押し潰し出されている。
そして、そのおぞましい腕の渦巻のど真ん中に、巨大な、水瓶ほどもある濁った眼球がひとつ、生々しく埋め込まれていた。
瞼を持たぬその眼球は蜘蛛の巣状の黒い血走りに覆われ、角膜の表面には鼻汁のような粘膜がべったりと張り付いている。
ルルカが視線を向けた瞬間、その巨眼の瞳孔がきつく絞られ、瞳の周囲に生えた数十本の青紫色の小さな手が狂信者のように神経質な痙攣を起こしながら虹膜を愛撫し、血の混じった涙液を絞り出して眼角を潤した。
二体の怪異から放たれる、死んだ野鼠と発酵した胆汁、そして防腐剤が混ざり合った濃密な腐敗臭が、風に乗ってルルカの顔面へ叩きつけられる。
耳先が微かに震え、魔核が低く唸りを上げた。妖狼の視界において、周囲の天地は鉛色の静寂へと沈み込み、ただこの二塊の腐肉の胎内から立ち昇る濁りきった妖気の脈動だけが鮮明に浮かび上がっている。
方円一キロの圏内に、第三の穢れの悪意はなく、雲海に潜む伏兵の兆候もない。空域は澄んでいる。排除すべきは、目の前にある乱雑に継ぎ接ぎされた二つの汚物だけだ。
ルルカの瞳から、人間としての最後の温度が完全に抜け落ちた。足裏と手首に一度は収められていた幽紫の霊火が、爪の隙間と肉球の深部から音もなく再び滲み出し、胸の前で交差した純白の巨爪が、冷徹な骨格の噛み合わせの音を鋭く鳴らした。
大気が須臾の間に引き裂かれる。
肉球の中央に座す水瓶大の濁った眼球の周囲で、数十本の青紫色をした奇形の手が狂ったように血走った虹膜を押し広げた。鼓膜を貫かんばかりの耳障りな高周波の絶叫とともに、瞳孔の深淵が一転して刺すような白光へと凝縮する――
ドォッ!
晨霧を一瞬にして気化させる、丸太ほどもある赤白色の高熱光線が猛然と放たれた。光条の縁には狂暴なイオン放電が絡みつき、高空の気圧そのものがその熱波によって歪み軋む。
ほぼ同時に、左側で痙攣する肉翅を羽ばたかせる水死体が、反吐をぶちまけるような濁った嘔吐音を立てた。
喉の奥に密集する逆生肉歯の肉腫が激しく波打ち、扇状に広がる黄色く濁った強酸の幕が高圧でぶちまけられ、上方への退路を完全に塞ぎ止めた。
上と下、光線と酸液。逃れ得ぬ交差射角が、中空を焼却と融解の立体的な死の網へと仕立て上げる。
高空において、ルルカはこの状況に過度な恐怖を覚えることはなかった。似たような経験なら幾度となく潜り抜けてきたし、彼女の目には眼前の二匹の怪物ですらまだ愛嬌がある部類に映っていた。
これよりも遥かに悍ましいものなど、いくらでも見てきたのだから。
彼女は正面から受け止める愚を犯さず、外側へ展開した肩甲骨の装甲スラスターと後肢の手首が同時に高周波の唸りを上げた。
少女の身体は巨大な斥力場に包まれたかの如く、空中で無重量めいた極速の振り子機動――逆位相のローリング・ウィーブを描いた。
赤白い射線が頭頂部わずか数センチを掠めた瞬間、ルルカの左手首と右足裏の霊火がミリ秒単位のタイムラグで時間差爆発を起こす。
彼女の全身は空中にあり得ぬほど滑らかな折線を描き、小柄な身体は高速自転する白いシャトルのように、煮えたぎる光線の外縁ギリギリをすり抜けた。
高熱がコートの肩口を焼き焦がして炭化させ、微かな異臭を放ったが、その瞬間の隙間を突いて、視界を埋め尽くす強酸の飛沫が頭上から雪崩れ込んできた。
退路はない。
ルルカの琥珀色の瞳孔が鋭く収縮し、両手首の巨爪を胸元で固く交差させ、全身の筋肉が一瞬にして鋼のように引き絞られた。
肩甲骨の後方推進火炎が唐突に全停止し、逆関節の妖狼の後肢が鋭く引きつけられ、銀灰色の毛尾の短毛が風圧に張り付く――
挟撃のわずかな間隙を突き、彼女が選択したのは垂直急降下、空中で身を翻す跳水の動作による回避だった。
翼を折られながらも数十倍の重力加速度で標的へ飛びかかる隼のように、頭部から真下を向いた姿勢で、彼女は真っ逆さまに虚空へと身を投げ出した。
ジュッ――!
