第2章 『子爵家三女は訓練する!』
あれから数分後、父さんと兄たちが訓練所で待っていた。
「マジで大丈夫なのか、ルシェ?」
ロッソ兄さんが心配そうに聞いてくる。
「ロッソ兄様、大丈夫ですよ。危なくなる前に言いますから。」
「………まあ、ルシェが考えなしに危ないことをするはずないしな。」
「アレックス兄さんは相変わらずルシェに甘いなぁ~?」
「う………うるさいぞロッソ。」
父さんから木刀をもらう。
「よし、まずは私とロッソの動き方から学ぶんだぞ。」
父さんとロッソ兄さんが構える。
「……ハッ!!」
ロッソ兄さんが上段に構え、斬りかかる。
「フンッ!!」
父さんがそれを上手く弾き、斬りかかる。
ロッソ兄さんは父さんの斬撃を受け流し、少し距離をとった。
「せいッ!!」
父さんが畳みかける。
ロッソ兄さんの手を打ち、木刀を落とす。
「…………と、まぁこんな感じだ。」
「…………………構えは上段と正眼………だけですか?」
「ん?………そもそも構えは二つしかないだろう?」
か、かなり剣術は衰退しているようだな………。
「じゃあ、ルシェが最初に戦うのは………アレックスだな。」
「よろしくお願いします!アレックス兄様!」
「あぁ、よろしく。危ないと思ったら言うようにな?」
アレックス兄さんに向かって木刀を構える。
「…………お、おいルシェ。本当にその構えでいいのか……?」
「はい。」
今、俺がとっている構えは『居合』だ。
「………分かった。行くぞ!!」
アレックス兄さんが上段の構えでくる。
「……フッ!!」
抜刀する勢いでアレックス兄さんの脇を狙う。そして寸止め。
「「「……………………。」」」
三人とも固まってしまった。
「え………えっと…………?」
「す、凄い構えだな……。剣を抜くと同時に斬るのか……。」
「は……はい。」
「うむ……………今日中に何を教えるか考えるから、今日は終わりだ。」
「は…………はぁ。」
父さんと兄さんたちは凄い悩みながら屋敷に戻っていった。
「……………………俺も戻るか。」
兄さんたちを追い、屋敷に戻った………。
そして、問題が発生した。
屋敷に戻ると母のセリアが………。
「あら、ルシェも訓練してきたのね?ちゃんとお風呂入りなさいよ?」
………と言われた。
「ま、まさか………女に転生するとこういう問題があるのか……。」
そう、元が男だと風呂に入る時に目のやり場に困る。
「…………はあ、こうなれば仕方ない。自棄だ!!」
とりあえず服を脱ぎ、風呂場に入る。
「…………。」
なるべく鏡を見ないように髪を洗い、風呂に浸かる。
「……髪が長いと洗いづらいな…………。」
しかし………なんか切ってしまうのは勿体ない気がする………。
「さぁ!風呂入るか!!」
「!!?」
脱衣所からアレックス兄さんとロッソ兄さんの声が聞こえる。
(ヤバい、隠れないと!!)
風呂のお湯を出している石像の後ろに隠れる。
ついでに気配隠蔽魔法を使う。
しばらくすると、兄さんたちが入ったきた。
(嗚呼、もう少し目立つところに服置いておけば良かった。)
あまりステルス魔法は使いたくない。魔力消費激しいから……。
「……ルシェに負けた………。」
「兄さん落ち込みすぎだぜ!」
「あぁ、小さい頃に俺が守ってやるって約束したのに………。」
「………さすがにルシェも覚えてないんじゃないか………?」
「たとえ、あれがルシェ4歳の時でも、約束は約束だ。」
アレックス兄さんががっくり項垂れる。
(………アレックス兄さん………。)
「まぁ…………分かってたさ。俺よりルシェが才能に溢れてる。」
「………………。」
ロッソ兄さんまで黙り込んでしまった。
「…………なんで俺はこんなに弱いんだろうな……。」
「……そんなことないッ!!」
石像の裏で声を張り上げる。
「「!!?」」
二人が驚いた顔をする。
「あ!………ごめんなさい。……隠れてました。」
「え!?ルシェ、いたのか!?あわわわわっ!?」
ロッソ兄さんが慌てふためく。
「……アレックス兄さん。」
「……な、なんだ?ルシェ。」
「アレックス兄さんは強いよ。」
「……………。」
「俺との約束、守ろうとしてた。兄さんの心はちゃんと強いよ。」
「………………………ありがとう。ルシェ。それが何よりも励みになるよ。」
………………そして。
「ところでルシェ。絶対に石像の裏から出ないでくれよ?」
「………………あ。」
「………つか、ルシェって俺っ娘?」
ロッソ兄さんが変なこと言いやがった。
「…………………やっちまった……。この口調………。」
「……………もしかして内緒だった?」
「……今さら『兄様』って呼んでも笑わずにいられるか?兄さんたち。」
「ハハッ!!………確かに無理だ。」
そんな会話をしつつ、兄さんたちと風呂を楽しんだ。
…………もちろん俺が身体洗う時は後ろ向いてもらったが。