番外編 秘密の休日1
舞踏会が終わり、指輪の使用法も判明して、シャルロットはほっとしていたが不安なこともあった。
その一つが、エドゥアールとレオンスの仲が険悪なことだ。
ゲーム内では仲が良かった二人だ。これからきっと良好な関係になってくれる、と思うのだが──二人とも激情的なところがあるので心配だった。
◇◇◇◇◇
舞踏会の数週間後、シャルロットは実家のラヴォワ家に帰った。
その日は、父は仕事で留守だった。
兄のレオンスは学院から戻ってきていたが、風邪で寝込んでいた。
屋敷についてから執事にそう聞かされたシャルロットは、レオンスの部屋に急いで向かった。
「お兄様、シャルロットです」
ノックすれば応答があったので、扉を開けて室内に入った。兄は寝台で横になっていた。
静かに歩み寄れば、レオンスはシャルロットにぼんやりと視線を向けた。
「シャルロット、帰ってきたのか」
「はい、お兄様。風邪だと執事に聞きましたが、大丈夫ですか……」
「ああ、少し熱があってね……寮から一旦戻ったんだ」
レオンスの双眸はどこか虚ろだ。
シャルロットはレオンスの額に掌をのせた。するとびっくりするくらい熱い。
「お兄様、高熱ですわ……!」
レオンスは苦笑する。
「たいしたことはない。一晩眠れば治るよ」
兄はすごい熱だし、ぼうっとしているし、シャルロットはおろおろとした。
「お医者様を呼ばないと……!」
動転するシャルロットを落ち着かせるようにレオンスは言う。
「もう診てもらった。サイドテーブルに、出してもらった薬がある」
テーブルに視線を向ければ、確かに薬が置かれてあった。
「屋敷で療養しようと思ったんだけど、おまえに心配をかけるなら、帰らないほうがよかったな……。悪い」
「いいえ、お兄様。わたくしこそ、うるさくしてしまって申し訳ありません」
ゆっくり休んでいる兄の前で狼狽えて騒いでしまった。
レオンスは肩までの髪を揺らせてかぶりを振る。
「オレはおまえの顔を見られて嬉しいよ」
兄は優しい。
シャルロットは自身の手を握りしめた。
「お兄様、熱が下がるまで、どうかわたくしにお兄様のお世話をさせていただけませんか」
「駄目だ、風邪がうつる。おまえは自室に行っておいで」
シャルロットはふるふると首を横に振った。
「以前、お兄様に看病してもらいましたし、今回はわたくしが」
数年前、前世を思い出したとき、シャルロットは熱を出して寝込んだ。
その際、付きっきりでレオンスが世話をしてくれたのだ。そのときの兄の気遣いは心に沁みた。シャルロットは兄に深い感謝を覚えている。
「日々身体を鍛えておりますし、うつったりしません。お兄様のお役に立ちたいのです」
「だが……熱でオレはどんな言動をとってしまうかわからない」
レオンスの双眸は熱のためか潤んでいる。
シャルロットが傍にいるとかえって兄によくないだろうか。迷惑をかけてしまうのなら退室して、消化に良い食事でも作ろう……。
「わたくしがお傍にいるとご迷惑でしょうか……」
レオンスは微笑する。
「いや、おまえがいてくれると嬉しいよ……じゃあ、頼める?」
「はい!」
そしてシャルロットはレオンスについて、身の回りの世話をはじめた。
氷水を入れた洗面器を持ってきて、布を濡らして絞り、レオンスの額にのせる。
高熱だったので、すぐに布は熱くなった。
首も冷やすと、兄は口元を綻ばせた。
「気持ちいい」
「冷たいタオルで、身体も拭きましょうか?」
「いいのかい?」
「もちろんです」
「じゃあ、お願いしようかな」
レオンスは、いつもよりも緩慢な動きでボタンを外し、シャツを脱ぐ。
逞しく引き締まった上半身が見えて、シャルロットはどきっとした。
兄の身体は、神話に出てくる神々の彫刻のように美しかった。
「じゃ、拭いてくれる?」
「は、はい……っ」
シャルロットは慌ててタオルを濡らし、目を泳がせながら兄の上半身を拭きはじめた。
レオンスの身体は熱い。どぎまぎとしつつ、筋肉質で綺麗な背中と厚い胸板を拭いた。
「すっきりするよ」
着替えのシャツを、続き部屋から持ってきてレオンスに差し出したが、兄は首を振った。
「シャツはいい。このまま休むから」
シャルロットはなるべく兄の身体を見ないようにしながら訊いた。
「お水を飲まれますか……?」
レオンスが頷いたので、シャルロットはグラスに水を淹れ、半身を起こす兄にグラスを渡した。兄はこくこくと水を飲む。その喉の動きにも色気がある。
「お兄様、他に何か欲しいものはありますか」
レオンスから空になったグラスを受け取って尋ねれば、兄は言った。
「オレはおまえがほしい」
「悪役令嬢は攻略対象の愛から逃れられない」をお読みくださりありがとうございます。
このたび、講談社Kラノベブックスfさまより、悪役令嬢奮闘ラブコメディ「闇の悪役令嬢は愛されすぎる」の書籍が発売されました!
▼公式サイト
https://www.kodansha.co.jp/comic/products/0000428004
カバーも素敵ですが、口絵も挿絵もすべて最高です。主人公のクリスティンが可愛く、男性キャラ全員が超絶に格好良いです……!!
素晴らしいイラストをたくさん描いてくださっていますので、ぜひぜひお手に取っていただきたいです!
また、「闇の悪役令嬢は愛されすぎる」コミカライズが、漫画アプリPalcyさまにて連載開始しております。
毎週金曜日に更新予定です。
▼コミカライズ1話
https://palcy.jp/comics/2576
おすすめの物語になりますので、書籍・コミカライズともに、どうぞよろしくお願いいたします!
(↓にリンクがあります)




