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第19話 力の解放! とスマホの擬人化(再起動)

「あぁ、約束ッ!?」


 聖杖が微笑み、それに俺も返した次の瞬間、俺の体に凄まじい何かが流れ込んできた。

 指先も、足先も、頭のてっぺんまで、得体のしれない何かが俺の体の中を流れている。

 俺は、ほんのり気持ちいいくらいの感覚に戸惑いながら聖杖に問う。


「一体何が……?」

『あひゅ、しゅごい……』


 しかし聖杖はアヘっており、何かを聞き出せる状態ではない。マジでめんどくさいなぁ!

 取り敢えず凄い顔をしてる聖杖から目を離し、自分の中に流れてきているそれに意識を集中させる。

 そして、俺はあることに気づいた。


「増えてる?」


 俺の中を巡る何かの量がどんどん増えていっているのだ。

 それはさながら風船の中に水を注いでいるかの如く、俺の体を内側から圧迫していく。

 今はまだ僅かな苦しさを覚える程度だが、これが続けば息も出来なくなってしまうだろう。

 

『ぎゃー! ご主人! どうしたなのよ! また違うビッチに抱き着かれてるなのよ!』


 どうしたら中身を抜き出せるのか、と思考を巡らせているといつの間に再起動を果たしたのか、スマホのスーが叫んだ。

 だが、スーに俺の苦しさは伝わってないらしく、俺に抱き着いてる聖杖のほうに意識を持っていかれていた。


 俺は徐々に息苦しくなっていく中、ダメもとでズボンのポケットにいるスーに改善案を聞いてみる。


「スー、今聖杖から、力みたいなものが、流れてきて、苦しいんだが」


 俺の苦しそうな声音に思案顔になったスーは数秒考えた後、


『……んー、ご主人がマジなのよ。分かったなの、調べてみるなのよ!』


 そう言って、むむむ~、と検索し始めた。

 スーはスマホが擬人化した存在なので、そういった芸当も出来るのだ。たまに勝手に動画を再生して通信制限にかかったりするけどな。

 スーは目を瞑って唸りながら検索ワードを呟く。


『【力】【溢れる】【抑える】、で検索なのよ!』

「…………非常に、不安、なんだが」

『出たなのよ! え~っと、ちゅうにびょう? だから治せない? ……大変なのよ!』


 そんなことを言って焦ったような顔をするスー。

 くそ、こんな時までポンコツキャラしやがって……お前が腹黒で本当は有能だってこと知ってんだぞ…………

 そんな思いを込めてスーをねめつけると、


『……でも、それから力が流れてくるなら、それを手放せばいいかもなのよ?』

「さいしょから、いえよ!」


 俺は、コテンと首を傾げて思いついていたであろう解決策を言うスーに文句を言った。いや、こんな単純明快な解決策を思いつかなかった俺が悪かったんですけどね!

 自分のアホさ加減に落ち込みながら、俺はまだ抱き着いてアヘっている聖杖へと視線を移す。


「もう、離れてくれ!」


 そしてそう叫びながら聖杖の両肩に手をかけ、突き放すように押し出した。


『やだやだやだー!』


 しかし聖杖はびくともせず、むしろ俺と密着するように抱き着いてきた。

 あんな細腕のどこにゴリラみたいな力があるんだよ!