酸の豪雨が彼女の背中を紙一重で掠め去る。狂風に巻き上げられた数滴の飛沫がコートの裾に触れ、強靭な布地を瞬く間に溶かして、悪臭を放つ煙とともに黒い穴を穿った。
そして同時に、あの巨大な眼球はまるで生体レーダーのように痙攣しながら回転し、赤白い高熱光線を空中で力任せに薙ぎ払ってきた。天を衝く光の大剣となって、落下する彼女の軌跡を追尾し、雲海を両断しながら斜めに切り下ろされていく。
落下する突風の渦中で、ルルカは双眸をかっと見開いた。
低空の雲海に叩きつけられる寸前、後肢の肉球から紫の炎が爆発的に噴流を上げた。
墨のように濃密な二筋の幽紫の霊火が落下慣性を力ずくで相殺し、その反作用を捉えた少女は、中空で真横九十度へ弾丸のように跳躍する。
空中で身を翻し、長くしなやかな骨刃が気流の中に冷たい幾何学の弧を描いて、腋下わずか数センチを平らに薙ぎ払う熱線を紙一重で見切った。
大気を焦がすオゾン臭と、胃を抉るような酸の悪臭が肺腑の奥でせめぎ合う。
極限まで抑圧された、屈辱的な閉塞感。
彼女は完全なる近接格闘特化型の強襲個体だ。その真価は超音速の変則機動で敵の死角へ食い込み、純白の巨爪と尾先の骨刃で至近距離から関節を断ち切り、中枢神経を外科手術のように解剖することにある。
遠距離攻撃の手段を持たないわけではなかったが、敵の全容を掴みきれていない現段階で、己の不得手な間合いに頼る気にはなれなかった。
掌中に紫の炎を凝縮して放つ高エネルギービームなど、彼女にとってはあまりに単調な攻撃手段に過ぎない。
今のルルカには、二体がどれほどの機動力を持っているのか、あるいは何か致命的な攻撃手段を懐に隠し持っているのかが判別できていなかった。
そのため、軽率に攻撃を仕掛けて罠に嵌まるようなことがあれば、待っている結末は高熱で蒸発するか、強酸で融解させられるかの二つに一つだった。
しかし眼前の二匹は、一方が射線による絶対的な遠距離制圧を敷き、もう一方が広角の腐食液幕で直線的な突進を完全に阻んでいた。
肩甲骨の推進炎を煽って幾何学的な強襲を仕掛けようとするたび、合金を融解させる光柱か、全身を膿汁に変える酸の飛沫がその軌道を先回りして封殺する。
暴風吹き荒れる天空で、ルルカは半径百メートルほどの危険空域に力ずくで釘付けにされていた。
彼女は二本の死の交差線の上を跳ね回る紫の雷霆の如く、左へ右へ、沈み、浮上を繰り返す。
そのすべての回避はコンパスで測ったように精緻を極めていたが、その凍てついた琥珀色の双眸の深淵には、死線を掻い潜るたびに、波紋ひとつない純粋な殺意の闇が静かに澱のように沈殿していった。
空中での交差火力は、もはや紙一枚の隙間すら許さぬ領域に達していた。
赤白い射線が再び斜め上方から薙ぎ払われ、推進を絞らざるを得なくなった瞬間、肉翅を羽ばたかせる水死体の喉が激しく波打ち、黄色く濁った泡を引く強酸の奔流が雨となって頭上へ叩きつけられた。
上方と水平方向への退路を完全に塞がれたルルカの眼に、一切の躊躇はなかった。両手の巨爪を胸の前で固く噛み合わせると、彼女は重力と気圧の引き摺る力にその身を完全に委ねた――
風が耳元で悲鳴を上げ、微かに柑橘の香りを残した銀灰色の長髪が衝撃波の中で白銀の幕となって引きちぎられる。
眼下に広がる荒廃したコンクリートの大地まで残り数十メートルに迫ったその刹那、後肢の逆関節が張り詰め、足裏の肉球から紫の霊火が平行する二枚のエアクッションとなって炸裂し、落下エネルギーを強引に圧し殺した。
地表わずか二メートルの低空で水平姿勢へと力ずくで移行した瞬間、背の肩甲骨スラスターが再び轟然と火を噴いた!
