番外編 秘密の休日2
(え?)
レオンスはグラスを持ったシャルロットの手に手を重ねる。
「おまえの肌は、ひんやりとして気持ちいい」
兄は熱があるから、シャルロットの肌を冷たく感じるのだろう。
「横にきて、添い寝してくれる?」
「お兄様……」
シャルロットは動揺した。レオンスは十七歳で、シャルロットは十五歳。
いくら兄妹といっても、年頃だし、同じ寝台で横になるのはどうだろう?
しかもレオンスは上半身裸だ。
「嫌?」
シャルロットは首を左右に振る。
「……嫌とかではなくて、この部屋に使用人が入ってきたら、誤解されますわ……」
「心配ないよ。オレが呼ぶまで部屋には立ち入らないよう命じてある。一人でゆっくり休むつもりだったから」
やはりシャルロットは、静かに療養したいレオンスの邪魔をしてしまったのかもしれなかった。
「お兄様、申し訳ありません。わたくし、お邪魔をしてしまい……。わたくしがいれば、お疲れになりますわ……」
「そんなことはない、おまえは使用人とは違う。大事な妹だ。おまえがいれば元気になるよ」
兄は熱を出し、心細さを感じて家族の愛情を求めているのだろうか。シャルロットは少し添い寝するだけなら、と思い頷いた。
「……では……わかりました……」
レオンスは唇に弧を描いた。
「ありがとう。じゃあドレスを脱いで」
「──え? ぬ、脱ぐ?」
「そのままだとドレスに皺がつく。この部屋から出たとき、それこそおかしく思われるよ」
「で、ですが……!」
脱ぐなんて無理だとシャルロットが呆然とすると、兄は吐息をついた。
「オレは今、熱でぼうっとしていて、視界がぼやけて周りがよく見えていないんだ。だから気にすることはない。恥ずかしいなら、さっきの着替えのシャツを着るといい」
シャルロットは、しばし躊躇したが首肯した。ドレスを脱いでもシャツを着るのなら。
「は、はい……。それではお兄様のシャツをお借りして、向こうで着替えてまいりますわ……」
「ああ」
シャルロットは続き部屋に行ってドレスを脱いだ。今日は簡素なドレスだったので着替えやすかった。レオンスのシャツを着ると、兄に包まれているような気がして、不思議な感じがした。シャツは大きく、膝上くらいまで長さがある。
寝台に戻ると、レオンスに手を取られた。
「おいで」
羽根布団の中に引きずり込まれ、抱きしめられてシャルロットは目が回った。体温が高く、逞しい兄の身体を感じ、頬が火照る。
「お兄様……」
「しばらくこうしていて。おまえがいるとすごく落ち着く」
シャルロットは兄のためなら、と羞恥をこらえた。抱擁され、自分は落ち着くどころではなかったが……。
至近距離のレオンスの睫は長い。ブルーブラックの髪に、ヒヤシンス色の瞳、高い鼻梁、甘やかな唇。我が兄ながら、非常に端整な顔立ちの美少年である。
熱で気だるげな様子も色っぽかった。
(いけない……)
そんなことを思っている場合ではないのに。
「好きだよ」
ふいに耳元でレオンスが囁いてきた。
寝台で、抱きしめられながら言われると混乱する。
シャルロットも家族として兄が好きだけれど、どぎまぎしてしまう。
耳朶にレオンスの唇が触れ、シャルロットが紅潮すれば、兄は再度言った。
「シャルロットが好きだ」
熱い身体に抱かれ、シャルロットはのぼせたようになり、このままだとおかしくなりそうだと思った。
「お兄様、やっぱりわたくし……」
身じろいで寝台から出ようとしたが、強く拘束されていて叶わない。
「おまえが好きだ」
そう言われ続け、シャルロットは酩酊し頭の芯が痺れてきた。
そのあと兄は静かな寝息を立てて眠りにつき、シャルロットはそっと寝台から出た。
兄の看病を再開したが、ずっと動揺していた。
翌日にはレオンスの熱は引き、兄は寮へと戻った。
このときのことをレオンスは覚えていないようだった。
シャルロットは安堵したものの、目を合わせられず、気もそぞろで王宮へ帰ったのだった。