「ぐっ!」


 聖杖との密着具合が増したせいか、俺に流れ込んでくる力の量が更に増える。

 息苦しさが増し、とうとう言葉も出せなくなった。

 もう穴という穴から漏れ出そうなほど限界が近い俺は、どうにかして上手くこの力を放出しようと考える。

 そして、不意に副所長と特殊部隊の人たちが戦っていた場面が思い返された。


「ぐっ、オラァ!」


 我慢の限界だった俺はほとんど無意識に手のひらを前に突き出し、そこから力を放った。

 俺の中ではちきれんばかりに渦巻いていた力の奔流は出口を見つけ、そこに殺到し、出ていく。


「ふぅ」


 息苦しさが緩和され、一息つく。

 しかし、その次の瞬間、身を震わすほどの轟音と、はっきりと感じるほどの揺れが起こった。

 一体何が……と前を見てみると――


「……マジか」


 ――部屋の奥にあった一面がなくなっており、更に奥の、その更に奥の壁までなくなっていた。

 壁の一面は横三十mほどはあったはずだし、穴を見てみればそんな壁が十枚以上なくなっている。

 一番奥を見てみれば、非常に遠くではあるが、外の景色らしきものまで見えた。


「――――くん! 化人くん!」

「うぉお!?」


 呆然と目の前の現実を受け入れられずにいると、俺の肩を叩きながら俺の名を呼ぶ存在に気が付いた。

 驚きとともに振り返ってみると、そこには額に大粒の汗を浮かべる所長の姿があった。


「今、君は混乱しているだろう。だが、まずはそれを手放すことから始めよう」


 所長はおそらく内心焦りつつも表面には出さず、俺にしっかりと言葉を伝えるようにゆっくり、落ち着いた声音でそういった。

 俺は所長のその表面だけでも落ち着いた様子に落ち着かされ、しっかりと頷いた。

 体の中は一度力を放出したおかげか、大分穏やかになっている。今の内にどうにか離したいが……


「どうした? 杖を離してくれ」

「すいません、剥がれないんです。引っ張ってください」


 所長は俺が聖杖を抱きしめているように見えているのだろうか。俺の目には擬人化した状態でしか見えないからわからない。

 だが、とりあえず離すことが出来ないことを伝えると、所長は眉を寄せながらも、聖杖に手を伸ばしてきた。

 しかし、副所長と同じように薄い光の膜が展開され、所長の手が阻まれる。

 今回は弾き飛ばされることはなかったものの、ガラスに触れているように全く中に入ることが出来ていない。


 どうしたらいいか……と頭を回していると、不意に阿保みたいな考えが頭に浮かんだ。

 俺は疲れているのだろう。さっきから変なことばかり頭に浮かぶ。

 しかしそんなアホなことでもやらないよりはマシ、かもしれない。

 俺はどうにかして聖杖に触れようとしている所長から顔を背けると、俺の肩に頭を乗せる聖杖へと顔を向けた。


「ふぅー」


 そして耳に吐息をかけてやる。


『あひぃ……』


 すると聖杖は腰砕けになり、ぐでっと俺にもたれかかってきた。結構重い。

 それと同時に所長の手を阻んでいた光の膜は消え去り、所長は聖杖の腰をがっしりと掴んだ。


「引っ張るぞ」

「はい!」


 返事をしつつ、俺は後ろ方向へと思いっきり体を反らせる。

 所長も全力で引っ張っているのか、物凄い力が俺に加わる。

 だが、聖杖が離れる様子は全くない。ビクともしてない。


 全然力が足りない……と思っていると背中が柔らかい何かに包まれた。


「お父さん、もっと力いれてもいいわよ!」

「わかった!」


 その声は天宮さんだった。水の塊から抜け出せたらしい。

 天宮さんは俺の背中にくっつくと、聖杖と俺の間に手を回し、思いっきり引っ張った。

 それと同時に、全力だと思っていた所長の力がより増した。


「うごごごごご」

「頑張って! 男の子でしょ!」

「今は、男女、平等の、世界」

「屁理屈言うなぁ!」


 身を引き裂かれるかのような痛みに、背中の感触を味わう余裕もない。

 天宮さんは俺の反論が気にくわなかったのか、更に強く引っ張った。お腹が圧迫されて、そろそろ中身が出そう。


『ぐぐぐっ、離れたくない……』


 正直こんな脳まで筋肉で出来ているような考えで離せるのか、と若干不安だったが聖杖の様子を見るに正解らしい。

 徐々に俺と体が離れていく聖杖。アヘっていた顔は今や力が入りすぎて凄まじいことになっている。聖女(笑)。


「んぐぐっ!」

『ぬぅー!』

「がんばれー」


 しかし完全に引きはがすには少々力が足りないらしい。

 あと少しで剥がせそうなのに、聖杖はかなり粘る。

 なお、俺はというと体の感覚がなくなってきて若干余裕が出てきている。今も耳元で聞こえる雨宮さんの鼻息で興奮している。


 これ以上動きそうにないという膠着状態。いや、天宮さんたちは人間のため、時間が経過すれば体力が尽きてしまうのでこちらの方が不利だ。

 これは万事休すか……?

 そう思っていると、俺のズボンからヤジが飛んだ。


『おばさんが若い子にしがみつくなんて見苦しいなのよー!』

『だ、誰がおばさ、あっ!』


 スーのヤジに反応した聖杖。

 彼女は意識をスーに持っていかれ、一瞬力が緩んでしまった。

 そしてその瞬間、俺から引き離された。


「っと、あぶない」

「うごっ!」


 そして俺の背中にくっついていた天宮さんは俺と聖杖が離れるや否や、さっと飛びのき転倒を防いだ。俺は案の定尻を思いっきり打った。明日に残る痛さだ。

 また、所長はというと、すぐさま聖杖を足元に放り投げ、その上から近くにあった座布団をかぶせて拘束していた。


 俺はひとまず終わった安心感からか、後ろで俺を見下ろす天宮さんに軽口を言った。


「いって~、俺を支えてくれてもよかったのに」

「あんな状態で興奮していた変態には触りたくなかったからね」


 だが返ってきたのは冷たい目と呆れた声音。バレテーラ。

 とりあえず誤魔化すように笑った俺は天宮さんから目を外し、周りを見渡す。


 部屋の端に転がっている特殊部隊の人たち。誰も死んでなさそうだ。

 少し離れたところで寝ている副所長とモブF、壁を吹き飛ばした何かに巻き込まれていなかったらしい。

 聖杖を座布団で包んでいる所長、なんかシュールだ。


 ともあれ、取り返しのつかない被害はなく、上手くことは運んだようだ。

 俺は尻の痛みを気にしながらも、晴れ晴れとした気持ちで口を開いた。


「…………はぁ、大変だったな~」

「とにかく着替えたいわ。もうびちょびちょ」

「…………」

「振り向いたら殴るわよ」


 変な事件に巻き込まれたんだからもう少し役得あってもいいじゃん……

 そんなことを考えながら、俺は所長の後始末を見ているのだった。




『うぅ……ちゃんと我慢していたのに……』

「できてねぇよ」


 座布団の中から漏れ聞こえた聖杖の独り言に思わず返してしまった。

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