ルルカは地を這う紫の雷光と化し、ひび割れたアスファルト、錆びた廃車両、へし折れた電柱を掠めながら、超低空を猛スピードで滑空していった。後方に巻き起こるダウンウォッシュは、路面の瓦礫やガラス片を瞬時に粉塵へと粉砕する。
だが、空の狩人たちは障害物に身を隠す隙すら与えなかった。
数百メートル上空に浮遊する肉球の怪異、その中央に座す濁った巨眼の周囲で、数十本の青紫色をした手が狂乱めいた速度で内側へ引き絞られた。
眼球の表面に巨大な熱の揺らめきは生じず、代わりに放たれたのは、針のように鋭く凝縮された、ごく短いパルス状のレーザーだった。
シュッ――!
その極細の高熱ビームはルルカの身体を狙ったものではなく、彼女の滑空軌道を完璧に先読みし、前方わずか三メートルに横たわる廃棄タンクローリーの残骸へと正確無比に突き刺さった。
轟音とともに、残留していた化学廃液と金属の破片が一瞬にして爆炎と黒煙の渦となって低空を呑み込んだ。
突如として出現した爆風と障害物を前に、ルルカは右側へと無理やり身を捻り、足裏の紫火を微細に吹かして路面を削るような直角の変態機動を強いられた。
そのわずかな回避の乱れが、致命の綻びとなった。
ジュゥゥゥッ――!
それは照射が継続していることを告げる、耳を劈く嘶きだった。パルス弾の着弾を見届けた巨眼の瞳孔が瞬時に見開かれ、丸太ほどもある白熱の光柱が猛然と吹き荒れた!
今度は単なる掃射ではない。彼女の影に喰らいついて離さない「持続照射」へと変異し、天から振り下ろされた断頭斧の如く、ルルカの滑空軌跡を執拗に追い縋りながら大地を容赦なく引き裂いていく。
コンクリートは超高温によって白煙を噴く溶岩へとドロドロに溶け崩れ、地表は光の刃に追われて次々と破裂していった。
さらに同時に、肉翅の水死体も高空からの降下慣性を乗せ、彼女の変針の死角へ向けて粘りつく強酸の滝を左前方から吐き落とし、最後の逃走角を完全に塗り潰した。
左手には骨肉を溶かす猛毒の酸瀑、背後には大気すら発火させ影のように追尾する高熱の光柱。
二匹の連携は、数千回の模擬戦を重ねた重装猟殺小隊めいて寸分の狂いもなかった。
袋小路へと追い詰められたルルカの、琥珀色の瞳の奥に動揺の色は微塵もなかった。そこにあるのは、凍てついた完全な死寂だけだ。
ヴン――――ッ!
心臓に埋まる妖狼の魔核が、この瞬間、低く狂暴な共鳴音を響かせた。彼女はもはや推進エネルギーを惜しまなかった。
外側へ展開した両肩の骨装甲スラスターが限界を超えて過負荷を叫び、両手首、両足裏、そして長い毛尾の先端に位置する幾何学骨刃の節々に至るまで、底知れぬ深紫の霊火が一斉に吹き荒れた。
防御のためではない。ただの推力でもない。己自身を弾頭として爆縮させるかのような、極限過負荷のバーストダッシュ。
刹那、猛り狂う紫の劫火が半径数十メートルの空間を丸ごと呑み干し、熱線が火海へと突き刺さった時には、その場にはソニックブームとプラズマの噴流によって抉られた環状の衝撃波だけが残されていた。
上空に浮かぶ怪異の巨眼と、羽ばたく男の感知網から、地を這っていたあの小さな影は、完全に、影も形もなく蒸発していた。
不可視化したのではない。視神経が像を結ぶ限界速度を置き去りにした、純然たる超加速だった。
立ち並ぶ半壊ビルの外壁を、鋭利な深紫の軌跡が力学を嘲笑う幾何学的角度で天へと駆け上がっていく。
吹き荒れる突風がルルカの焦げた裾を激しく引き裂く中、少女は垂直の鉛直壁を足場にして超高速で駆け抜け、大気の中に幾重もの白い残像を置き去りにしていた。
彼女は視線を微かに伏せ、目標を見失って中空で動きを止め、互いに距離を取って防空態勢を敷き直そうとする二塊の歪な肉を見下ろした。
渇いた唇が微かに震え、その喉の奥から、嘲笑の色すら交えぬ極めて平坦な呟きが零れ落ちた。
「……見事」
それは頂点に立つ近接兵器としての、敵の戦術精度に対する純粋な是認だった。
腐った皮肉と奇形の四肢をぶら下げたあの汚物どもは、本能だけで喰らいつく知能なき妖鬼などでは断じてない。
未来位置を読み、退路を殺し、微小な隙から確実な死の連撃を組み立てる術を弁えている――生体兵器を効率的に狩るためだけに調教された、冷徹な戦術知性をその胎内に飼い慣らしていた。




