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男と男の付き合い

「きみが女性だと気がついてから、あ、そうだった。本当にすまない。出会ったばかりのころには、気がついていなかったんだ。だから最初の夜、いっしょのテントで眠ってしまって……。あれは、本当にすまないと思っている。あの夜は、誓って何もしていない。きみに指一つ触れていない。そこは、信じてくれていい。きみは、豪快なイビキと寝言と歯ぎしりだったから……。そうだった。あのときには言わなかったが、寝相も豪快だった。何度も蹴りつけられたり殴りつけられたりしたし、体の上に乗っかられたりもした。ああ、くそっ!そういう点では、きみに触れているな。だけど、それはぼく・・自身の意志じゃない。とにかく、そんな感じだったから、きみは男だとばかり思い込んでいた。だが、そのあとにリベリオの様子がおかしいことに気がつき、きみをじっくり観察してそこでやっと気がついたんだ」

「うそっ!イビキや寝言や歯ぎしりだけじゃなく、寝相まで悪かったの?」


 われながらビックリだわ。


「あ、いや、まぁ……。とにかく、きみが女性だと気がついてから、その、きみへの想いが……。だけどぼく(・・)は勇気が持てなくて、それだったらこのまま男どうしの付き合いの方がいいかな、と」

「はい。わたしたちって、とってもいいお付き合いですよね?」


 これが男女の付き合いということになると、それこそ小説の中みたいにおかしな風になってしまったに違いない。


「だが、やはり意識してしまう。それももう限界に近い」

「限界に近い?」


 そういえば、リベリオも同じことを言っていたわね。


 なるほど。限界に近いというのは、男どうしの付き合いにも限りがあるというわけね。


 それはそうよね。わたしは女性なわけで、それを男どうしというには限りがあるわよね。


「エドモンド様、すみません。だましていることもそうですけど、わたしが女性だから男どうしのお付き合いが出来なくって」

「はあ?いや、何かちがう……」

「でも、どんなお付き合いでもがんばります。さすがに真っ裸で、というのはムリですけど」

「真っ裸っ?」


 彼は、叫ぶなりわたしの手をはなしてのけぞった。真っ赤な顔は、高熱が出ているようにしか見えない。

 彼、本当に大丈夫なのかしら?


 わたしが心配している中、彼は急に前かがみになった。


「エドモンド様、やはり具合が悪いんじゃないですか」


 彼を介抱しようと、両腕を伸ばそうとした。


「触れないでくれ。だ、大丈夫。大丈夫だから」


 だけど、彼は必死に断って来た。


「コンコンッ!」


 そのとき、扉がノックされた。


 その大きな音にビックリし、反射的に振り向いた。

 すると、扉が全開になっている。


 皇太子殿下が、その片方の扉にもたれてこちらをじっと見ている。


 彼のこの世の物とは思えない美形には、ニヤニヤ笑いが浮かんでいる。


エド(・・)。せっかくリベリオがあたえてくれたチャンスをいかせなかったのは、おまえが不甲斐なさすぎるからだ。リベリオがおまえの味方であるように、ロゼッタがわたしの味方についてくれている。彼女、部屋に告げに来てくれた。居間にミオがいるからいまのうちだ、とな。それで来てみれば、どうだ?情けないおまえを見ることになった。これで文句はなし、だろう?つぎは、おれ・・の番だ。おまえは、さっさと素振りをするなり悔し涙を流すなりするといい」

兄さん・・・……」


 皇太子殿下のいつにないきつい言い方に、エドモンドは泣きそうな表情になっている。


「ベルトランド様、そんな意地悪な言い方をなさらなくっても。お二人がいっしょでもかまいませんよ。好みが違ったとしても、まだ時間はあります。それぞれ楽しんでただけると思います。ですが、エドモンド様は具合が悪いようですから」


 なにせ「黒バラの暗殺者」シリーズは、話数が多い。そして「黒バラ」の暗殺スキルやターゲットの心をつかむ手段は、じつに多岐に渡る。皇太子殿下とエドモンドがバラバラの趣向を好むとしても、その章を完璧に語ることが出来る。


 エドモンドさえよければ、だけど。


「せっかくなのです。三人で楽しみましょう」


 提案した瞬間、うしろでガタンと音がした。


「エドッ!」

「きゃあっ!エドモンド様っ」


 振り向くと、エドモンドが長椅子から落ちているじゃない。

 彼は、上半身を折ったまま長椅子とローテーブルの間でうずくまって苦しそうにしている。



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