第4章:議場で踊る、ゆえに進まず⑧
「これより、配置を発表する」
参謀総長ヘルマン・フォン・シュトラウセン大将は、ローゼンベルク王城の玉座の間において、厳かながらも明瞭に響く声で命令を下達した。
「第2軍団、第3軍団および第5軍団によって編成される南部方面軍。その総司令官に第2軍団長トーマス・フォン・ブラウエン中将、副司令官に第3軍団長シグムント・フォン・ヴァイス少将を任命する。ならびに、主力となる同方面軍の兵站総監に、第5軍団長セバスティアン・フォン・ハルトマン少将を充てる」
「「「はっ!!」」」
3名の軍団長が一斉に応えた。
彼らは対グラウエンシュタイン主戦線を担う主力であり、最も苛烈な戦場に投入されることが確実な部隊であった。
「第4軍団および第6軍団によって編成される西部方面軍。その総司令官に第4軍団長コンラート・ライナー中将、副司令官に第6軍団長マルティン・フォン・ザールマルク少将を任命する」
「「はっ!!」」
二人の軍団長が続いた。
彼らはエルデンライヒを包囲し、多方向から攻撃を仕掛けると予測される正統帝国軍の西方侵攻に対処する戦力であり、戦線の側面を守る要としての任を負っていた。
「第1軍団によって編成された東部方面軍。その総司令官にレオポルド・フォン・アンスバッハ大将を任命する。カルノヴァ統治行政局隷下の“カルノヴァ解放戦線”を指揮下に置き、所定の作戦行動を遂行せよ」
「はっ!誠心誠意、務めさせていただきます!」
先のカルノヴァ分割戦争で名を馳せたアンスバッハは、グラウエンシュタインから最も警戒される将の一人であった。彼が駐在するカルノヴァ方面には、すでに現地で徴集された兵によるグラウエンシュタイン隷下の前衛部隊が配置されている。
それに対抗するのが、カルノヴァ現地民および旧共和国軍人によって編成された部隊『カルノヴァ解放戦線』である。彼らは、グラウエンシュタインの非道な占領支配から祖国を解放することを信念として掲げ、占領下にあるカルノヴァ領の奪取と解放を任務とする攻勢戦力であった。
「首都ベルデン防衛軍の司令官に、近衛師団長アドルフ・フォン・ローゼンタール大将を任命する。ならびに、軍務大臣アルブレヒト・アルテンブルク予備役少将を戦時召集により軍務へ復帰させ、副司令官の任に就かせる」
「「はっ!!」」
彼らは、保有戦力の大半を最前線に投入する作戦上の都合から、首都防衛という最終防衛線を担うことになった。近衛師団を中核とし、動員された予備戦力を後方に温存することで、不測の事態に即応可能な態勢を整える――それが彼らに課せられた最大の任務であった。
そして――
「中央軍第101機動戦闘団は、参謀本部および元帥閣下直属の指揮下に置く。任意の戦場へ適宜投入される即応戦力とする。戦闘団長には、戦時特例により昇進したジークハルト・フォルラート中佐を任命する。その機動力と展開戦闘能力をもって、参謀本部の命令に従事せよ」
「了解!!」
この時を待っていた――
そう語るかのように、ジークハルトの瞳が鋭く輝いた。狼を思わせる野性的で危険な眼光が、その内に秘めた戦闘意欲を雄弁に物語っている。彼らは再び、戦場を縦横無尽に駆ける特記戦力として、その力を遺憾なく発揮することになる。
「以上をもって、全軍への命令下達を完了しました。元帥閣下」
ヘルマンの報告を受け、元帥号を賜った人物が静かに口を開いた。
「我々はこれより、このエルデンライヒ大同盟の栄光と繁栄のため、その前に立ちはだかる不倶戴天の敵と相対する。だが、恐れる必要はない。諸君らは鍛え抜かれた精兵であり、その実力を、私が誰よりも知っている」
一拍置き、彼は言い切った。
「ゆえに、神ではなく、私自身が保証しよう。我々は――勝利する!」
「「「おおおお!!」」」
エルデンライヒ大同盟の盟主、ヴィルヘルム・フォン・ローゼンベルクが檄を放った瞬間、玉座の間を埋め尽くした者たちは一斉に雄叫びを上げた。
それは雷鳴のようでもあり、狼たちの遠吠えのようでもあった。
ともあれ、そこに集った者たちは、グラウエンシュタインの下に結集した軍勢とは明らかに異なる、強固な意志と闘志に満ちていた。
「始めるぞ、我々の時代を!歴史を終わらせる第一歩を!」
彼らは白金色の“皇帝”の下に集った戦士たち、歴史の創造者たちであった。
大陸暦1274年3月20日
『行軍の月』と呼ばれるこの時期、ローゼンベルクを中核とするエルデンライヒ大同盟軍と、グラウエンシュタイン主体の正統帝国軍との軍事的衝突が、ついに幕を開けた。
これこそが、騎士王戦争以来初となる大規模戦争――すなわち『大戦』の一つであり、後世の歴史書において、次の名で記されることになる。
『帝国盟主大戦』
その“帝国”が何を指すのか。
それは、勝者となった“帝国”が誰であったかを示す名に他ならない。




