表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/31

25話 ふたりの記念日

「結婚して欲しい」


 いろいろ考えたが、結局はストレートな言葉になった。


「え、晴くん、それって……」


 突然、求婚されて、古都子の焦燥もかなりのものだ。

 五月になって、晴臣からプレゼントを渡したいと言われ、素直に喜んでいた古都子。

 だが今は、あまりの事態の急変について行けてない。


「今すぐじゃなくて、卒業したらって話だけど」

「あ、ああ、そうよね、卒業……」

「この世界では、18歳から結婚していいらしい」


 晴臣は懐から、指輪の入った箱を取り出す。

 宝飾店の店主から、一般的な女性の指のサイズにしてありますが、サイズの変更はいつでも可能ですと言われている。

 一般的な女性の指のサイズも、古都子の指のサイズも知らない晴臣は、全てを店主に託した。

 そして宝石は、ダイヤモンドを選んだ。

 日本では、結婚指輪と言えば、ダイヤモンドだったはずだ。


 晴臣は古都子の前で、ぱかりと箱を開ける。

 そして指輪が見えるようにして、それを差し出した。


「ずっと古都子が好きだった。5歳のときから」

「っ!!」

 

 古都子の瞳に涙が満ちる。

 晴臣は古都子のヒーローだった。

 それこそ5歳のときから、古都子だって恋い慕っていたのだ。


「わた、私も、5歳の、とき、からっ!」


 返事をしようと思うが、声が震えてままならない。

 だが晴臣は、古都子の意思を、正確に受け取ってくれたようだ。

 ふんわりと微笑むと、箱ごと指輪を、古都子の手のひらに押しつけて来た。


「ん」

「これ、もらっていいの? すごく、高そうだけど……」

「ん!」


 さっきまで流暢に話していたが、両想いになった途端、晴臣の語彙が死んだ。

 真っ赤な顔をしたふたりを、春の陽気が温かく包む。

 すでに学園の中では公認の仲だったが、ようやく正式に恋人同士となったのだ。


「晴くん、指輪、はめてくれる?」

「ん」


 そっと古都子が左手を差し出し、晴臣はその薬指へ指輪を通す。

 店主に任せて間違いはなかったようだ。

 指輪は古都子に誂えたようにぴったりだった。


「嬉しい。すごく嬉しいよ、晴くん」


 涙を流す古都子がいじらしくて、晴臣はたまらず抱き締めた。

 そしてさんざん迷った末に、そっと古都子の唇にキスをした。

 たった一瞬、触れ合っただけだったが、全身の血が沸いたように熱くなり、晴臣はそれからの記憶が曖昧だ。

 しかし、古都子も同じ状態だったので、何の問題もなかった。


 ぎくしゃくしながら、ふたりは手を繋ぎ、寮までの道を歩いて帰った。

 これからは古都子の誕生日が、ふたりの記念日となる。

 

 ◇◆◇


「おめでとう、コトコ。無事にハルオミと恋人同士になったみたいね」

「ありがとうございます、ソフィアさま」


 次の日、まだ何もしゃべっていないのに、ソフィアに見抜かれた。

 指輪だって、高価なものだからと、寮に置いてきたのに。


「あの、どうして分かったんですか?」

「ピンク色のオーラが出ているのよ」

「え!?」

 

 古都子は、自分の周りを見渡す。

 しかし、どこにも色はついてなかった。

 

「卒業式でコトコをエスコートするのは、ハルオミに決まりね。今後のダンスの授業は、なるべくハルオミとペアになるといいわ。踊り慣れた相手の方が、本番で緊張しなくて済むから」


 魔法学園の卒業式には国王も列席し、その御前で男女がペアになってダンスを踊る場面がある。

 そのため、三年生は授業の中でダンスの練習をするのだ。

 ちなみに、ソフィアはオラヴィと、ミカエルはエッラとペアを組むそうだ。

 ダンスの間だけ、護衛対象を入れ替えて、警備を続けるのだとか。


「私、ダンスの授業を、とても楽しみにしているのよ。……オラヴィと踊れる機会は、こんなときしかないから」

 

 ソフィアの最後の言葉は、小さすぎて古都子には届かなかった。


 ◇◆◇


 古都子たちが魔法学園を卒業するには、試験を受けて合格する必要がある。

 試験はこれまでの学習の集大成とも言えるもので、己の魔法の属性をどれだけ理解し、いかに駆使できるかを証明しなくてはならない。

 

「証明って難しいなあ。審査する先生が、はっきりそれと分からないと、駄目なんだよね?」

「何らかの役に立てば、いいんだと思う」

 

 放課後の教室に残った古都子と晴臣は、どんな魔法をつかおうか頭を悩ませていた。


「俺はドーンと雷を落とすぜ! それで電池を満タンにするんだ」

「ミカエル殿下のは、派手なんだか地味なんだか、よく分かりませんよね」


 ミカエルの案に、オラヴィが突っ込む。


「エッラは、牛の丸焼きをつくると言っていたわね。会場を焼かないようにね」

「鶏は消し炭になったんですけど、牛なら大丈夫だと思うんですよ!」

 

 ソフィアの質問に軽快に答えているエッラには、不安しかない。


「私は草魔法で、成長の速い農作物を開発しているの。将来は研究職に就きたいから、新しい技術を生み出せるという部分を、試験でアピールしようかと思って」


 ソフィアが恥ずかしそうに打ち明ける。

 周囲からは女王にと望まれているが、本人の希望は違うようだ。

 古都子は、同じ研究者を目指すソフィアの言葉に、ヒントをもらう。


「研究者になるには、試験でのアピールが大切なんですね」

「就職先は、本人の希望と試験の結果が考慮されるわ。コトコも研究者を目指しているの?」

「はい、できれば王城の研究室に所属したいと思っています」


 ミカエルとソフィアが、顔を見合わせる。

 そして同時に、「あのアンテロ伯父さまの?」と呟いた。


「晴くんが王城の騎士になるなら、私も同じ職場がいいなと思って」


 隣に晴臣がいるため、どうしても古都子の顔は赤くなる。

 オラヴィとエッラは微笑ましくそれを見ているが、ミカエルとソフィアの反応は違った。


「コトコの土魔法はすごいから、就職もそれを活かした方がいいとは思う! だけど……」

「あそこを研究室と言ってもいいのか、どうか……。それは、人によって評価が分かれるでしょうね」


 つまりふたりとも、職場にするのは微妙だと言いたいのだ。

 ホランティ伯爵から、王城の研究室の能力は高めだと聞いていた。

 つまり問題があるのは、王兄アンテロなのだろうか。

 古都子が考えていると、教室の戸締りをしに、ユリウスがやってきた。


「そろそろ鍵を閉めるけど?」

「ユリウス先生、大変なんだ! コトコが、アンテロ伯父さまの研究室へ、所属したいんだって!」

「あの研究室がどういった環境なのか、コトコに説明してあげてください」

 

 訴えるミカエルとソフィアに、ユリウスは首を傾げる。


「いいことじゃないか? あの研究室はなぜか年中、人手不足だと聞いている。きっと兄上も、即戦力となるコトコの加入を喜ぶだろう」

「そうかもしれないけど! アンテロ伯父さまの思考回路は、独特だよね?」

「あの人格に慣れるには、相当の時間がかかると思います。退職者が多い理由はそれですよ」


 しかし、ユリウスはそこまで問題と捉えていないようだ。


「アンテロ兄上は、ちょっと研究者気質なだけじゃないかな?」

「あれが、ちょっとおおおお!?」

「ユリウス先生は兄弟として過ごした年月があるから、分からなくなってるんだわ」


 驚愕するミカエルと、嘆息するソフィア。

 

「興味のあるものしか開発しないけど、開発したらすごいだろう?」


 アンテロの肩を持つユリウスは、その成果を褒める。

 人間性は別として、研究者としては立派だと言いたいのだろう。


「合う合わないは、人によると思うよ。コトコは案外、アンテロ兄上と気が合いそうだ」

「そ、そうでしょうか?」


 渋い顔をしているミカエルとソフィアには申し訳ないが、ユリウスに勧められたので、古都子は目標設定をそのままで行くことにする。


「そうだ、ハルオミ、卒業試験は全力を出していい。これまで、こそこそと闇魔法をつかわせてしまって、悪かったね」

「いえ、身を護るためだったので」


 これまで晴臣は、実技の授業中も、もやもやした影を揺らす程度の、初歩の闇魔法しか使わなかった。

 それは、正確な魔法のレベルを察せられると、他国から狙われる可能性が高くなるからだ。

 ユリウスに言われて力量を制御していたが、さすがに試験は本気で挑んでいいようだ。


「さて、じゃあ鍵を閉めるよ。みんな、教室の外へ出て」


 そしてその場はお開きとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